第46話 お客様、ダンジョンはいかがですか?

 俺達は貰えるものは全てもらってダンジョンに戻ってきた。ちゃんと黒いトカゲを通してダンジョンには了解を得ているから問題はない。


 今日ほど付与術師でよかったと思える日は珍しい。


 基本は使えないやつ扱いだからな。


「ボス、これであのダンジョンからコボルトちゃん出てきますかね?」


「どうだろうな? まずは冒険者をダンジョンに呼び込む必要があるからな」


 ダンジョンを成長させるには、まず冒険者を倒す必要があった。


 人間が魔物を倒すとレベルアップすると同様に、魔物であるダンジョンも人間を倒すとレベルアップする。


 ただ、ダンジョンには人が訪れるだけで微量に力が湧いてくるらしい。その経験がさらにダンジョンを強くする。


 だから、人を呼び込む必要があった。


「冒険者は何があったら嬉しいんですか?」


 今後の目標はまずもらってきたアイテムとトラップを設置して、冒険者をダンジョンに呼び込むことだ。


 ただ、冒険者が喜ぶものって何か俺もわからない。


「ボスは何が貰えたら嬉しいですか?」


「あー、俺か? 俺は女性が寄ってこない魔道具があったらいいな」


「それはオラも同じだ! あいつらオラ達に容赦ないからな……」


 どうやらゴブリンの傷もかなり深そうだ。


 こいつをこんな姿に変えたのは、俺を追放した忌々しいあいつらだ。


「やっぱり一番はギルドで宣伝するのが良いだろうな」


「また王都に行くんですか!?」


「オラはお留守番しておきます」


「拙者もダンジョンにいます」


『私は王都に行きたいです』


 どうやらコボルトとゴブリンは王都には行かず、ダンジョンで待っているらしい。


 そのかわりダンジョンが王都に行きたいと言い出した。


 ただ、ダンジョンが王都を移動している姿が想像できないのだ。


「あー、ダンジョンごめんな。どう考えても無理そうなんだ」


『仕方ないです。私もご主人様のおかえりをお待ちしています』


「ああ、ありがとう。それでご主人様って誰のことだ?」


 急にご主人様と言われて俺は戸惑った。いつの間に貴族になったのだろうか。


『ご主人様が来なければ私はただの気付かれない穴でした。ご主人様が嫌であれば神様とお呼び――』


「いや、ご主人様で大丈夫だ」


 毎回ダンジョンに来て"神様・・"と呼ばれるよりはまだいい。俺はそんなにすごい人でもないからな。


「じゃあ、アイテムとトラップは置いておくからコボルトとゴブリンに任せても大丈夫か?」


「ハイ! イェッサアァァァ!」


 どうやら任せても大丈夫そうだ。俺は鞄からアイテムとトラップを取り出してダンジョンを後にした。


 あっ、ちなみに俺が持っている鞄は付与術を使ってあるため、いくらでも入る仕組みになっている。


 だからダンジョンから根こそぎトラップとアイテムを持ってくることができた。





 俺は王都に行くと突然声をかけられた。


「クロウよ……」


 声をかけてきたのはギルドマスターだった。


「どうしたんですか?」


「いや……ちょっと元気がないだけだ」


 ちょっとどころか見た感じだいぶ元気がなかった。顔からも覇気が感じられない。


「そういえばダンジョンからこんなものを手に入れたんですけどどうですか?」


 俺はダンジョンで手に入れたアイテムや武器をギルドマスターに見せると驚いた顔をしていた。


「おい、クロウ! これは俺が教えたダンジョンで見つけたのか?」


「これってそんなに凄いものなんですか?」


「凄いも何もこいつはすごいレアな物なんだぞ!」


 ギルドマスターが驚いていたのはレベルアップポーションだ。


 俺にとっては付与術で簡単にレベル調整ができるが、それを知らない人にとってはレベルアップの恩恵は大きいのだろう。


「今すぐギルドにいる冒険者にこのことを伝えてもいいか?」


「ええ、大丈夫ですよ」


 まさかこんなことになるとは思いもしなかった。


「それでどこのダンジョンから出たんだ?」


「ギルドマスターに王都に来たばかりの時に教えてもらったダンジョンで出てきました」


「そうか! あの新しいダンジョンか! クロウ助かったぞ! これで俺の息子も……」


「息子さんに何かあったんですか?」


「いやいや、何もないぞ! 気にするな」


 俺は嘘をついてダンジョンから持ってきたものを俺達が潜んでいるダンジョンからドロップしたことにした。


 これで冒険者達が来るぞ!


 この時の俺は期待に胸を膨らませていた。

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