第57話 ご主人様のために強くなりました
水晶玉は俺の言葉に反応してビクッとしている。
『ひょっとして僕の正体に気づいてしまいましたか』
どうやら目の前にぷかぷかと浮かんでいた水晶玉が、本当にダンジョンの本体だとは思いもしなかった。
一般的にダンジョンは最深部にコアが存在しており、その前には一番強い魔物がコアを守っていると言われる。
では、なぜ魔物がコアを守っているのか。それはダンジョンのエネルギーがこのコアから供給されているからだ。
ダンジョン自体は正体不明と言われており、攻略すると武器やアイテム、そして生活の資源になる鉄や金属を生み出す。アイテムの素になるのがコアのエネルギーだ。
王都にいる冒険者は王都周囲の魔物を狩る冒険者、ダンジョン攻略をして資源を売り捌く冒険者に所属する探索者に分かれている。
基本的にはダンジョンは攻略せずに共に生活するのが当たり前という考えが冒険者にはあるのだ。
「ならこの水晶玉が割れた瞬間に死ぬってことか?」
水晶玉に近づき叩こうとすると、水晶玉が必死に俺の拳から逃れていた。
『ご主人様ひどいですー!』
「いや、本当にダンジョンの正体か知りたかったからな」
これでダンジョンの正体がわかった。だが、ダンジョンって元々どういう存在なんだろうか。
目の前にいるダンジョンは会話のスキルを選択したと言っていた。ということはダンジョンも人間や魔物と同じ存在になるということだ。
「ちょっと試したいことがあるんだけどいいか?」
「拙者嫌な予感がするんですが……」
「オラも兄貴がやることに反対です」
コボルトとゴブリンはすぐに気づいたのか、俺のやることに反対をしていた。もし、成功したらわざわざ人を集めて倒す必要性がなくなるのだ。
「今回はちゃんと制御するから大丈夫」
「ほんとですか? 拙者の時みたいにちゃんと話を聞いてあげてくださいよ?」
あの時はこいつらが早く話さなかったのが原因だ。決して俺が悪いわけではない。
『僕はご主人様がやりたければいいですよ』
「そんな簡単に引き受けたらダメですよ」
「ゴブリンは黙る!」
俺はゴブリンの口に付与術をかけた。これでは口が開かないから話せないだろう。
ダンジョンから許可が下りているなら気にせず付与術ができる。今回はちゃんと調整できるように、鑑定の魔道具を装着して行うつもりだ。
「ダンジョン準備はいいか?」
「大丈夫です!」
ダンジョンは声に合わせて水晶玉を震わせていた。隣ではコボルトが大きくため息を吐いている。
俺は魔道具を装着して付与術を唱えた。
「エンチャント"レベル調整"アップ」
「エンチャント"レベル調整"アップ」
「うっ!?」
「エンチャント"レベル調整"アップ」
「エンチャント"レベル調整"アップ」
「エンチャント"レベル調整"アップ」
「良いです! もっとお願いします!」
「エンチャント"レベル調整"アップ」
「エンチャント"レベル調整"アップ」
「エンチャント"レベル調整"アップ」
「あーん! 最高ですぅぅぅ」
ダンジョンの声が部屋中に大きく鳴り響いている。すると水晶玉は強く輝き出し、咄嗟に俺は目をつぶった。
「ご主人様目を開けてください」
肩に優しく触れる感覚に少しずつ目を開けると、そこには小柄な女性の顔が目の前にあった。
《ステータス》
[名前] ダンジョン
[種族] 迷宮/男の娘
[能力値] 力S/S 防御SSS/SSS 魔力SSS/SSS 速度E/E
[職業] 魔迷宮
そしてさっきまで"[職業]迷宮"だったはずが、いつの間にか
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