東伏見公園

瓶梅藻魚図

東伏見公園

 ある日、いつ頃だったか、もう二か月くらい前になるんだったか。もっと前か。カクヨムからメールが来ました。

 『第三回角川武蔵野文学賞』

 という内容のメールでした。カクヨムはもういつになるかわからないくらい前に登録だけはしてましたが、書いたことがありませんでした。諸事情というか、まあ、馬鹿みたいな理由なんですけども。その当時、だからカクヨムが始まるっていう時の話です。その当時、すごく、何だろうな。Twitterのタイムラインにカクヨムの事が溢れたんです。カクヨムがすごく注目を浴びていて。それで、サービスが開始された時かな、投稿したっていう類のつぶやきがまたTwitterにあふれて。で、色々な人が色々な話を書くんだなあって、それだけを思えばよかったんですけども。でも、その時ね、ふとね、ふと、思ったんです。

 「カクヨムカクヨムうるせえな」

 って。今思うと恥ずかしいですが。その当時の私のメンタルに何か問題があったのかもしれませんし、何かついてない、見放された事とかあったのかもしれません。嫌な事があったのかもしれません。でもとにかくそんな事があって、それが故に、私は違う場所に行ったんです。違う、違う場所に。カクヨムじゃない所に。

 その後、暫くして、ある日なんとなくカクヨムに登録しました。なんで登録したのかは覚えてません。もしかしたら何か目的があったのかもしれませんが何一つ覚えてません。

 だから、ちょくちょくカクヨムさんからのメールは来てたんです。でもすぐに削除してました。中身も見ないで削除してました。削除セルフメディケーションとでも言いましょうか。これは不要なメールを削除することで健康を維持する方法です。不要なメール一つずつの削除では微々たる、あるいは逆にストレスがたまる事もあるかもしれませんが、それを選択してまとめて、一気に削除すると、幾らか、日々のストレスが軽減されます。選択されたそれらが画面から見えなくなる、消える瞬間にストレス値が減少します。

 だから、本当だったら多分この『第三回角川武蔵野文学賞』の通知のメールに関しても、削除するはずだったと思うんです。思うんですけど、でもなんかこれは目に入ったんです。

 「あ、そういうのがあるんだ」

 と思いました。武蔵野。行ったことも所縁もありません。どこにあるのかも知りません。ほぼ何も知りません。でもエレカシの曲の中にあるんです。

 「あの武蔵野か……」

 武蔵野。エレカシ青春セレクションってアルバムの最後の曲。あとミッシェルガンエレファントにも武蔵野エレジーって曲がありますし。それからYOASOBIが紅白に出た時、武蔵野なんとかミュージアムとかっていうので歌ってなかったっけ。その年の年末に実家に帰省して家族で見てた。父母は若い人の歌を知らなかったし。私は何も知らなかったし。でも姉がそれを見て、

 「なんで顔出したの」

 って言ってたなあ。あの武蔵野なんとかミュージアムの武蔵野かあ。

 グーグルマップで調べてみると、武蔵野、武蔵野市は三鷹駅でした。三鷹駅の真ん中を斜めに切り裂くように上に武蔵野市、下が三鷹市となっていました。新宿まで行けば、あとは中央線に乗ったら三鷹駅には着くようでした。

 ところで私は埼玉県人です。本籍地は秋田ですけども。現行は埼玉県人になっています。それだからグーグルマップを眺めているうち思ったんです。

 「三鷹駅を出て、桜通りを歩いて、これは、伏見通りなのかな、そこを曲がって武蔵野中央公園に行って、そこで話を考えて、そのまま武蔵野中央公園から伏見通りに戻って、まっすぐ歩いて東伏見公園を抜けて、まっすぐに上に歩ていけば、志木あるし、志木から浦和に行く国際興業バス出てるし。そしたら家帰れるじゃん。歩いている間に話考えたら一石二鳥じゃん」

 その週の土曜日、私は三鷹駅まで電車に乗って行きました。その日はあいにく雨でしたが、でもとにかく生まれて初めて、初めての三鷹駅、武蔵野市に行ったんです。もしかしたら駅の所で、三鷹駅を斜めに割るようにして武蔵野市三鷹市ってなってたから、どこでかはわからないけど武蔵野市三鷹市どっちも行ってたかも知れません。経度ゼロ地点の様に本初子午線があるかもしれないと思っていましたが、そういったものはありませんでした。わかりませんが。もしかしたらどこかにあったのかもしれません。私は見てません。

