第41話アリーは言いたいことをいいたい
「.......クッ!」
リラゴは剣を杖代わりに起き上がるが、脳震盪を起こしたのか、目の焦点が合っていない。
「こいつらを売れば......金が。もう冒険者なんてしなくてもいいのに、何のために育てたのか?」
「この二人は王国の未来を担う人材です。あなた達があくまで反抗するのであれば、今すぐ王都へ早馬を走らせ、グラキエス家は王の意向に逆らったと報告します。処刑にならなければいいですね」
ラナは剣を納めて、丁寧な言葉使いではあったが、そのところどころに棘があり、容赦なかった。
そうやって、グラキエス家のぼんくら共にもわかるように言ったつもりだった。
だが。
「……なぜ!」
突然、家長のジャックがわめき出した。
「なぜアリーに魔法が使える? 魔力0のハズレスキルに使える訳がない!」
「お父様。アリーは何年もかけて、唯一使える氷の生活魔法を攻撃魔法のレベルまで昇華させたのです。努力の賜物です。この子は誰よりも偉いんです。この子はスキルの加護にも頼らず魔法を使っているんですから」
「ソフィア! 知っていたんなら、何故黙っていた?」
「(そりゃ、君のお姉さんは頭がいいから、知られたら、自分同様、金目当てでどうにかされると思ったからだよな?)」
「(え? そうなの?)」
やはり、わかっていないアリー。
「それはあなたが一番おわかりなのでは?」
「ワシが? ワシが一体どうやってわかると言うんだぁ!」
ラナは思わずため息を吐いた。嫌味すら伝わらない。
「それよりアリー。どうせ王都の魔法学園に行くなら、その白い綺麗なドレスを置いて行きなさい。置いて行くわよね? 普通?」
「……いやです」
アリーは初めてエリザベスの言葉を拒んだ。
「生意気ね! 私がよこしなさいと言っているのよ!」
例によって、般若のごとく顔を歪ませて、アリーに凄んで来る。
アリーは身を縮ませた。子供の頃からの折檻や迫害が反射的にそうさせる。
「……アリー」
すかさずアリーの肩を抱き。愛する妹を庇うように抱きしめるソフィア。
「黙れ! 貴様の話はもう聞きたくない!」
ラナが大声を張り上げた。
「――ッ……」
あまりの剣幕に流石のエリザベスも喉を詰まらせる。
「アリー嬢。あなたがこの家に戻ることは二度とありません。七賢人が一人となるあなたにとって、どうでもいい存在でしょうが、一言、この人に何か言ってあげては如何?」
「な、七賢人?」
「ア、アリーが? 嘘よぉ!」
「そ、そんな、金づるがぁ!」
アリーはそんな家族の言葉で目が覚めた。自分はこの人達といつかのようにご飯を一緒に食べたかった。でも、それは誤りだった。自分を大切にしてくれたのはソフィアだけ。
ならば。
「さようなら、才能のないエリザベスお姉さま」
みなぎょっとしている。才能0と思われていたアリーが七賢人となる。アリーから見れば、エリザベスは当然才能のないたかが小娘風情だ。だが、それをアリーが口にしたことが衝撃だった。
エリザベスの顔は赤くなったり、青くなったりと、まるでタコの擬態のようだが、流石に未来の七賢人様に言い返すことはできない。
そして、ほどなくして、グラキエス家一行はすごすごと去って行った。そして冒険者ギルドに沈黙が訪れた。
「ソフィア嬢、今の一件はなかったこと......それでいいわね?」
「は、はい」
「え? ふぁい?」
ラナはソフィアの方を向いて、先程の騒動をなかったものと確認した。
「(どういうこと? どう考えても、お巡りさん案件よね?)」
「(アリー、もし、君の両親や家族が王に反旗を翻した罪人となったら、君やお姉さんの未来はどうなる?)」
「(はうッ!)」
ラナはたかが辺境の男爵家を取り潰したところで、何もメリットがないと考えていた。
彼らがしたことは大罪だが、その被害者であるアリー達に被害が及ぶのは、これまたメリットがないと考えていた。特にアリーは七賢人となる人物である。
その両親が犯罪者では、場合によっては七賢人への道が閉ざされる可能性すらある。
総合的に考えて、なかったことし、同じ過ちが起きないうちに、さっさとこの街を後にすべきと考えた。
「では、すぐにでもこの街を出立しよう」
ラナと二人の騎士にエスコートされて、アリーたちはそのまま馬で、グラキエス領の街を出発したのである。
「(さよなら、私のおうち)」
見慣れた街をラナの馬の後ろに乗って、王都に向かって去るアリー。
ソフィアも同様なのか、騎士エイルの馬の後ろに乗って、感慨深そうな表情をしていた。
こうして、アリーたちは一路王都を目指して旅立った。途中、とんでもない魔物と遭遇するとも知らずに。
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