第60話 なんでも吸い取ります

 あれからずっと和やかなムードが漂っている。俺達はモニターの前で触ってずっと画面を眺めていた。


 どうやらダンジョンが見ていた紙は説明書と呼ばれるもので、モニターの使い方と名称が書いてあった。


「おっ、コボルトちゃんがモニターの前で尻尾振ってるぞ」


「可愛いですね!」


 たしかにモニターの中で犬が尻尾を振っている姿は可愛かった。ただ、二時間もずっと犬の姿を見るのは疲れてくる。


 こいつらは犬の散歩をずっと見て何が楽しいのだろうか。


 百歩譲ってコボルトはわかるぞ。だが、ゴブリンとダンジョンもモニターを食い入るように眺めていた。


 俺も初めは一緒に見ていたが、コボルトが浮気だからと画面を隠して、俺には見せてくれなかった。


「お前らがそれを見ているなら俺は王都に行ってくるぞ」


「はーい」


 俺は一人で王都に戻ることにした。犬の散歩を見ても楽しくないからな。





 王都に戻ろうとダンジョンを出ようとしたタイミングで声が聞こえてきた。


 なぜか誰も来なかった冒険者達が入り口に集まっていた。


 なぜこんなに集まっているのだろうか。


 俺は姿を隠して会話の中身を探る。


「女性三人組の冒険者達もレベルアップポーションを手に入れたと聞いた。俺達もダンジョン攻略じゃなくて、アイテムを狙ってダンジョンを進める方針で問題ないか」


「良いにゃん!」


「私も大丈夫です」


 聞き耳を立てていると、冒険者の狙いはやはりレベルアップポーションらしい。


 しかも冒険者は一組じゃなくてズラッと並んでいるのだ。


 俺はダンジョンに伝えるために急いで戻るとまだ犬の散歩を見ていた。


「おい、お前らいつまで見てるんだ! ちゃんと働けよ!」


――プツン!


「ぬぁ!?」


 俺がモニターの電源を消すと三人は俺を見ていた。


「ボスひどいですよ! 拙者は次の恋愛に活かすために見てたんですよ?」


 んっ?


 俺は聞き間違えたのだろうか。


 犬の散歩に癒しの効果はあるだろうが、さすがに恋愛に活かすことはできないと思う。


「えっ……これはコボルトちゃんの生活を丸裸にしたドキュメンタリーじゃないんですか?」


 ゴブリンは俺の知らない言葉を話していた。


 ドキュメンタリー?


 やはりゴブリンは俺達の中で一番頭が良いのだろう。


「それよりもダンジョン! ついにたくさん人が来たぞ!」


 俺は再びモニターをつけて切り換えると、そこにはダンジョンの入り口が映し出されていた。


「ご主人様これは嘘ですよね?」


「いや、直接見に行ったがさっきより増えているぞ」


「えっ?」


「だから俺は急いで戻ってきたんだろうが! このままじゃすぐにあいつらはここに到着するぞ?」


 今もまだダンジョンは一本道の形状をしているため、すぐに冒険者達もたどり着いてしまうだろう。


 すでにトラップも足りなくなってきているからな。


「ここはダンジョン生成でどうにか時間を稼ぎます」


 おお、どうやらダンジョン生成のスキルでカバーができるらしい。


「ダンジョン生成!」


 何やら呪文を唱えると急に揺れ出した。モニターを切り替えると、ダンジョン内も大きく揺れている。


 森の中でコボルトが使った土属性魔法を思い出した。


「うっぷ……気持ち悪いです」


 やはりゴブリンは揺れには弱いらしい。


 すでに顔は青白くなり、必死に口を押さえている。


「ダンジョン内で吐いても吸収されるので大丈夫ですよ」


 ダンジョンの言葉に俺は驚いた。


 確かにダンジョンでは、排泄をしても自然に消えていくと言われている。


 ただ、ダンジョンが吸収しているということは、目の前にいる男の娘が食べて……いや、考えるのはやめよう。


 俺は再びモニターに視線を戻すと、冒険者達は入り組んだダンジョンを楽しそうに移動していた。


「なんかあいつら楽しんでないか?」


「あー、こっちも行き止まりか」


「やっぱりさっきの分かれ道が反対だったのにゃん」


「このダンジョンはトラップがなくていいわね」


 冒険者の言う通り、仕掛けていたトラップが全く反応しないのだ。


 今のままではすぐに冒険者達はこの部屋に着いてしまう。


「ご主人様すみません……」


 ダンジョンの様子からして何かが起きたと察した。


「どうしたんだ?」


「ダンジョン生成するとトラップが吸収されるらしいです」


 どうやら他のダンジョンから手に入れたトラップはダンジョンに吸収されて使えなくなったようだ。

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