第14話アリーは聖女として目を付けられる

アリーが街の外の森へ向かっている頃、副ギルド長エグベルドは、アリーから提供されたポーション100本を持って、ギルドに出社した。


「一体どうしたんだ?」


見ると、ギルド内に負傷した冒険者が10人はいる。


「大変です。昨日の夜の魔物退治の依頼を受けた中級パーティが命からがら帰還したんです」


「そうか。わかった。命には代えられない。ギルドに保管してある治癒ポーションを使っていい」


「それが、今、ポーションの在庫がないんです!」


「何!」


受付嬢から悲痛な声があがる。


ギルドには通常治癒ポーションや解毒のポーションが保管されているが、善人の彼はそれを無償で提供しようとした。しかし、運悪く、在庫を切らしていた。


はっ!


彼は自分がポーションを100本も持って来たことを思い出した。アリーの作ったものだ。


「これを使え。初心者が作ったものだが、私の妻の折り紙付きだ」


「まあ、奥様の!」


受付嬢はエグベルドからポーションを受け取ると、冒険者たちに手早く手渡した。


「ありがてぇ! 早速!」


「おい、嚙みちぎられた手や足が生えて来ちまったぞ!」


「おい、手が3本になっちまった、これ、効きすぎじゃねぇか?」


「おい、間違えて飲ませたら、死んじまった奴が生き返っちまったぞ!」


受付嬢も副ギルド長エグベルドも呆然としていた。


つい先程まで目の前で死にかけていた冒険者達が一瞬で治癒された。


その意味するところは、


「「これ、エリクシール(最上級治癒薬)!!」」


二人の声がハモる。


そして、エグベルドは再びハッとする。


エリクシールを1本持つと、霊安室に向かった。


そこには、あの悪辣な中級冒険者パーティ銀の鱗によって殺害された、新人冒険者の遺体が安置されていた。


ゴクリ。


エグベルドは思わず生唾を飲み込んだ。


このポーションが真のエリクシールならば、この少女は蘇生できる。


死者は3日以内なら蘇生可能と言われている。


それ以上は魂が天界に召され、二度と生き返ることはない。


少女の口にエリクシールを含ませると。


「ん、んん」


まさに奇跡が起きた。


「え? その子生き返ったんですか?」


後から駆け付けた受付嬢が驚きの声を上げる。


「一体、このポーションは何処で手に入れられたのですか? こんなの国王の宝物庫にしかありませんよ」


「......実は」


エグベルドは昨日アリーと出会い、一晩の宿を提供して、その見返りにポーションをもらったことを受付嬢に話した。


「まあ、あの女の子も生きていたのですか。しかし......白い翼を持ち、飛んで来た聖人と言えば、あの伝説のせ、聖女様では?」


「はっ!」


エグベルドは今日何度目かわからなハッをした。


この街には古い伝説がある。ある日、空から白い翼を広げ、立ち寄った聖女。彼女は数々の奇跡で街の者を救い、多くの治癒魔法をこの地に広め、スタンビードにより街が存亡の危機に陥った際にも共に戦い、街を救った。


だが、その聖人は生まれつき声を出すことができず、皆の感謝の言葉にも、ただ、笑顔で答えるのみ。彼女の周りは絶えず沈黙に支配されていた。


それで、街の人々は彼女に敬意と感謝の意を込めて、こう呼んだ。


『沈黙の聖女』


そして、既に何百年も経っていたが、この伝説はこの街の人々の心の中に根差し、聖女に助けられたのだから、困っている人がいれば助け、善人であろうと考える者が多い。


この伝説は更に後日譚がある。沈黙の聖女が後に遠方の地で、非業の死を遂げたことを知ると、街の人々は悲しみ、聖女の復活を祈った。


多くの人々を生き返らせた聖女を生き返らせる者はいなかったという、皮肉な結末に、いつの頃からか、この街の古い土着信仰である、女神の復活譚と合わさり、聖女の復活の予言ができあがった。


『500年の後、再び沈黙の聖女様が現れ、この街を救ってくださる』


そして、再び白い翼を持つ聖女がこの街に舞い降りたのである。

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