第23話

 アイーシャはくるりと踵を返して祖母と叔母の待つ馬車に戻ることとした。まだ少し郵便局の中を見てみたいが、あまり時間がかかってしまうと2人が心配するとアイーシャは思ったのだ。


「ねぇねぇ君、可愛いね。僕らと一緒に出かけない?」


 アイーシャが出口に向かって歩き始めると、沢山の男の人達に囲まれてしまった。比較的小柄なアイーシャは大きな男達に囲まれて小さく怯えた。


「え………」

「そうそう、俺らここら辺に詳しいから一緒に回ろうよ。君、ここに来るの初めてでしょう」

「あの、」


 必死に声を上げようとするが、一向に聞いてくれる気配はない。それどころか、ベラの口を塞いで暴れることができないようにしている。


「ほら、いくよ」

「い、いや………」


 当然ながらアイーシャの抵抗は無駄だった。無理やり引っ張られたことに恐怖を覚えぎゅっと目を瞑ったアイーシャは、祖母と叔母に戻ってもらったことに酷く後悔した。


「この子、嫌がってるよ。離してあげたら?」


 麗しい低めのバリトンボイスに、アイーシャは恐る恐る顔を上げた。すると、そこには白に近い銀髪に氷のように冷たい水色の瞳を持つ青年が立っていた。身なりから高位貴族であるとアイーシャは予測した。


「手、離したらどうなの?」

『も、申し訳ございません!!』


 青年がもう1度冷たく声をかけると、男達は顔を青くして散り散りに去っていった。


「た、助けていただきありがとう存じます」


 男達から解放されたベラは、ちょっとだけ頬を染めながらお礼を言うアイーシャの後ろで、深々と頭を下げていた。


「いいや、気にすることはない。それにしても君、この国の貴族じゃないよね?どこの誰?」

「………この度イスペリト家に養子で入ったアイーシャ・イスペリトと申します。あなたさまは………?」


 イスペリトという言葉にピクリと反応した青年は、すぅっと目を細めた。


「ん?あぁ、サイラスだ」

「サイラスさま、ですか?」

「あぁ、」


 アイーシャはこてんと首を傾げてサイラスの名前を呼んだ。サイラスはうぐっという声を漏らして頬を赤く染めた。

 アイーシャはそんな彼の様子にますます首を傾げながらも、彼の肩に座っているエステルと同じ黄金の輝きを持つ精霊に視線を向けた。アイーシャは比較的沢山の精霊を見たことがあると自負しているが、エステルやライト以外の光の精霊を見るのはこれが初めてだった。

 アイーシャのじーっとした視線に気がついた男の子の光の精霊は、サイラスの首をちょいちょいと叩いた。


「ん?………紹介しろと言いたいのか?」


 サイラスの不思議そうな質問に、小さな精霊はこくんと頷いた。


「イスペリト公爵令嬢、君は精霊眼持ちかい?」

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