第29話 移動
次の日、俺は荷物をまとめ、森にいるあいつらにここからいなくなることを話すために森へ向かった。
今まで活動していたイヤーダ街から離れるって思うと少し寂しくなる。
冒険者は依頼で各地を転々とする仕事だが、こんなに一つの街に居続けたのは俺としては珍しい。
そして、彼女達とパーティーを組むきっかけになったのも、追放されたのもこの街だった。
よく考えればあまりいい思い出はなかった。
「おーい、コボルトー! ゴブリンー!」
森の中で叫ぶと何かが急いで走ってきた。
昨日の出来事があったからか目立たないように隠れながら近づいて来ていた。
「ボス、拙者を呼びましたか?」
森の中から出てきたのはコボルトだった。
あれ、ゴブリンはどこに行ったんだ?
「ゴブリンは?」
「ああ、あの未熟者はあそこで吐いてますよ」
奥でゴブリンが四つ這いになって何かをしていた。
「吐いてるって?」
「拙者の土属性魔法に酔って動けないです」
どうやら定期的に続く地震の揺れで酔ってしまったらしい。
コボルトは今も魔法を使って地面を揺らしていた。
「それで魔法はだいぶ制御できるようになったんか?」
「ボスに言われた通りに練習したら強さも調整できるようになりましたよ」
コボルトは魔法を発動されると地震の強さを微調整できるほどコントロールができるようになっていた。
魔法って使えば使うほど使いやすくなるし、レベルアップしなくてもスキルアップできる。
俺は常に付与術を使い続けたからこそ、スキルレベルがMAXの100になった。
昔組んでいたパーティーの魔法使いは信じなかったため、知っている人が少ない秘密の特訓方法だ。
「うげ……もう辞めてください……」
ゴブリンの緑色ぽい顔も青白くなり、よほど気持ち悪かったのだろう。
そんな二人に俺は話を告げる。
「今日お前達に発表がある」
「なんですか?」
「うっ……」
「今日から活動拠点を変えようと思う!」
「ウェーイ!」
特に森から離れることに関しては二人とも嫌ではなかったらしい。
どちらかといえば二人とも喜んでいるぐらいだ。
「拙者王都に行くのが憧れだったんです! あっちには毛並みがふさふさで可愛いコボルトちゃんがいるって聞いたことがあります!」
どうやら地域ごとにコボルトの毛並みも変わるらしい。
この胸毛しかないコボルトでもモテるのだろうか。
あっ、そういえばまだ脱毛症の付与魔法ををかけたままだった。
俺はひっそりと付与魔法を解除した。
「じゃあ、今から王都に移動するから準備は大丈夫か?」
「えっ、今から行くんですか?」
「ああ、早いに越したことはないからな」
俺はこいつらの気持ちを考えてギルドからの依頼のことは伝えていない。
きっとこいつらに伝えると勝手にいなくなりそうだからな。
むしろそっちの方が世界の脅威になってしまう。
こいつら小心者だけど能力だけ見たら軽く災害級の魔物より強い。
すでに森を破壊しているため、存在がバレれば災害級として認定されるだろう。
「ボスはあいつらに復讐しなくても大丈夫なんですか?」
「ああ、それは一旦休憩だな」
今はこいつらの方が危険要素が高いため、嫌がらせは一時中断だ。
それにしても俺の心配ができるようになるとは、コボルトも成長したのだろう。
「おーい、ゴブリン大丈夫か!」
ゴブリンに声をかけると震えながら手を上げている。
どうやら動けるほどの体力はあるようだ。
「よし、じゃあ行こうか。ちょっと座ってくれ」
俺は立っているコボルトを座らせると上に跨いだ。
歩いていくよりコボルトに乗った方が速いだろうからな。
実際に森を移動する速さは尋常じゃない。
「えっ?」
「どうしたんだ?」
「これじゃあ走れないですよ?」
コボルトが立ち上がると俺は落とされそうになった。
そういえばこいつは二足歩行で歩いていた。
そしてゴブリンも二足歩行なのだ。
「じゃあどうやって行けば……」
「兄貴を抱えればいいんじゃないですか?」
「えっ?」
「だってオラも背中には乗せれないですし」
「それは良い考えだ! 拙者がボスを運びますね」
俺はコボルトに抱きかかえられ、お姫様抱っこをされていた。
これならいくらでも移動できるだろうが、何か大事なものを失いそうな気がしていた。
「おい、胸毛が邪魔だぞ」
「そこは我慢してください。じゃあいきますよ!」
コボルトはゴブリンに対してニヤリと笑った。
すぐに俺は良からぬことをするんではないかと気づいた。
「ゴブリンごっこ開始だあー!」
「おい! オラはゴブリンごっこやるなんて聞いてないぞー!」
こいつらが楽しそうに移動できるなら俺は気にすることをやめた。何かあったらまた魔法で復元すればいいからな。
俺達は今日イヤーダ街を離れた。
後日勝手に復元する森は何が原因かは調べられなかったが、冒険者や騎士達の訓練場所として有名になったとか……。
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