第10話
その後精霊達は自然と輝きを消して隠れていった。
「あの、皆さまに刺繍を刺してみました。よければ受け取ってください」
精霊達に沢山の勇気を分け与えてもらったアイーシャは6枚のハンカチを取り出して、新しい家族に丁寧な仕草で配った。
「これは!?」
「どうかなさいましたか?」
「いや、これには精霊の祝福がかかっているようじゃから」
アイーシャの刺した刺繍を撫でながらラインハルトは感心したように言った。アイーシャは褒められ慣れていないこともあり、気恥ずかしくなった。
「エステル達がいつもしてくれるんです。契約していない子達もわたしの刺繍を見ると無性に祝福したくなってしまうのだとか」
「そうか………。ありがとう、アイーシャ。大切に使わせてもらおう」
「はい!」
アイーシャは満面の笑みを浮かべた。
(こういう風に笑うのはいつぶりだろうか………)
物悲しい気持ちに浸る間も無く、アイーシャは次々にお礼の嵐を受けることになった。
「ありがとう存じますわ、アイーシャちゃん」
「ありがとう!アイーシャちゃん!!私、こんなに綺麗な刺繍は初めて見るわ!!」
「ありがとうございます、アイーシャちゃん。エミリア姉上、君の母上よりも圧倒的にお上手です」
「ありがとう!アイーシャ!!」
「ありがとう、大切にするよ。アイーシャ」
嬉しそうに目を細めたアイーシャに、エステルがひょっこりと顔を出した。
「《よかったわね、アイーシャ》」
「うん!!」
エステルに頭をよしよしと撫でられたアイーシャは挨拶をして退室し、与えられたお部屋にベラに案内してもらった。
▫︎◇▫︎
「皆、アイーシャに関することは秘匿じゃ。分かっておるな?」
部屋に残ったエカテリーナ、ユージオ、シャロン、ユアン、ショーンはラインハルトの言葉に真剣な表情で頷いた。
「アイーシャちゃんの精霊使いとしての能力は異常です。しかもこのハンカチへの祝福、彼女は100年に1度現れるか現れないかと言われている精霊の愛し子で間違い無いでしょう」
「父さん、アイーシャを国王陛下に保護してもらうべきです」
ユージオの言葉に、メガネをクイっと上げたショーンが提案し、皆が頷いた。
「俺の勘だけれど、アイーシャは多分サイラス殿下と気が合うと思う」
「そうね!王太子であり、文武両道、眉目秀麗なサイラス殿下ならアイーシャちゃんにピッタリね!!」
「そうと決まれば、舞台のセッティングが必要ですわね」
ユアンの小悪魔な微笑みと共に発せられた言葉に、シャロンとエカテリーナがやる気満々に答えた。
「では、アイーシャは王太子殿下に保護してもらうこととしよう。なぁーに、アイーシャは可愛くて優しい子だ。速攻でサイラスの坊主も恋に落ちらい」
「そうですね。叔父の贔屓目ながら、アイーシャちゃんは美人ですからね」
ユージオはアイーシャの夜空のような青みがかった長くて美しい黒髪に、精霊を映す理知的なサファイアの瞳を思い出して優しげに微笑んだ。
「まぁ、あの子にその自覚は全く無いようですが」
「無自覚ほど恐ろしいものはないが、サイラスの坊主なら守ってくれらい」
「そうですね。というか、守ってくれそうにないのでしたら、我が家は王家に
ユージオの親バカならぬ叔父馬鹿に、皆が一様に苦笑した。
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