カリーナ夫人とシャロン叔母さま 2

▫︎◇▫︎


 瀕死状態でお店に到着したアイーシャは、先に到着してお店の前で待っていたカリーナに怪訝な顔で出迎えられた。


「アイーシャ、体調が悪いの?」

「い、いいえ………」


 ふらふらとした足取りに、真っ赤な顔。到底大丈夫には見えない状況に、カリーナの疑問はなおのこと膨らむ。


 ーーーカツカツカツ


「ご機嫌よう、あなたがカリーナ夫人?」


 美しい銀髪をサラッと流し、年齢を感じさせない明るい笑みを浮かべたシャロンは、ハイヒールを鳴らしてカリーナの前に立った。


「………お初お目にかかります。カリーナと申します」

「私の名前はシャロンよ。アイーシャがお世話になっているから、1度ご挨拶がしたかったの。あぁ、畏まらないでちょうだい。私、あなたとは友人になれそうだって思って今日は来たの!!敬語も禁止よ♪」

「………分かったわ」


 カリーナはテンションの高いシャロンに一瞬だけ怯んだあと、すぐに困ったような微笑みを浮かべた。


「それにしても、アイーシャはどうしたのかしら?随分………、憔悴しているようだけれど………」

「褒めてたの!!可愛い可愛いって30分間褒め続けていたら、こうなっちゃったわ。本当に困った子」


 顎に手を当てるシャロンに、カリーナは苦笑する。


「アイーシャはもっと自分に自信を持つことが大事ね」

「えぇ!同感よ!!だから、今日は自信が持てるようなお洋服をいっぱいいっぱい着せようと思って!!」

「それは同感ね」


 アイーシャは感じた。


(あぁ、これはやばい雰囲気だわ)


 捕食者の目をした2人に、アイーシャは精霊をぎゅっと抱っこしながら、半泣きになるのだった。


「では、入りましょう、カリーナ夫人」

「えぇ、そういたしましょう、シャロン夫人」


 2人はささっと頷き合って、アイーシャを置いてさっさと店に入っていく。呆然と2人のことを見つめていたアイーシャは、2人の姿が消えた瞬間に、焦りながら店に入ることになった。


『いらっしゃいませ!!』


 揃った挨拶を受けながら、アイーシャは2人の後を追う。お店の奥に奥に案内されながら、さまざまなデザイン、色彩のドレスを見つめる。タキシードを見つけては、サイラスの顔を思い浮かべて、似合うだろうなと想像するのは言いようもなく楽しい。1番奥に部屋に案内されて、アイーシャたちは席についた。


「それじゃあ、アイーシャのサイズのお洋服を出してちょうだい。うんと上品なのをね」


 シャロンが声をかけた。にこっとよそ行きの笑みを浮かべる彼女は妖艶に見える。


「うんと可愛いのをね」

「はい、かしこまりました」


 カリーナも要望を述べると、店員さんはアイーシャの要望を聞くことなく店の裏に入っていく。アイーシャは苦笑しながらも、エステルの頭をよしよしと撫でた。シャロンの精霊ライトがふわふわとアイーシャのそばに寄ってくる。


「《し、死なないでね?》」


 ビクビクと怖がりなライトは、アイーシャに向けて不吉なことを話しかけてくる。


「ねえ、………わたしはこれから危険な目に遭うの?」

「《えぇ、遭うと思うわ》」


 カリーナに懐いている精霊の言葉に、アイーシャはぴくぴくと口の端を痙攣させた。


「が、頑張るわ」


 頼りない言葉を発したアイーシャに、精霊たちはそれぞれのできる最も可愛らしいエールを送った。

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