第十六話
コラボ配信が終了し、その枠がきっちりと閉じられたのを確認してから声を発する。
通話自体は未だ繋げたままだからね。
「さっきはすみませんでした。その、うちのリスナーがまた不用意な発言をしてたからつい……」
『あ、お◯みこ〜ってやつですか』
「はい。あの人いつもああいう危うい感じのコメントをするんですよね……」
『そうなんですか……そういえば名前も凄いですね。全裸お兄さんって……』
「あー、それはあれです。何かを待つ時に全裸待機ってあるじゃないですか」
『ありますねー』
「あの人は以前それをして、そこから配信が終わるまで全裸設定でネタコメしてて、それで吹っ切れたのかネタコメ、変態コメをするようになって、その上で名前まで変えちゃったんだよね……」
『うわぁ……それはなんというか、凄いですね……』
「ですよね〜……。ただまあ、それで助かってる部分もあったりするんですけどね。雑談中にコメント拾ってネタにしたり出来ますし、こんなんやってられっかとか、相手するの疲れたって感じで話題を終わらせるのにちょうど良かったりするんですよね。こういう事は本人には言えませんけど」
『あー、なるほど。私のところのリスナーもたまにセクハラ発言とかありますけど、それに対して怒って見せたりとかモテないぞとか言ったりしてネタにする事はありますね』
「やっぱりそう言うのってあるんですね」
『ありますねー。まあ、酷過ぎるのは無視したりコメント消したりしてますけど』
「それは俺もですね」
『あ、コメントと言えば気になっていたんですけど、藻とか芒とかのコメントってなんですか?』
「あれは草生やす代わりに使われてますね。最初は誰かがコメントした木の絵文字だったんですが、それがいつの間にかそれっぽいのや一文字の漢字が使われるようになったんですよね……」
『なんていうか……ヒカリさんのリスナーって、独特ですね』
本当にね……。
なんでこうなっちゃったんだろ?
ああ、元々俺はバ美肉して友人のようなノリで配信してたから、悪ふざけとかそういうのが当たり前になっちゃったからか。
つまり自業自得と。
「自覚はしてますが、今更どうしようもないですよ……」
『そういえばリスナーは配信者に似るって言いますよね……つまりはヒカリさんも独特ということになりません?』
「えぇっ!?」
『ま、それは置いておいて』
「置いておかれた!?」
『そろそろ今日の反省会と次のコラボの企画を考えましょうか』
「え!? てっきりコラボのやつは社交辞令か何かかと……」
『本気で思わなければ配信では言いませんよ。記録に残るわけですし』
「でも、これまでの人は一回だけですよね?」
『確かにそうですね。ただ、言い方は少し悪いですが、ヒカリさん程面白いと思わせるVtuberは居ませんでしたので誘うまでにはいかなかったんですよ』
「つまり俺は珍獣枠って事ですか!?」
『そういうわけではありませんが、初コラボでリスナーとプロレスするような人はそうそう居ませんから』
「あれは、ライトメイトが好き勝手してるから……」
『別に責めてるわけじゃないですよ。むしろそこが良かったわけですから。それで次のコラボはどうします? 今回の配信での反省も踏まえて決めていきたいんですが……』
「反省ですか……うーん……やっぱり……リスナーにしっかりと言い含めておけば良かった……ですかね? 迷惑じゃなかったですか?」
『確かにすごかったですけど、あれはあれで面白い配信になったと思いますよ』
「だといいんですけどね……。九十九さんは何かありますか?」
『そうですね……なんらかの形でヒカリさんの配信画面も分かるようにしておけば良かったと少し思いました』
「ああ、あのコメントですか。でも仕方ないんじゃないですかね。コラボ配信って大体そんなもんですし。企業さんのとか見てもそうですし」
『企業Vと木端な個人を一緒にしないでくださいよ。リスナーが1人減るだけでどれだけの痛手になることか、分かってますよね?』
一応、10万人目指してる身としては理解出来るけど、それでも出来る事出来ない事というのは確実に存在する。
そして今回の件は出来ない事。
状況に応じて画面を切り替えるなんていうテレビみたいな事は1人じゃできないし、画面共有で両方映したとしても、それはそれで見応えのない残念な配信になってしまう。
それになにより……
「だからってあれもこれもって肩肘張っててもどうしようもないですからね。リラックスしてる方がリスナーも安心して見れますから」
結局はこれ。
リスナーは楽しむために見に来てくれるのに、ガチガチになってるのは不安になって楽しめない。
それに、リスナーの為に行動してるはずなのにあれもこれもと意識を割いてリスナーの事をしっかり見れなくなっていたら本末転倒もいいところだ。
『それもそうですね……。他には何かありますか? こうすればよかったという事は』
「コラボ自体初なので、ここが悪かったとかはあまり分からないですね。今のところは」
『そうですか。では次にやる配信について話しましょうか』
「はい」
期せずして2回目のコラボが決まったとはいえ、リスナーを楽しませるのはもちろん俺自身も楽しむために真剣に考えないとな。
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