第45話アリー達は褒賞を受けたくない
「先ずは第一騎士団小隊長ラナ。貴殿には新たに創設される第13騎士団長を命じる」
「......は? それはあまりに酷い! いえ、過分な褒賞ではないでしょうか?」
「何を言う。貴殿の書いた報告書から読み取ると、貴殿は優れた指揮をしておった。当然じゃろう? そもそも、貴殿はS級魔法剣士、小隊長などで収まる器である筈がないじゃろう」
「......そ、それは」
ラナが能力や人望にも関わらず昇進が遅れているのは、貴族特有の問題だった。彼女は公式には実家から勘当されている。通常、こういう経歴だと昇進に響く。
「貴殿のことは聞いたことがある。なに、ワシに任せよ」
王は王という立場にも関わらず、ラナにウィンクをして空気を和らげた。
「御意のままに」
ラナは観念した。
「続いて騎士エイル、ヘリヤ。貴殿らは、騎士団中隊長に命じる。配属先は追って通達する」
「ま、待って下さいまし!」
「そうです。それではラナ様と違う部隊に!」
エイルとヘリヤはラナを慕って実家を捨ててラナと同じく魔法学園特待生となった経歴がある。ラナと離れ離れになるなど、考えられない。
「ほう? ワシの決定に不服があるとな?」
「い、いえ」
「そういう訳では」
流石に王を怒らせたかと萎んでしまう二人。
「不服では仕方がない。二人はラナ直下の騎士団大隊長に任命する」
「ええ!」
「だ、大隊長?」
「うむ? まだ不服か?」
王はそういうが、顔が笑っている。完全に二人は遊ばれているのだ。
「ご、ございません」
「か、過大な褒美、謹んで拝領します」
そう言うよりなかった。これ以上言うと、もっと褒美を大きくされそうである。
「次にグラキエス家次女ソフィア、そなたには王国国教会の公式認定聖女となってもらう」
「せ、聖女様ですか? 私如きが?」
「ほお、史上二番目の無詠唱魔法の使い手、それも回復術士に適切な職ではないか? しかも、そなた、非常識にも治癒魔法を呪われた竜に投射したというではないか? 正しく聖女じゃな。今後、呪いの魔物が出た際には心強い限りだ」
「そ、そんな」
「それと褒賞金として金貨10,000枚与えると同時に男爵夫人の刑、失敬、叙する」
「ひえッ」
何故か膝と手をついて観念するソフィア。いや、ラナや他の騎士達もそうなのだが、感覚は正義の黄門様に悪人が沙汰を言い渡されたような風体である。
「さて、問題のグラキエス家の三女アリーの処罰、いやごほん、褒賞じゃった。少々更に検討する必要が生じた。そなたは既に氷の魔術師ウィリアム・アクアより七賢人への推薦状が出ておる。まずはウィリアム・アクアより説明を要求する」
王がそう言うと、一人の理知的なメガネの男とが壇上へと進みでた。
「承知致しました。これより、アリー嬢の開発した10年ぶりの新たな魔法【フリーズ・バレット】の説明をさせて頂きます。この成果はまさしく七賢人に相応しい功績、そして、更なる功績の期待が持てるものです」
「よい。説明せよ」
「承知しました。先ずは通常の攻撃魔法についてですが、これまで威力と速度を両立すると、大きさが大きくなるという点がございました。これまで、これに欠点があるなどと考えた魔法使いは一人もおりませんでした」
七賢人、ウィリアム・アクアは王と、この場を見渡し、もったいつけると更に続けた。
「アリー嬢の創作した魔法は直径わずか5.56mmの氷の弾丸にファイヤー・アロー並の魔力を込め、速度の向上に成功しております。また、最近の研究で判明したことですが、金属装甲や魔物の鱗などを貫通するには、同じ魔力なら、大きな弾丸より小さな弾丸の方が面積あたりの魔力威力により、容易に貫通できることが判明しております。騎士ラナ殿の報告によると、アリー嬢は更に進化させて、小さな氷の弾丸にファイヤーボール並の魔力を込めたと思われます」
おおー!!!
会場がどよめく。そう、アリーの魔法は100年先を行っていた。それにウィリアムは気が付いたのだ。最初は速度においてフリーズ・バレットが優れていることに、そして次に貫通能力においても優れていることに気が付いた。
彼がアリーの実家で、自身が舞い落ちる木の葉に穴を穿つことができないと気が付いた時、全て気が付いた。そもそも、省略魔法では、発動する頃には木の葉は落ちてしまい、機会を逃したり、十分な照準などできる筈がない。
「以上の点だけでも七賢人に相応しい功績ですが、彼女には歴史上初の無詠唱魔法の使い手であるという疑いが」
そう言うと、アリーの顔を見た。
「ヒェッ!」
こほんと咳をして、再びアリーの方を見た。アリーの顔は赤くなったり、青くなったりとして、一瞬悲鳴を上げた。アリーが狼狽しているのを見てとると、ニヤリと笑みを浮かべ更に続けた。
「失礼。アリー嬢は容疑者ではございませんね。疑いではなく、推測がありました。今回の討伐報告で、それは実証されております。故に、アリー嬢こそが、空席の七人目の七賢人に相応しいと申し上げます」
「ふむ、大儀であった。よくぞ、これだけの人材を見出した。そなたには別途褒賞を与えんとな」
「恐れ入ります」
王はふむと頷くと次の証言者を呼んだ。
「次にグラキエス男爵領アルデンヌの街の冒険者副ギルド長、エグベルドをここへ」
そこに現れたのは、あのアリーの涙によって命を救われた冒険者ギルドのエグベルドだった。
「エ! エグベルドさん! い、生きて!」
アリーが思わず声を上げる。
エグベルドがアリーの方を見て笑顔で。
「その節はありがとうございました。【沈黙の聖女様】」
「へ?」
何故かの聖女扱いに困惑するアリーだった。
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