第13話 魔女姫にしかできない仕事
カレンがアランドル王家に身を寄せるようになって、半月ほど。今のところ彼女の能力は悪影響を与えているわけではなく、城に仕えるメイドや執事も彼女のことを肯定的にとらえている。
彼女がデニスとロロムの3人で朝食をとっている時、デニスが声をかけてきた。
「カレン。ここでの生活には慣れたか?」
「は、はい。みんな優しいし着るドレスもきれいだし、食事もとってもおいしいし、私なんかがこんな生活送ってもいいかなって位には充実してます」
「そうか、それはよかった。ところで今日からカレン、お前にやってもらいたいことがあるんだ。お前にしかできない重要な仕事なんだが、いいか?」
「私にしかできない重要な仕事……?」
「私にしかできない仕事」って何だろう? 彼女は考えるが、答えは出ない。
朝食を終え、カレンはデニスと衛兵に連れられて王都内にある古い建物にたどり着いた。
(王立魔法研究所……?)
年季を感じさせる建物の門にそう書かれてあった。
「着いた着いたここだ」
デニスは中に入っていく。カレンもそれに続いた。
中にある実験室らしき場所で待っていたのは6人の男女、男4人に女2人のグループだ。みんなお揃いの制服らしきものを着ていた。
「あの、デニスさん。この人たちは一体……?」
「ああ、紹介が遅れたな。我が国の精鋭を集めた国内最高峰の魔術研究チームだ。これからお前の能力の秘密について研究や解明するために協力してほしいんだ。
まぁ悪い言い方すれば実験のサンプルだな。もちろん肉体的にも精神的にも傷つける真似は絶対にさせないから安心していいぞ」
「私の能力ってことは、この心を読む力を研究したい、ってわけですか!?」
「まぁそういう事だな。どういうメカニズムでその能力が発揮されるのかを知りたいんだ。できれば人工的に再現出来るようになるまで研究を続けたいんだ。いいか?」
(「はい」か。でも何でこんなことを?)
どうやら目的はカレンの能力らしい。
カレンの実家では彼女の能力を詳しく知りたいという人はおらず、ただただ「心を読まれる」事に恐怖を抱いていた者達だらけでこの力は「呪い」だと思っていた。
それを研究したいだなんて……。
「私、この能力のせいで昔から気持ち悪いだの怖いだのと言われて疎まれてたのに、怖くないんですか?」
「いやぁ、あいにく恐怖よりも好奇心の方が勝ってしまいますな。魔法が体系化される前の原始の魔法というのは実に興味をそそられますよ」
「ふーん」
(「はい」か。研究職っていう人の考え方かしら?)
見た目から言って「研究チームの主任」だと思われる、他のメンバーに比べ明らかに年を取ってるように見える男がそう言う。
研究に人生をささげている人間という、ある種の「変人」にはそう見えるかもしれない、とカレンは思った。
「カレン、お前の能力が人工的に再現できるのなら、例えば裁判で悪人がずる賢い弁護士をつけて言い逃れすることを防げる。その際お前の能力は誰よりも役に立つはずさ」
「……私の能力が、人の役に立つの!?」
「そうだ。決して驚くべきことじゃないぞ」
デニスからの言葉に信じられない! と言いたげな顔で彼女はそう叫ぶように言う。
「じゃ、じゃあ私の国と同盟を組む際に私を指名したってのはまさか、これのためだったの!?」
「まぁな。その能力が欲しかったってのがある。まぁ予想以上の収穫だったからよかったよ」
「予想以上の収穫……って、何?」
「……まぁ、その。見た目とか将来性とかな」
「それ本当の事?」
「もちろんだとも」
(「はい」か。嘘はついてないみたいね)
「えーと……デニス様にカレン様、よろしいでしょうか?」
できれば本題に入りたい研究チームの1人が声をかける。
「ああ、すまない。長話しちゃってな。カレン、行ってくれないか?」
「わかったわ。でも、大丈夫なんでしょうね?」
「もちろんですとも。
では早速「スキャン」させてもらいます。そちらのベッドに横になってください。横になったらなるべく動かないでいてくれますかね?」
「わかったわ」
カレンは言われるがまま検査台のようなベッドに横になる。すると何かゴテゴテした道具が動き出し、彼女を見る。しばらくして……。
「はい今回はもう終わりです。お疲れさまでした」
「え? もう終わり?」
ほんの数分で「スキャン」なる行為は終わった。
「今後何かあったらお呼びいたしますのでその際はまたこちらまでお越しください。では早速解析に移らせていただきますので」
「は、はぁ……」
そう言って研究チームは全員引っ込んでいった。
「それにしても私の能力が役に立つ。なんて初めて言われたなぁ」
帰り道、デニスや衛兵たちと一緒に城に帰る途中、カレンはつぶやくようにボソリ、と漏らす。
物心ついた時には既に持っていた、彼女が「魔女姫」と呼ばれるようになった原因である心を読む能力……実家ではそれは気持ち悪がられ、疎まれ、さらには
明確な敵意すらを向けられたこともあったが、その能力が人の役に立つ。と言われたことは1度たりとも無かった。
正直言って、自分の能力に対して今回の研究チームみたいな感想を持たれたことは今までに1度としてなかったため、そう思われるのは完全に意外だった。
ただでさえ「
となると悪い方に考えてしまうのは世の常。カレン本人も能力を呪ったことは結構あった。
「カレン、お前の能力は包丁みたいなもんだよ。料理を作れる道具であると同時に人を殺せる凶器にもなる。お前の能力も使い方さえ間違わなければ人の役に立当てると思うぞ」
「そうなんですか……そういう考え方なんて1度も出来なかったなぁ」
「見る目が無いんだなぁ。あ、お前の実家をけなす意図はないぞ」
「分かってますよデニスさん。でも本当に私の能力が役に立つなんて今でも信じられないわね」
「そのうち信じられるようになるさ。俺も昔はそうだったし、まぁ俺もカレンも時間はあるからそのうち分かると思うぞ」
「……そうよね、そうだよね」
他ならぬデニスさんがそういうのなら、そう力説してくれるのなら信じてもいいかな。カレンの心が少し変わった瞬間だった。
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