第6話 城下町の住民との交流

 朝食を終え街がすっかり目を覚ました頃、デニスは剣を身に着けカレンと共に城下町の視察に向かった。数人の衛兵に守られながら、街の要所を訪ねていく。


「見て、デニス様じゃない?」


「本当だ! デニス様だ!」


「デニス様ー! こっち向いてー!」


 街の住民たちはデニスの姿を見るや歓声をあげる。その表情は、笑顔。決して作り物ではない心からの表情、まぎれもない本物だ。

呪殺王じゅさつおう」なんていう物騒なあだ名がついている割には、街の住民はかなり好意的に接してくれていた。カレンは彼らから話を聞くことにした。




「随分としたわれているわね。デニスさんは何か特別なことでもしているの?」


 カレンがそう民衆に聞くと、好意的な意見が返ってきた。



「もちろんですとも。デニス様は畑にかかる税金を5割から4割に減らしてくださって、それはそれはありがたいお方ですよ。カレン様、あのお方はとてもお優しい人ですよ」


 郊外から農作物を売りに来たと思われる老婆、それもうわさ話でも聞いたのかカレンの事を知っている彼女がデニスをほめちぎり、


「ええ、ごひいきにさせてもらってますよ。デニス様は我々商人の取引が活発になるように通行税を引き下げてくださった上に、街道の治安も良くして下さったんですよ。

 通行税は諸外国と比べると4分の3程度になってますし、前より安全に行商ができるようになったんですよ。ありがたい話です」


 商人らしき男はデニスを称賛しょうさんし、


「それはもう感謝しきれないほどですよ。デニス様は農民でもパンが食べられるようにと、かまどにかける税金を引き下げてくださったんですよ。いい王様だと思いますよ」


 夫や子供を支える若い母親もデニスに対し好意的な印象を持っていることを語る。



(全部「はい」か。随分と領民にやさしいわね)


 特に税金に関する答えが返ってきた。税金でこれだけ優遇するというのなら、そりゃしたわれて当然か。と彼女が納得した、その時だった。




「クソッタレの「呪殺王」め!」


 民衆の中から罵声ばせいと石が飛んできた。デニスは慣れたもの、と言いたげに投げつけられた石をキャッチし、ポイッと捨てる。

 と同時に、デニスやカレンを守る衛兵たちの内2名が石を投げたふとどきものを見つけ出し、捕らえる。

 突拍子もない出来事にカレンは呆然として何もできなかったが、デニスは慣れたものだと言わんばかりに衛兵に捕らえられ、引き出された相手に対し話だけは聞く姿勢を見せる。


「俺がどういう人間かは知ってるよな?」


「当然だ! リリック陛下とおきさき様を殺し! 王子と姫様を殺し! 挙句あげく国を乗っ取った「呪殺王」め! お前なんて死んでしまえ! お前のせいで国がメチャクチャになっちまったじゃないか!」


 その平民は殺意さえ見せる凄まじい憎悪をデニスに叩きつけていた。




「!! その話、本当の事なんですか!?」


「そうだ! コイツのせいで陛下もお后様もみんな死んだんだ! この国を乗っ取って国王名乗りやがって!」


(「はい」ですって!? どういうことなの!?)


 彼の心の声を読み取ったカレンは少しだけ未来の夫におびえる。本当に殺したのか?


「見ない顔と声だな……とりあえずテメェは初犯だろうから法に基づいてムチ打ちと罰金刑で勘弁されるだろう。またやったら今度は国外追放だから覚えとけよ。牢獄に連れていけ!」


 デニスは険しい顔をしながら罪人ににらみを利かせ、慣れた様子で連行させた。




「カレン様、事情が変わりました。安全のために今回の視察は切り上げて城へと帰ることにいたしました。よろしいでしょうか?」


 彼女を護っている衛兵が険しい顔をしながらそう言う。


「仕方ないわね。わかったわ、帰りましょう。ところでこんなこと滅多にないよね?」


「う~ん……デニス様が視察に出られると10回に1回くらいはこういう事が起こりますから滅多にない、とまではいかないですよ」


「そ、そう……」


(……明らかに多すぎるわよ、それ)


 平民から敬愛されているくらいに慕われるのが本当の姿なのか、それともロロム以外の王族を呪い殺したのが本当の姿なのか、カレンにはわからなかった。

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