第14話 恐怖
「ねぇ、私の事怖くないの?」
いつものようにメイドの手により着替えをされている最中、カレンはメイドにそう尋ねる。
実家では「エドワードの魔女姫」と呼ばれ、家族からは
「私たちは陛下の生い立ちを知っている以上、カレン様が特異な能力を持っていてもそんなに驚きはしません。
何せ陛下は「家族一同を呪い殺した」なんていう根拠はないもののそういう噂があって、実際やろうと思えばそれが出来るお力を持ってますから。
それに比べれば、というのも問題になるかもしれませんが、心を読む程度の能力はどうってことないですよ」
メイドは着替えを手伝う手を休めることなくそう答える。着替え同様、慣れたものだ。と言わんばかりの表情と口調だ。
「やはり実家ではその能力で恐れられていたものなのですか?」
「うん。みんな気味悪がって私には近寄りもしなかったわ」
カレンは昔話を始めた。
◇◇◇
「え!? 魔女姫と息子との縁談ですか!?」
王国の地方領主である彼にとって、上司となるエドワード国王がカレンを連れてやってきた理由。それはカレンとの縁談だっだ。
だが話を聞いた相手は曲がりなりにも王であるカレンの父親のセリフに明らかに嫌そうな顔をして強い否定の色を出す。
「国王である私の娘と結婚できるんだ。君たち一族に王族の血が入るということはこの上ない事では……」
「お断りします!」
普段はギリギリまで正式な回答を引き延ばすクセのある、カレンとの縁談を持ち掛けられた相手は彼らしかなる「即断即決」で断った。
しかも相手のセリフを最後まで聞かない上での回答だ。
「お前! 王である私の命令が聞けないのか!?」
「これだけはどうしても譲れません! 魔女姫の血がわが家に入るとなると末代まで陰口を言われることになってしまいます! それだけはどうしても防がなくてはなりません!
断罪したければいくらでも断罪してください! 何だったら
ですから、この魔女と息子の縁談は何が何でもなかったことにしていただけませんか!? お願いいたします!」
「ぬうう……」
彼は、いや彼の目は「必死」だった。自分の家に「魔女姫」の血を入れないために「必死」だった。
何が何でも、何としても、ありとあらゆる犠牲を払ってでも、それこそ自らの命を差し出すことになったとしても、自分たちの血筋を守りたかったのだ。
「ううむ、分かった。そこまで腹をくくっているのなら仕方ない。カレン、行くぞ」
エドワード王国は国と付くものの、弱小の国。領土の統治ができる人材は希少だから補充したくてもなかなかできないため、いくら
仕方あるまい。と国王親子は交渉決裂という結果を持って帰っていった。
2人が背中を向けて去っていくのを見て、地方領主の男は心の底からホッとしていたという。
馬車に揺られて帰る間、父親は娘に詫びるような声で告げる。
「カレン、すまない。国内の爵位持ちからはこれですべて断られた。今後は
「いいんです。私はみんなから嫌われていますのでこれくらい別に……それに縁談が無ければ修道院に入って神の教えを説けばいいので気にしていませんよ」
王侯貴族の娘が特に婚約者がいないとなると修道院に入って神の使徒となるのが定番だった。
カレンは自分の持つ特異な能力ゆえに誰からも嫌われていたのは分かっていたので結婚はできず、ゆくゆくは修道院に入って生涯未婚で終わるだろうと10歳になる前から既に決めていた。
「カレン、修道院に入るのはあくまで最後の手段だ。お前にはできれば結婚して家庭を持たせたいと思ってる」
「お父様……ありがとうございます」
父親が何とかして娘である自分に縁談を、というのはつらい人生を歩ませた罪滅ぼしの1つだろう。カレンは幼いなりに理解していた。
◇◇◇
「……そんなことがあったんですか」
カレンの話をメイドは真剣な
「ええ。だからデニスさんと結婚の話が出てきたときはビックリしたわ。なんで私を指名したのか全く分からなかったからね。実際には私の能力が目当てだったらしいけど」
「カレン様、お
「まぁね。今はこうして結婚するんだし、それなりにいい生活を送っているから「あの頃は辛かった」だなんて言えるんだろうけど」
カレンは軽そうに言うがメイドには重いものだった。
「カレン様は強い人ですね。陛下と同じようなお人柄で、苦しみを知っているからこそ優しく接することができる人ですね」
「そういうものかしら?」
「そういうものですよ。っと、お着せが終わりました。今日も行ってらっしゃいませ」
「今日もありがとね。じゃ、行ってくるわ」
カレンの1日が始まる。婚約者として将来は王妃になる身ゆえに、王国のNo.2として国の運営に関する仕事を越してきて来た時から始めていたのだ。
今日もその仕事で、書類相手に格闘することになっていた。
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