第31話
一方その頃、将軍専用機内では――
「童♪ 童♪ 童はおるか~? たいそう可愛い、斬りたい童~♪」
幼女ならではの軽快な体捌きでふんふん、と鼻歌交じりに雑兵を蹴散らし、安綱はハワードの元を目指す。すると、瞬く間に脛を斬られてうずくまっていた兵士の首から、ぽろりと何かが落ちた。
「ん?」
きらきらとしたそれを拾い上げると、ロケットペンダントのようだ。
パカッと開けると、眩しい笑顔の幼女と目が合う。隣には、拙いクレヨンで『パパおしごとがんばって!』の文字が。
「ふむ……」
「か、返してくれ……! それは、俺の大事な――うぐぅ!」
安綱は何を思ったか着物の胸元をごそごそと漁り、クラウ=ソラスに持たされていたハンカチを取り出した。そして、ロケットペンダントと一緒に兵士に手渡す。
「お前、パパなのか?」
「え? あ、あぁ……そうだが、返してくれるのか?」
自分は彼女に銃を向けたのだ。まさか本当に返してくれると思っていなかった兵士は驚きに目を丸くする。だが、そんな兵士に安綱は――
「傷口、ちゃんと止血しろ。パパは、家に帰って娘をぎゅうって抱っこしないといけないんだぞ!」
「え……?」
「今からわたちが撤退命令を出してやる。大人しくそこで見てろ!!」
「えっ、えっ……? 君はいったい……?」
わけもわからずハンカチとペンダントを受け取る兵士に、安綱は笑った。
「わたちは童子切安綱。『魂移しの魔剣』にして――世界中の
『きひひひひ!』と愉快そうな高笑いを艦内に響かせ、ピンク髪のツインテ幼女は駆けだした。その背中に、兵士は声をかける。
「ま、待ってくれ! 君は、将軍殿を探しているのだろう?」
「ん? そうだけど……」
「どうして将軍殿を探しているんだ? 理由があるなら聞かせて欲しい。実は、今回の戦い、俺達にも何がなにやらわかっていないんだ。ある日突然将軍殿に集められて、それで――だが、噂によると将軍殿は独断で軍から
「ん? ショーグンなら、そいつを使ってわたちたちの国をボカァン! てする気だぞ?」
「……!?!? なんだって!?」
「だから、止めに来たんだ」
どこまでも澄んだ瞳の幼女。彼女はわかっているのだろうか? その水爆が、どれほど恐ろしい兵器なのかを――
だが、兵士は直感的に理解した。ここで自分がどれだけ『危ないから帰れ』と言ったところで、この幼女は止まらないのだろうと。できれば、自分の娘と同じような歳のこの子に危険を冒して欲しくない。だが――
兵士は観念し、廊下の向こうを指差した。
「将軍殿なら、この角を曲がった先のコントロールルームにいる」
「本当か!?」
まるでお宝を見つけたみたいな無邪気な笑顔に、兵士は自身の怪我も忘れて微笑む。
「君は……魔剣、なんだよな?」
「ああ、そうだぞ! 童子切安綱! 変身すれば、メチャクチャ綺麗な妖刀になるんだ! ラスティにも頼光にも誉められた、自慢の刀身なんだぞ!」
「ふふ、それは不思議だな」
「お前こそ。教えてくれるなんて、人間なのにいい奴なんだな!」
「いい奴だなんて、そんな……俺は、娘みたいに幼い君に銃を向けたっていうのに……」
「だったらわたちもお前を斬った! おあいこだ!」
にこっ! と差し出された小さな手を握る。
それは、娘と同じような、小さくてあたたかい手だった。
(魔剣、か……俺達と、何も変わらないじゃないか……)
「じゃあな! ありがとな~!」
手を振ってコントロールルームに向かう幼女に手を振り返し、兵士は無線を手にした。チャンネルを切り替え、将軍以外の人間全てに聞こえるように指示を出す。
「当艦に乗る各員に通達。本艦には想定外の兵器が持ち込まれている可能性があり、危険な状態にある。最低限の操縦士を残し、非常脱出口より速やかに退避せよ。繰り返す――」
そうして、自身は足を引きずりながら、若手の操縦士と交代すべくコックピットに向かった。
(あの子が乗ってるときに落ちたら、大変だからな……)
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