第44話 黒トカゲは土下座をします

 その後もダンジョン産のコボルトに声をかけ続けたが、成果は実らなかった。


 そして、気づいた時にはダンジョンの最下層と思うほど、大きな扉の前まで到着していた。


「えーっとここが最後なのか?」


「きっとそうですね! コボルトさんもそんなに落ち込んでないで行きますよ」


 ゴブリンがコボルトの手を引っ張って引き連れている。本当に面倒見が良い。


「俺は個性の塊だ……。きっと天才だから受け止めてもらえないんだ」


 流石に振られ続けると、恋愛に積極的だったコボルトもいつしか落ち込んでいた。


 コボルトの見解では、やはり毛がないことと、コボルト語を話さないことはダンジョン産のコボルトにとっては大きな問題らしい。


「まぁ、俺らがわかっているからいいじゃないか!」


「そうですよ! きっとコボルトさんを好いてくれるコボルトちゃんもいますよ」


「ボス……ゴブリン……」


 いい加減元気になってもらわないと困る。


 だってすでに落ち込んでから一時間は経っているのだ。


「拙者、最後にコボルトちゃんに会いに行ってきます」


「ずっとコボルトが出てきていたから、多分この先にいるかもしれないな。」


 ここに来るまでに様々な魔物が出てきたが、時折コボルトに似たやつも多く出てきた。


 どのコボルトも四足歩行をしていたのが特徴だったが……。


「じゃあ開けますよ!」


――ゴオオオ


 今までの扉とは異なり、開けた瞬間凄まじい音が鳴っていた。


「兄貴何か出てきます!」


「ボスは拙者の上に乗ってください」


 俺はコボルトの上に乗ると奥に何かが動いている気がした。


「おー、黒いトカゲじゃないか!」


「黒いトカゲ?」


「ああ、赤いやつが黒になっただけだな」


 遠くにいたのは黒いトカゲだった。


 以前、あいつに似た赤いトカゲと遭遇したことがある。その時は何度も噛み付いたり、突然火を吹いてきたりと楽しく遊んだ記憶がある。


『我を黒いトカゲと呼ぶやつは誰だ』


「兄貴、なんか呼ばれてませんか?」


「ちょっと行ってくるわ」


 俺はコボルトから降りて、そのまま黒いトカゲに近づいた。


 昔会った赤いトカゲと同様に鋭い眼でこちらを見ている。


『我を呼び起こしたのは其方か?』


「あー、ひょっとして起こしたか?」


『いや、構わぬ。我はこのダンジョンのボスだからな』


 ダンジョンのボスということはここが本当に最下層なんだろう。


 それにしても頭に響くような話し方が気になる。


「おい、黒いトカゲ! その話し方はどうにかならないのか?」


『我の話し方が気に食わないと言うのか! 小癪な!』


 黒いトカゲの怒りに触れたのか突然俺を食べようと噛みついてきた。


 こいつもあの時のトカゲと一緒で遊びたいのだろうか。


「エンチャント"性質変化"硬質化」


「エンチャント"性質変化"硬質化」


「エンチャント"性質変化"硬質化」


「エンチャント"性質変化"硬質化」


 性質変化の付与術を自身に付与した。赤いトカゲもすぐに人を食べようとしたのは良い思い出だ。


『ぐあぁぁぁぁ! 我の歯を折る気か!』


「そもそも噛んできたのはお前からだろ?」


『くっ!』


 どこか黒いトカゲは悔しそうな表情をしていた。


 何度も何度も噛みつくのはトカゲの習性だろうか。


「ボスゥー! どこにもコボルトちゃんがいないですよ」


 ダンジョン産のコボルトを探していたコボルトとゴブリンが戻ってきた。


『ヒイィィ!? なぜフェンリルと鬼神がここにいるんだ』


「ん? こいつらフェンリルコボルト鬼神ゴブリンだぞ?」


「そうだぞ! コボルトを伝説のフェンリルと間違えるなんてやっぱり黒いトカゲは馬鹿なんだな」


「そうです。コボルトさんが言う通りオラを鬼神って言うなんて……。どこから見てもゴブリンですよ?」


 二人は腰に手を当てて胸を張っている。コボルトの胸毛はさらさらと風に靡いていた。


「ほら! こいつらもこう言ってるんだから合ってるぞ!」


『……』


「ここにもコボルトがいないならこいつを倒して外に出るか?」


「拙者の努力が……」


「コボルトさん今日は諦めた方がいいんじゃないですか? また作戦を練ってから、戻って来た方が無駄に傷つかなくて済みますよ」


 ボスを倒さないと基本的にボス部屋から出れないとギルドマスターに聞いていた。


 だから目の前にいるトカゲには申し訳ないが、一度倒さないといけないのだ。


「ゴブリンもこう言ってるから、また今度来たらいいじゃないか! なぁ?」


「わかった! ボスとゴブリンが言うならまた今度行きましょう。またついて来てくださいね?」


「ああ、いつでも付いてきてやるぜ! あとは黒いトカゲを倒してから――」


 俺達が黒いトカゲに視線を合わせるとトカゲは膝をついた状態で頭を下げていた。前も赤いトカゲがやっていたが何かの意図があるのだろうか。


『どうか私をお見逃しください!』


 どうやらコボルトの二つ折りになる動きのトカゲ仕様らしい。


「って言ってるけどどうする?」


「拙者は別に大丈夫ですよ」


「オラもです! ただ何もアイテム貰わなくていいんですか?」


 確かにゴブリンが言う通り、こいつを倒さないとアイテムが貰えないのだ。


 せっかくここまできたのに、最下層のやつから何も貰えないと何しに来たのだろうか。


「あっ、じゃあ見逃してやるからトラップを持って帰ってもいいか?」


『トラップですか?』


「ああ、だったら見逃してやるよ」


『わかりました! 少し確認してみます』


 しばらく黒いトカゲは黙っていた。きっと何かと連絡しているのだろう。


『確認できました! 何でも持っていっていいから早く帰ってくれと……』


 どうやら了解が得られたらしい。なら貰えるだけ持っていこうじゃないか!


「よし、お前ら!」


「ハイ! ボス!」


「ハイ! 兄貴!」


「根こそぎ奪っていけー!」


「イエッサアアァァァ!」


 俺達はトラップを回収するために地上に向かって歩き出した。


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