第56話 ねぇ? 扉を開けてよ。

 なぜか背筋がゾクゾクとして寒気が止まらない。ついさっきまでは、宝箱を開けた時に発動するトラップを仕掛け忘れてコボルトとゴブリンに怒られたがそれどころじゃない。


 彼女達の動きに命の危険を感じている。


「ボス、あいつらなんかキョロキョロしてますよ?」


「兄貴……オラ吐きそうです」


「おい、ゴブリン大丈夫か?」


 後ろから聞こえる声に振り返ると、コボルトがゴブリンを支えていた。


「どーこーだー?」


 彼女達は体を小刻みに震わせて、首をカクカクと動かして振り返る。


 たしかに何かを探そうとしているその姿は、獲物を探すアンデットのようだ。


「コボルトそのままゴブリンを支えて奥まで走れるか?」


「行けますよ!」


「よし、なら付与術をかけたら全力で走るぞ!」


「エンチャント"速度強化"」


「エンチャント"速度強化"」


「エンチャント"速度強化"」


「エンチャント"速度強化"」


 付与術の重ねがけで逃げる準備は整った。


「よし、今だ!」


 俺達は全速力で一番奥の部屋へ逃げることにした。あそこならダンジョンのコアもあるし、内からかけられる鍵付きだ。


「きっとこっちよ!」


「あっちにいったわ!」


「逃がさない!」


 すぐに扉を開けて中に入ったつもりが、あいつらはすぐに反応した。


 あんなに素早く反応できるのに、なぜゴブリンに捕まったんだろうか。


「エンチャント"性質変化"硬質化」


「エンチャント"性質変化"硬質化」


「エンチャント"性質変化"硬質化」


「エンチャント"性質変化"硬質化」


――トントン!


 扉に付与術を重ねがけした。ダンジョンにもしっかりとした安全を確保するために、扉に鍵を付けておいたが、ここで役立つとは思わなかった。


 だが、扉を叩く音が止まらない。


――トントン!


「ねえ、そこにいるんでしょ?」


――ドン! ドンドン!


「ねぇ……開けてよ」


――ドドドドドドドン!


「早く……ねぇ……」


 俺は今何か夢でも見ているのだろうか。なんでこいつらはここまでしつこいんだ……。


『ご主人様怖いです』


「オラは死ぬんだろうか……」


「ボスウゥゥゥ」


 おかげで俺の後ろに隠れているこいつらが、死んだ人のかのように真っ青で震えている。


「俺も怖いよ」


 それは俺も同様だ。


――ドン! ドドドドドドドン!


「そこにいるのはわかっているのよ! 開けて頂戴!」


 俺達はあいつらが帰るまで、部屋に浮かぶ水晶玉に集まってひたすら待った。


 みんなで抱きついて固まれば、バラバラに離れているよりは安心感がある。


「やっぱりここにはいないのかな?」


「あたい達の勘違いだったか」


「今日は帰りましょうか」


 次第に声が聞こえなくなると、あいつらは帰って行ったのか徐々に足音が聞こえなくなる。


「ふぅー、やっと帰ったか」


「ボス……あいつらなんなんですか! 死神リーパーより怖いじゃないですか!」


「だからオラは言ったじゃないか……」


 コボルトはあいつらと関わったことがないから知らないのだろう。


 だが俺もあんなに怖いと思わなかった。


 そして新たに怯えている人物がいた。


『人間は敵だ……あいつらは敵だ……』


 一番怯えていたのはダンジョンだった。水晶玉が激しく震えている。


 んっ?


 ダンジョンの本体ってあの水晶玉なのか?


「おい、ダンジョン大丈夫か?」


『ご主人様……人間怖いです……』


「いや、俺も人間だぞ?」


『はぁ!? いや、ご主人様はご主人様です』


 俺はなぜか人間とは違う種族になったようだ。


 コボルトも俺を人間だと認識しないのはなぜだ?


「ってそんなことはよくて、ダンジョンの本体ってこの浮いている水晶玉か?」


 俺の問いに水晶玉はピクリと震えが止まった。


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