第4話

 アロンダイトに連れられて街を歩くこと数十分。軍部の拠点と思しき重厚な建物に通され、地下へと案内される。いよいよお待ちかね、尋問のスタートというわけだ。


「では、お願い致します」


 薄暗いランプの灯りひとつしかない部屋で椅子に縛られていたスコットは、その輝きに目を見張った。プラチナのように眩い白銀の髪を持つ女性が部屋に入ってきた瞬間、ランプや机上のペンライトがキラキラと瞬きだしたのだ。否、そう錯覚するくらいに、彼女自身の美貌が輝いていた。


「あら~? この子が『外の人間』? 密偵って聞いたけど、随分若いのねぇ?」


 白いミニスカの軍服を着こんだ女性は腰まである髪をサッと払うとスコットの顔をまじまじと覗き込む。軍帽の下の長い睫毛、その奥の吸い込まれそうなダイヤモンドの瞳を細めて、美女は妖艶に微笑んだ。

 屈んだ拍子に大胆に開いた胸元から零れ落ちそうな谷間がスコットの眼前に迫る。ちらりとはみ出す下着は黒。童貞のスコットは思わず顔を逸らした。


「んふふ、かぁわいい♡ 食べちゃいたい……!」


 そう言うと、美女は何を思ったかスコットの腕の拘束を解いて左手の人差し指を咥えた。ちろり、と艶めかしく舌が指先を這いまわる。


「ひっ……!」


 ぞわぞわとした感覚に為す術の無いスコット。次第にぴちゃぴちゃと音を立て始めてエスカレートするその行為に、脇に控えていたアロンダイトが待ったをかけた。


「クラウ=ソラス様、お戯れはその辺で――捕虜が戸惑っています」


「あらぁ? ディアってば相変わらずおカタいのねぇ? いいじゃない、滅多に来ない外の人間なんだもの。少しくらい味見しても……」


「外の人間だからです。ばっちぃですよ」


「あら、ばっちぃのはヤダぁ。でも、それはそれで刺激的かもね? うふふ……♡」


 クラウ=ソラスと呼ばれた美女はぬるりと指を引き出すとポケットから取り出したハンカチで口を拭った。会話の内容的に、どうやら彼女が伝説の『十剣』のひとり、『輝きの魔剣 クラウ=ソラス』らしい。

 揺れるたびにキラキラと光沢を発する髪に、妖しく光る瞳。まさに輝く魔剣にふさわしい美しさを持った人物なのは見ての通りだが、その妖艶な雰囲気と挑発的な仕草に、スコットの股間の方が輝き出しそうだ。


 抵抗できずにほげほげと固まっていると、クラウ=ソラスはアロンダイトにタブレットで調書の作成を命じる。


「ん~……味見した感じ、外の人間に間違いはないけど、ちょおっと適性があるかも。このまま尋問して目的とか仲間の有無とか聞き出したら、契約者候補として再教育するのがいいかもね?」


「なっ――! 再教育して契約者候補に、ですか!?」


「だぁって、どうせ故郷には帰せないんだもの。役に立つ可能性があるなら上手いこと再利用した方が得策でしょう? 私の舌の感覚だとこの子、光の魔剣に適性がありそうよ? うふふっ! キミ、私の契約者になるぅ?」


 ふわりと近づいてはスコットの顎をするりと撫でるクラウ=ソラス。いかにも年上のお姉様といった態度にスコットはたじたじだ。


「それにしても、この国で生まれ育った人間以外の契約者なんて珍しい! きっとアゾットが喜んで実験体モルモットにするわよ~?」


 その言葉に、スコットは初めて声を漏らした。


「あ、アゾットだって!?」


 反応するもの至極当然。だってスコットが所属していた『聖剣奪還部隊』の第一目標は、その『錬金の魔剣 アゾット』を手に入れることなのだから。

 ちなみに第二目標がエクス=キャリバー、第三目標が円卓につらなる魔剣だ。

 しかもアゾットには『見つけたら国家機関に連絡を!』と国際的に多額の懸賞金がかけられている。それが何故だか知らないが、スコットが曾孫の代まで遊んで暮らせる額だ。


 思わず身を乗り出したスコットににやり、と目を細めるクラウ=ソラス。


「隠し事、下手なのかしら? かぁわいい……♡」


(しまっ――!)


「さぁ~あ! お楽しみの尋問タイムよ! 私は『輝きの魔剣 クラウ=ソラス』。光の屈折をを操り、様々な幻を見せることができるの。ときに触れることのできる、現実と区別のつかない幻影よ? 沢山の美女わたしに囲まれて、爪切り、膝枕、耳掃除……指切り、水責め、審問椅子、電気ショックに血まみれののオモチャ……もしあなたが気持ちのイイ夢で終わりたいのなら、洗いざらいぜぇんぶ吐いちゃいなさい? ま、吐かないのならあなたのカラダに聞くだけだけどね?」


 ちろり、と妖しく舌なめずりするクラウ=ソラス。その白くて滑らかな指先がスコットの太腿を撫でた。背後からぎゅう、と抱き締められ、なんならこのまま童貞を喪失させられそうなえっちな尋問。それを役得と思えずびくびくと震えることしかできないあたり、だからスコットは童貞なのだ。


「あ、あの……お手柔らかにオネガイシマス……」

「ふ~っ……」

「ひえっ!?!?」


 耳に息を吹きかけられただけで、スコットは全部暴露した。

 国家に対する忠誠心? そんなの知るか。

 おとなのおねぇさんの誘惑に、敵うわけがないだろう。

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