第19話 エドワード王家の災難
デニス、ロロム、そしてカレンの3人は昼食をとっていた。その時ふと、デニスの口からもれた。
「カレン、お前ここに来てからちょっとだけ顔つきが変わってないか?」
「……そうかな?」
「そういえば姉様、ここに来たときはなんか怯えていたような顔つきだった気がするんですけど、今はちょっと違いますよね。何というか安心感が出てきたというか、そんな感じです」
ロロムも兄と同じ感想を持っていたようだ。
「へぇ、そういうものなのかな。私は特に変わった様子は……ああ、そういえば王立魔法研究所の出来事があったなぁ」
「なるほど、王立魔法研究所の奴らとの出来事か……必要とされてるって結構大事だもんな」
デニスはその出目からして深く重い一言を述べる。
王立魔法研究所で、自分の能力が人の役に立つかもしれない、と思えるようになったのは大きいだろう。それが顔に出ているのかもしれない。
「今日のお昼はハンバーグね。実家にいたときは肉なんて週1回食べられるかどうかって感じだったな。なんか最近肉料理が続いてるけど太っちゃうかも」
「カレン、お前は少しは肉を食って栄養を取って体力をつけた方がいい。そうでないと妊娠出産には到底耐えられんぞ。
出産って人間の身体の中から生きた人間が出てくるんだぜ? 体力がないと無理だろ?」
妊娠、出産は母体にとって非常に負担のかかる事である。医療技術が現代日本のように十分に発達していないこの世界では命がけの行為だ。
子供を産んだがいいが母親が引き換えに命を失う、なんていうことだって決して珍しい話ではない。
「そっか、デニスさんと私の赤ちゃんか……」
王妃の役目は客人をもてなしたり、国の管理をしたりと働くものだが、何より世継ぎを産むのは最大の役目だろう。挙式まではまだ先があるがやはり緊張は隠せない。
昼食を終えてカレンは自分の部屋に戻り、きれいな羊皮紙に羽ペンで手紙を父親あてに書く。父親が心配しているらしく週1回どんな暮らしをしているかを手紙を書いて送っているのだ。
30分ほどかけて書き終えると伝令を呼び、渡す。
「いつものようにお願いね」
「かしこまりました。お届けしてきます。それにしてもカレン様のお父上は心配性ですな」
「まぁね。私は大丈夫だって言ってるのに一時期は手紙を週に何通もよこしてくるんだから。じゃ、後はよろしく」
◇◇◇
「陛下、カレン様からのお手紙です」
「そうか、ご苦労だったな」
エドワード国王は王の間で玉座に座りながらアランドル王家からの使いである伝令から手紙を受け取る。手紙の内容は「新しい人たちと一緒に幸せに暮らしているから心配しなくていいよ」という内容だった。
特に今回は自分を必要としてくれる人に出会えたというのが書かれており、そこに怯えや恐怖による筆跡の震えなどはなく、本当にそう思って書いたのだろう。
それを見てほっとする国王に王妃の対応は冷たい。
「あなた。あんな奴のことより国の統治にかかわる仕事をしたほうがよろしいかと思いますよ? 時間は限られていますし」
「ああ、そうだったな」
王妃は実の夫に尻を叩くような声で半ば命令に近い指示を出す。
「陛下! またエディ様が
それと同時にエディ、エドワード王国第1王子の問題行動が飛び込んでくる。
「あのバカ! 見張ってろと言ったじゃないか! 何をやってるんだ!」
「すでに衛兵の手で賭博場から引きはがされてここまで連れてきました。あとはお願いします」
文官である王の配下と入れ替わるように、
「エディ! ギャンブルに血税を注ぐのはやめろとあれほど言ったじゃないか!」
「いやでも「使っちゃったらヤバいカネを使った」時の
大丈夫、トータルでは負けてないはずだし負けても賭博に関する税で戻ってくるから大丈夫でしょ?」
「ギャンブルを必要経費にするなと何度言ったらわかるんだこのバカ!!
どうせ「5万ゴールド使って3万ゴールドになったから勝ち」とか「5000ゴールドの損で済んでるから実質勝ち」とかほざくんだろ!?」
「そりゃそうだよ。実質的に勝ちじゃねーか。大勝ちじゃないか」
「お前……! うっ! 息が臭いぞ! 昼間から飲んでるのか!?」
「そりゃもう賭博は飲酒しないと正常に判断できないし、エールにルーレットの予想を聞くこともできないからな」
反省の「は」の一画目も見せないバカ息子を、父親は殴った。エディは28歳にもなって親から説教を食らうという情けない姿をさらしていたが、反省する気は全くない。
そもそも、自分のやったことでなぜ父親からここまで怒られなければいけないのか? なぜ殴られるほどの事になってしまうのか? それが分からないのだ。
エドワード王家の世継ぎである長男エドワード4世、通称エディ。現在のエドワード王国の国王と王妃の血を引く由緒正しい身分の彼は端的に言えば「信じられないほどとてつもない無能」だった。
幼いころからの教育係も一同そろって匙を投げるほどの一言で言えば「超大バカ」であり、よその国のそれなりに名の通った大学に行かせた時も学業成績は「ダントツの最下位」で王家の面目は丸つぶれだった。
文字は読めるのだがそもそも文章を読むことができないし「文章を読む」という言葉がどういう意味なのかすらまるで理解出来ていない。
文章読解能力がここまで壊滅的なのだから当然、簡単な足し算や引き算すらできない。ましてや掛け算や割り算などもってのほか、だ。
お情けで卒業させてもらった後に実家に戻ってからは、父親の配下という形で治世に参加するが政治的手腕も皆無で、28歳となっても嫁が来ず王位も継げないボンクラ王子でいながら、
自分は並み以上の才能はあると思い込んでるという、どうしようもなくダメな落第生だった。
その割を食うのは彼の尻拭いをさせられる配下や彼の弟であるロトエロ第2王子。ロトエロもまた王の配下として統治に参加しているが、こちらはうまくいっている。
下手したら父親よりも上手いとさえいえるほどの治めぶりだ。
「ハァーア。よりによって何であんなバカ兄貴の尻拭いをしなきゃいけないんだ。学業成績が上位5%に入る俺があんな最下位に……。
あのバカ兄貴が将来の国王で俺がそのケツを拭かなきゃいけないのが納得できん! 俺の大学での学業成績は常に上位5%以内だったんだぞ!?」
仕事でバカ兄貴の尻拭いを続けさせられているロトエロ。彼は大学の成績を引き合いに出してマウンティングする男だった。
愚痴を聞いた王妃は優しく彼に語り掛ける。
「ロトエロ、あなたは立派な王子よ。何せ『私の血を引く』子供だからね」
「母上……」
エドワード王家第2王子、ロトエロ。彼は確かに『王妃の息子』であった。そう『王妃の血を引く息子』だった。
このことがエドワード王家を二分する大騒動の発端となるのだが、今の彼らはそれを知らない。
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