第44話アリーは恩賞を受ける

アリーとソフィア、王国騎士ラナとエイル、ヘリヤ の5人は王城の謁見の間の前室にいた。


国王からお褒めの言葉を頂戴するためだ。 伝説の呪われた黒竜王を倒したのだから当然と言えば当然のことだ。


「なんか、あんまり過大なご褒美とか用意されると困よね」


「あ、ま、そうだなぁ」


「そうね」


お気楽に言うアリーだったが、ラナも姉のソフィアも表情が硬い。何故なら過大というか、膨大なご褒美が用意されているに決まっているのだ。それだけのことを成し遂げてしまったのだから。


それで、ラナやソフィア、エイル、ヘリヤ達の考えていたことは。


『全部アリー嬢、ソフィア嬢とラナ様だけのせいにしよう』←エイル、ヘリヤ


『全部アリーとソフィアのせいにしよう』←ラナ


『全部アリーのせいにしよう』←ソフィア


彼女らは善人であり、欲がなく、むしろ自分達に不相応な褒美を用意されることを嫌った。


......謙遜と遠慮。通常美徳だが、何故か皆、人のせいにしようと考えている。


不思議な美徳である。


皆がそんなことを思っていると騎士の一人が案内をしてくれた。


「英雄の皆様、準備が整いました。さあ、謁見の間にお入り下さい」


「ありがとうございます。では、入ります」


「英雄の皆様方をご案内できて光栄です!」


大げさな騎士は敬礼すると、ドアを開けた。


そして、ラナを筆頭に皆が続く。


「「「「「おおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」


アリー達が謁見の間に入ると大歓声が聞こえた。


アリーはちょっとびびったが騎士や官吏、そして王族、上級貴族達の歓迎の意だと気づいて躊躇うことを止めて国王の前まで敷き詰められた赤い絨毯の上を歩いて行く。


国王の前に来ると王への敬意と忠誠の証として膝を折り、皆、頭を下げた。


「顔をあげよ、英雄ラナとその仲間よ」


「は! ありがたきお言葉に感謝します」


ラナとアリー達は国王へ顔を上げる。


王は穏やかな顔で皆を見ていた。その目は優しいが、理知的な風貌と鋭い目が唯の善人ではないことを伺い知る。

国王は柔らかい笑みを浮かべると、ラナに向かって言った。


「先ずは英雄ラナとその一行よ。人類の敵、呪われた黒竜王を倒した功績、見事である。王として国民を代表して感謝の意を表すぞ」


「過分なお言葉です。しかしながら、今回の竜の討伐、報告通り、ほぼここにいるグラキエス家次女ソフィア嬢、三女アリー嬢の二人のみによってのことでした。お褒めの言葉は是非この二人にのみお願いいたします」


「発言をお許しください」


「良いぞ、ソフィア嬢」


「ありがたき幸せです。ラナ様の適切なご指導のおかげで少しだけ貢献することができました。それにラナ様達の武技がなかったら、今頃、私もアリーも、今この場にはおりませんでした。......決して......決して私達二人だけのせいじゃないんです!」


「......は?」


王は困惑した。これだけの成果を上げた以上、過大な褒美と我こそが如何に活躍したかが言い争いになることがある恩賞の機会に......成果を謙遜、それどころか......せい?


「いえ、私如き、何もできておりません。これは全部アリー嬢とソフィア嬢のせいなんです」


ラナが必死に声を上げる。彼女やエイル、ヘリヤは王旗下の騎士なので発言の許可を得る必要はない。


「いえ、違います! アリー嬢とソフィア嬢とラナ様だけが活躍されたんです」


「そうです。私なんて、1回武技を放っただけで、ものの3分で戦いは終わってしまいましたので」


エイル、ヘリヤは敬愛するラナには恩賞を受けて欲しいというラナにとって迷惑な忠誠心を発揮していた。


「......さ、三分」


誰かが王の御前にも関わらず思わずこぼしてしまった。


すると同時に場がざわざわし始めた。誰もが伝説の災害竜をさぞかし激戦の上、打ち破ったのだろうと考えていた。まさか3分で瞬殺したなどと思いもよらなかった。


しかし、その空気にソフィアは耐えられなかった。


「エイル様、ヘリヤ様の仰っている通りです。ラナ様やエイル様、ヘリヤ様のお力添えがあったからこそです」


「ちょっと、巻き込まないでよソフィア!」


「そうです。武技一回放っただけで恩賞なんてもらえないもの、それ位空気を察して! 全部ラナ様とあなたとアリーのせいなんだから!」


王はこの善人過ぎる勇者達に好感を持たざるを得なかった。


だが、ソフィア、ラナ、エイル、ヘリヤは何故かいさかいを始めてしまった。


「ちょっと、ソフィア、酷いわよ。なんで私を巻き込むの?」


「だって、ラナさんが私達だけのせいにしようとするから」


「いや、事実上そうでしょう? あんなことできるのあなた達姉妹以外にいないわよ」


「そんな、人を非常識人みたいに言わないでください!」


『いや、自覚持てよ!』


聖剣は一人突っ込んだ。アリーもだが、ソフィアも十分非常識な人物だ。


いさかいを始めて、それぞれが人のせいにしようとしている中で、皆、はたと気が付く。


この場で、ボケッとしている人物がいることに。それも一番の立役者がいることに。


それで、勝手に話しあった。寛大な王はクククッと笑い、看過していた。


「話あった結果を申し上げます。全員の総意です」


「うむ、騎士ラナよ申してみよ」


「「「「全部アリー一人のせいなんです」」」」


「えええええ!?」


今更の事態に驚くアリー。だが、もう後の祭り......とはならなかった。


「はっはっはっはっは。実に愉快だ。ワシの目の前で女子会を開くのも非常に面白い経験じゃが、その謙遜しあう姿、誠に感心に値する」


「え?」


「いえ」


「わわ」


「ちが」


思わぬ方向に話が進んでしまって、困惑する4人。


「騎士ラナの報告と竜を調査した調査隊の報告を元に恩賞を与える。事前に考えておった恩賞を再考する。褒美は更に弾まんといかんな。わっはははははっは」


......なんで......なんでこうなった? ラナ達は皆、そう思うのであった。

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