第3話 まだ夢を見るのか……

 夢内での俺射殺事件が終わっても、俺は同じ夢を見続けていた。


 夢の開始起点が死ぬ場面より十年、いや九年程度巻き戻ってはいたが、その内容には変化は見られず、またそこから死の直前までを繰り返すみたいだ。


 このままだと、いつか又あの死の苦痛を味わう破目になるだろう事が推測される。


 だが、俺はもうあんな地獄の様な体験は二度と味わいたくはない!


 何度も死を体験したいなんて奴がいるのならば、そいつに謹んで俺の夢を進呈してやりたい!


 と、まあそんな訳だから何とか死ぬのを回避したい所なんだけど、そう事は簡単には進まない。


 まず前提条件として、俺は夢の中の自分を操作できるという訳ではないというのがある。


 そう、俺は夢の中で自由に身体を動かせないんだ。


 例えればヘッドマウントディスプレイ(HMD)でバーチャルリアリティ(VR)映像を見せられている様なものだ。


 その映像の内容は、テレビ放送の番組の様に視聴者にはどうする事も出来ない。


 あ、いや俺自体を操作する事は出来ないが、ビデオを見ている時の様に時間を進ませる事は出来る。


 その場合には、飛ばした時間の内容は前回の夢と同じになっているみたいだな。


 所でさっきの話に戻して言えば、もしそれが出来るのなら前回の夢での死を甘んじて受け入れるような事態には、絶対にしていなかったと断言出来る。


 じゃあ、俺に他に何が出来るのかと言えば、精々雰囲気作り位だろうか。


 皆も感じた事くらいはあるだろう?


 そう、虫の知らせとか周囲に漂う嫌な空気とか悪寒を感じるだとかを。


 普通の人ならそういう事態になった場合は、それまでやっていた行動を中止したり変更したりすると思う。


 俺にはそれを狙っていくという方法しか思い付かなかった。


 まあ、取り敢えず俺の取れる手段の方向性が決まったので、その為の事前準備を行っていこうと思う。


 即ち、嫌な気配を感じてそれに対処したら、被害を免れたとかの経験則を数多く積ませて置いて、いざという時に素早く回避出来る心構えを常にさせて置くんだ。


 これがっ、【霊感山勘第六感作戦】だっ!


 俺は夢の中での生活を、数えきれない程に何度も繰り返してきたお陰で、この後にどんな事が起こるのかは大体把握している。


 だから、嫌な事が起きる寸前に気分を鬱状態に近付けるという事を繰り返せば、次第にこの気分に成った後には悪い事が起きるという条件付けが出来る訳だ。


 後はどの時点で嫌悪感を与えるか何だが、取り敢えず武力衝突時の戦支度をする場面での革鎧を着る段になった時を選んでみた。


 すると、夢の中の俺は手に取った革鎧を在った場所に戻して、隣に置いて在った金属で出来た胸鎧に手を掛けた。


 そして暫く旬順した後にそれを着け出した。


 何で直ぐに着なかったのかと言えば、ちょっとしたいざこざ何かでそんな重武装をすれば、周りの者に俺がこの戦いに必要以上に気合いを入れていると思われ兼ねなかったからだな。


 もし、そのように周りの者が思ったとしたら、領主の長男の覚えめでたくなる様にと、要らん頑張りをして怪我人や死んだりする者が出ないとも限らないからな。


 うんうん。俺ってばちゃんとその辺の事も考えられる頭を持っていたんだなぁと感慨深く思っていたが、今はそれよりも他の防具をどうするかの方が重要だ。


 俺は念の為に更に不安感を煽っておいて、頭部用の防具も追加で着けさせる事に成功した。


 良し! これで多分、矢で撃たれてもまず死ぬ事は無いだろう。


 俺は今回の死の回避の準備状況に、まあまあの手応えを感じて、少しだけ安堵した。


 今、俺の頭でもって考えられる唯一の方法であるこの方策は、思ったよりも案外上手く行くのではないかとね。


 さて、夢の中の時間は順調に過ぎて行き、遂に問題の場面まで到達したようだ。


 そしていつもの様に致死の矢が俺に向かって飛んで来た。


 が、何時もはそこで夢が終わる筈なのだが、今回はそうはならないみたいだ。


 飛んで来た矢は、カンッという音を立て胸部の鎧に跳ね返されて地面に落ちた。


 俺はやったという思いで歓喜に包まれたが、実際に矢を受けた方の夢の中の俺は驚愕していた。


 そして、相反する胸中の混乱の中で、矢が飛んで来た方向を見定め様と顔を上げた俺が見た物は、眼前に迫り来る新たな矢の先端だった。


 と、いう所で俺はまたしても夢から覚めていた。
























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