第2話 「魔女姫」カレン

「国王陛下の、ご帰還!」


 先行していた兵士が一足先にエドワード王城に帰還し、国王の帰りを知らせる。

 その後やってきた国王の帰りを城を任されていた母親に似た深紅の髪と紅茶色の瞳をした王の息子、エドワード王国の第2王子ロトエロが父親を出迎える。


「おかえりなさいませ父上、ご無事で何よりです。ところでアランドル家からの要求はどういうものだったのでしょうか?」


「こちら側としては持参金を渡して、カレンを嫁に出すことで同盟を組むという話で決まった。特に問題がなければ1ヵ月後にはカレンはアランドル王家の城に住むことになる。

 向こうの国の事情で式はだいぶ先になるだろうがな」


「カレンを、ですか? まぁ友好の証として姫君をめとるというのは妥当と言えば妥当ですが本当に相手はカレンで納得できるでしょうか?」


「そこに関しては何の問題もない。相手側もカレンを「魔女姫」と呼んでいた以上、その辺は織り込み済みだろうな」


 アランドル王家からの要求はカネと姫君であるカレンを差し出すこと……だが出生に難のある上に「魔女姫」と呼ばれ疎まれている末の妹カレンでも本当にいいのだろうか? 彼にはわからなかった。




 現在12歳の少女、カレンは「一応は」エドワード王家の末娘であり、父親である国王の血を彼に似た銀色の髪という形で引いている正真正銘しょうしんしょうめい本物のプリンセスという娘だ。

 だが彼女と「王妃」との間には血のつながりはない。いわゆる妾腹めかけばらの娘だった。


 父親が女遊びをした末に生まれた子供とも、あるいは国内最高峰の娼婦しょうふとの間の子供だと噂はいろいろ立っているが、

「種をばらまいた」本人である父親が決して真実を語ろうとしないので本当のことはいまだ謎である。


 それゆえに父親以外、具体的には彼女にとって義理の母親と2人の兄との関係は「凍り付いている」という関係で、疎んじられて育っていた。

 だがそんなこと……そう「血縁関係ですら『そんなこと』という言葉でどうでもよくなる」決定的なものをカレンは抱えていた。




 国王が周りの人間と同盟に関する話をしたところで、彼は娘のカレンに彼女の部屋で事情を説明する。

 まともに掃除されたことが無いのか少しホコリ臭く、ワラの上にあさで出来た肌触りの悪いシーツが敷かれたベッドに小さな机、

 それに衣装や身の回りの物を入れる長持ながもちがあるだけ、

 おまけに採光のための窓も小さく数も少なめで日中でも薄暗いという、ここを見た限りでは姫君が住む場所とは到底思えない部屋だ。


「……ということなんだ。正直言って、我が王国を守るにはこれしか手段が無い」


「お父様は私を「呪殺王」のところへ嫁がせたくはないのですか?」


「できればな。カレン、お前は散々な人生を歩ませたから、せめてもの罪滅ぼしに少しはまともな男のところに出したかった。

 家族を呪い殺したなんていうとんでもない噂のある男に嫁がせたくはなかったんだ。でも我が王国のためにはこうするしかなかったのだ。許してくれ」


(「はい」か。相変わらずお父様だけは優しく接してくれるのね)


 カレンは「魔女姫」と呼ばれるにふさわしい能力で父親の心を読み取っていた。




『血縁関係ですらどうでもよくなる』決定的なもの……彼女は物心ついた時から特異な能力を持っていた。それは「相手の心を読む」能力。

 より正確に言えば、カレンが話相手に質問した内容に対してそれが相手の本心なのか、そうでないのかが「はい」か「いいえ」のどちらかで見抜くことができる。

 その的中率は100%で、幸か不幸か今まで外した事はただの1回たりともない。


 彼女の前ではいかなる嘘もつけない。となると当然気味悪がられ、いつしか彼女は「魔女姫」というあだ名で呼ばれるようになり周りから人はいなくなった。

 彼女の世話をする侍女もそういう仕事とだからと嫌々接しており、まともに心を許せる友達と呼べる者は12年間という彼女の人生の中でただの1人もいない。




「いやーしかしカレンが嫁に行くことになって本当に良かったですよ」


「ハハッ。そうですな。神に感謝ですな」


 食事を終え、兄たちがいかにも楽しそうに会話しているのをカレンは盗み聞ぎしていた。嫌われているのは慣れているけどここまでとは。彼女の傷だらけの心にもう1つ傷がついた。

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