 それから、若干の、若干の薄い小雨の中を武蔵野中央公園を目指して歩きました。ちなみに歩く格好をしていたのかどうかも自分ではあまりよくわかりません。何せそんな事滅多にしないので。スニーカーではありました。でも、前日もよく寝れませんでした。この日のこのイベントに対しての興奮、不安、諸々です。人生で初めての武蔵野。人生で初めてかどうかはっきり覚えてないけど中央線。電車に乗ってるとき段々人が少なくなっていって怖かったっていうのを覚えてます。みんな三鷹駅まではいかないの。武蔵野いかないの。武蔵野文学賞やってるよ。って思ってました。この電車は三鷹から先には行きません。みたいなアナウンスが流れてました。なんでか知らないけど。でもなにか理由があるんでしょう。それは私には関係ないことです。私は武蔵野行けたらいいから。

 武蔵野市を小雨の中歩きながら考えていました。例えば、もし投稿するとしたらどういうのが良いんだろうなあ。っていうような事。でも初めての武蔵野だし、そんなに何かが思いつくなんてあるのかなあ。大宮駅周辺の話とかだったらもしかしたら何かしら考えられるかもしれないけど。浦和駅とか。赤羽とかだったらまだ。でも、武蔵野なあ。エレカシの武蔵野しかなあ。ミッシェルガンエレファントの武蔵野エレジーの事しか出てこないなあ。

 駅前で学生さん達が並んでバスを待っていました。しかし当然のことですが来たバスは国際興業のバスではありません。国際興業バスであればsuicaにIC定期券が入っているので乗ることも出来ますが、国際興業以外のバスには乗り慣れていないので乗りたくありません。ルールが違うかも知れない。前から乗って後ろから降りる。後ろから乗って前から降りる。前から乗って前から降りる。後ろから乗って後ろから降りる。お金は先。お金はあと。suicaは使えない。使える。このように会社によって色々な組み合わせ、ルールがあります。国際興業のバスですら、場所によって若干違います。浦和から乗る時は乗る時降りるとき共にsuicaでピッとします。赤羽から乗る時は乗る時だけです。だから、バスに頼ることはしたくありませんでした。初めての武蔵野でなんかそういう嫌なイメージを持ちたくなかった。頻繁に通う場所なら、そういうのもだんだんと薄れていくでしょうが、今回来て、また次も来るとは限らない場所だから。だから、悪い印象を持ちたくなかった。何一つも。

 そんな感じで武蔵野中央公園までお話の事を考えながら歩きました。桜通りを歩いていて、野鳥の森公園を西久保公園と間違えてだから曲がる所も間違えて、現在地はどこなんだ。ここはどこだ。となる度に立ち止まってスマホでグーグルマップを見ました。来た道を戻る事はしませんでした。戻りたくなかったからです。戻った分また歩くの嫌だったから。そうしてようやく、あーでもないこーでもないとなっているうちにミニストップを見つけて、

 「あ、ここを左に曲がればやがて右手に武蔵野中央公園が見えてくる」

という曲がり角を曲がって、大きな大きな団地なのか、あるいはシャレオツなでかいマンションなのか、何なのかわからないけど、とにかく大きくて長い集合住宅みたいなの沿いの道を歩いてそれが終わった先に、

 「ここがあれか、武蔵野中央公園か」

 武蔵野中央公園がありました。

 とはいえ武蔵野中央公園もそんなに眺めたわけではありません。ウォーキングしている人やランニングしている人を見て、なんかコートを見て、多分テニスコート、あと球場とかもあったと思う。そういうのを見て、事務所近く、事務所かな、事務所みたいな所の近くに竹が、竹槍みたいなのが扇形みたいに広がってるオブジェ、オブジェかなあれ。そういうのを見て、私は武蔵野中央公園を出ました。

 そして本来歩きたかった、武蔵野中央公園に行くまでメインになるはずだった伏見通りにようやく合流して、そのまま伏見通りを歩いて武蔵野市を出ました。

 伏見通りには三鷹駅に向かうバスのバス停が何個もありました。それに乗って三鷹駅に帰る。そんで電車乗って新宿まで戻って家に帰る。っていう選択が何度も私の中で過りました。しかし私はそのまま歩いて東伏見公園に行きました。

 東伏見稲荷神社なんかもありましたが、それは道の向こう側でした。こっち側にあったら寄ったと思いますが、ただ横目に通り過ぎました。

 そうして東伏見公園についた時、携帯の、スマホの電池が結構もう無くなってて、だから休憩したんです。そこで。屋根があってベンチがある所で。座って。携帯をモバイルバッテリーにつないで。近くに電車が走ってる所です。そこでふとなんというか、私のイメージの中の話だけど、ふと、

 「東伏見公園の方が坂があって、向こうが見えなくて、なんか、広大というか、荒涼じゃないけど、なんかだだっ広くて、なんか、こっちの方が、なんか」

 私のイメージの武蔵野だなあ。って。エレカシの武蔵野の曲のPVみたいな。武蔵野だなあって。思いました。なんとなく。なんとなくだけど。

 あと、その休憩三十分の間に、

 「武蔵野終わったんだなあ。後はただ歩く辛いだけのやつ」

 って思って心が折れたんですけども、でもそれは今この話には関係ないので割愛いたします。

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