第24話小悪党エミリアはとんずらしたい
逃げなきゃ! 逃げなきゃ! 逃げなきゃだめだ!
ケルンの小悪党な冒険者ギルド長エミリアは必死に自分の家に逃げ帰っていた。
死地に追いやった筈のアリーは確実に生きている。
そして、確実に自分を消しに来る
『愚かなる者よ—死ぬがよい』
自分の首が一瞬で撥ねられるさまが頭に鮮明映る。
早く夜逃げの準備をして、この街をトンズラしないと! まだ夜じゃないけど!
その時!
コンコン
誰かがドアをノックする。
「(誰よー! 今、めちゃ、めちゃ忙しいの! ていうか、命かかってんのよ! わかれー!)」
と、思ったものの、自分の悲しい境遇を知っている者はアリーしかいないのでやむを得ずドアを開ける。
意外と律儀な小悪党である。
「こふぇ……かはッ!」
変な声が出てしまった。
「(な、なんでここがわかったの?)」
ドアの外にいたのは、なんとあのアリーだった、魔王の。
「ど、ど、ど、どうなされましたか? て言うか、どうしてここが?」
「エメリアさんに真っ先に言いたくて! それと、エミリアさん、バレバレですよww」
「こふぇ……ぐ」
またしても変な声が出てしまう。監視下に置かれてる……それに。
「(ふ、ふ……おかしいの……ふ、増えてる)」
アリーの肩には一匹の子竜がのっていた。はたから見ると可愛いペットを肩に乗っけているだけだが、オーラが見えるエミリアには……
魔王? 魔王でしょ? 使い魔が魔王クラスの魔王でしょ?
アリーには青白い巨大なオーラが、子竜には何処までも深淵なる闇の巨大なオーラが見えた。
「あ、あの、アリーさまはどうやってここに?」
「え? 普通に歩いて来ましたよ」
ガンガンガンッ!
思わず壁に頭を打ちつける。
「(みんな魔王が普通に街の中歩いているのに誰も気がつかないの? 不感症? 馬鹿なの? この街、終わったわよ!)」
「どうしたんですか? エミリアさん?」
「あ! いえ、自分の過ちを正そうとした、だふぇ…..ぐ」
エミリアは噛んだ。
「どうしたんですか? それに何を正そうと?」
「はひ。間違えて、誰も生きて帰ったことのない魔の山をご案内してしまって。もしかして……難しかったかなぁーなんて、あは♡」
エミリアは既に自分が何を言っているのかわからない錯乱状態だった。自白をしてしまった。
「大丈夫ですよ。エミリアさん—とーーても簡単でしたよ。ありがとうございます」
「(ふがッ! か、簡単? 魔、魔の山……が……簡単?)」
エミリアはもう泣きそうだった。
「安心してください。割と簡単に薬草も採取できたし、この子も保護できたし」
「ぶはぁ」
子竜を撫でるアリーを見て、エミリアは悟った。
「(しょ、しょれ、あんこくりゅーでしゅ)」
何故か脳内の言葉が幼稚園レベルに下がって、とうとう泣き出してしまった。
それを見たアリーは。
「私のこと心配してくれていたんですね。ありがとうございます。エミリアさん」
そういうと、エミリアの胸をギュッと抱き締めた。
「(こ、殺される。このまま体をへし折られて死ぬんだ)」
「こ……殺さ……ないで、ふえっ、ええッん」
エミリアはギャン泣きするのだった。そして、つられてアリーもギャン泣きする。
「こ、こんなに心配してくれふぇ」
アリーも噛んだ。しかし、恩人に報いようと思考を巡らせ。
「エミリアさん、家族っていいですよね。私にもお姉ちゃんがいるんです」
「ふ、ふぁい、わらしにもいます」
意外だが、エミリアは家族想いで、愛する妹や両親がいた。
「これは、今回のお礼です。受け取ってください」
そう言うと、アリーはポーションの瓶を取り出すと、エミリアに渡した。
エミリアの脳内ではこう聞こえた。
『矮小なる愚か者。家族の命か己の命だけか選ぶよい』
「あ、あ、あ—-あ」
既に問題が自分の命だけではなく、愛する妹や両親にまで及んでいると悟ると、エミリアは何かを諦めた。
「……あ、ありがたき幸せです。死を賜ります」
「へ?」
アリーは一瞬、不思議そうな顔をするが、エミリアはポーションの封を切ると、一気飲みした。
「(お父さん、お母さん、二人より早く死んじゃってごめんなさい……そんなつもりはなかったのに……馬鹿な娘でごめんなさい。サリー、ごめんね。お姉ちゃん、もう、サリーに誕生日のプレゼントを贈ってあげられない)」
エミリアがポーションを飲んだところを見ると、アリーはぺこりと頭を下げる。
「今日はありがとうございました」
そう言うと、アリーは慌てて去って行った。
エミリアはスグに死なないので、遅効性の毒で、少しづつジワジワ効いて来る毒だと思ったが、全然死ぬ気配がない。
「あれー!?」
アリーが渡したのは魔の山で採集した幻の薬草アネモネを生成したポーションだった。
その効能は……魔力障害の回復だった。
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