新作VRゲームβ版テストの抽選に落ちて、実力テストで赤点を叩き出した俺は、ゲーム禁止に? 3ヶ月間、憧れの戦士に会えることを楽しみにしていたのに、ログイン初日からパーティメンバーに固定されてました!
第9話 なんちゃってドワーフ、ココミちゃん にゃ!
第9話 なんちゃってドワーフ、ココミちゃん にゃ!
「ごめん、遅れちゃった!」
プラチナシルバーの髪を揺らし慌てて駆けて僕の前までやってきたリオン。まるで、デートの約束をして遅れてきた彼女を待ち、優しく微笑んでいるような気持ちになる。もちろん、リアルで彼女なんていたこともないんだけど、そういうシュチュエーションは何度も夢見たことがあったので、完璧すぎる夢に思わずニヤつきそうになった。
「待ったよね?」
「さっききたばかりだよ」
「本当に?」と疑うように覗き込んでくる美人で完璧な彼女。コクっと頷くと、はぁあ……と大きなため息をついたので、もしかしたら信じてもらえていないのかもしれない。
「髪、乾かすのに手間取っちゃって……ごめんね?」
「いいよ。こうして、会えたんだし」
「うん、そうだね。クズイくん、ありがとう」
「お礼言われるようなことしてないよ。これから装備を買いにいくのに」
「そうだった。どんなのがいいかな?」
いろいろ考えてはみたが、お金も溜まっていないからとお店だけ紹介してもらうことにした。実際の手持ちは結構あるのだが、普通のプレイヤーならログイン二日目で持てる大金ではないので黙っておく。
「お金や素材が集まったらって感じか。確かに……いいものは値段もするし、素材も良かったりするもんね」
「あぁ、まだ2日目で、流石にそれは難しいだろ?」
「確かに! じゃあ、お店の場所と友人を紹介するわ」
リオンと並んで商業区へと向かう。いろいろなお店が並び、その中でも一軒家のような店の中へ入っていく。
「クズイくん! こっちこっち」
キョロキョロと周りを見て歩いていたので、店の前で手を振っているリオンに気が付かなかった。
「待ってくれ!」
「先に中にいるねぇ!」
「あっ、中入ってった……待ってって言ったのに」
後を追うように扉を開くと、親しげに店主の女の子と話をしていた。
「いらっしゃい!」
元気よく挨拶されれば引いてしまう。基本的にコミュ障なわけで、昨日、よくリオンに話しかけれたなと思えるくらい動揺した。
「はぁ……ども……」
「クズイくん、こっちこっち! 紹介するね!」
手招きするリオンの隣に向かう。先ほど、声をかけてくれた女の子が、ニヤっとするのが見えた。
「何々? リオンちゃんのコレか?」
「ココ……おやぢくさい」
親指を立てる店主に向かって、リオンの一言を聞けば、仲がいいのがわかる。
「どうも、初めまして……クズイです」
「どうもっ! クズイくんね。私、この店の店主のなんちゃってドワーフ、ココミちゃんです! よろしく」
手を出してきて、握手を求められた。差し出された手を握ると、ガシッと掴まれぶんぶん振り回す。
……て、手加減っ!
言葉にすることもできず、振り回されているのでリオンが止めてくれる。
「ココに振り回されたら、クズイくんのHP削れちゃうって。ログイン2日目なんだから!」
「えっ? そうだったの?」
「ごっめーん」と軽い感じで謝ってくれるが、ペロッと舌を出す。軽いご挨拶だろうことは、身をもって分かった。
……この感じ、ココミもかなり強そう。
握られた手の痛みを確認しながら、ココミに苦笑いする。パッと手を離してくれたが、握られた手は、痺れているうえに痛いように感じる。痛覚が鈍感なこの世界で痛みを感じるのは、大ダメージをくらったときくらいのはずなのにと内心ため息をついた。
「HP減ってない?」
「大丈夫そう。手先が痺れてる気がするけど……」
「ココっ!」
俺の申し出に、リオンがココミに抗議しているが、「痺れたくらいで」と取り合っていない。
「それより、本気で握ったのに痺れたくらいってことは、相当レベルが上がってるとみた。私と同等か、それ以上」
ジッとこっちを見られてたじろいだが、体の中まで見られるようで気持ち悪い。
「ほうほう。ログイン2日目って言ったよね?」
「あぁ、それが?」
「リオンに昨日、相当しごかれたか……あるいは、ギフターズか……。私の鑑定が阻害受けてるんだけど?」
「鑑定って!」
ふっふっーんと意味ありげに笑うココミは、鑑定眼を持っているようで、俺のステータスを見たらしい。
……丸裸にされたってことか? いや、阻害されてるって言ってたから、あるのか。俺にもそんなスキルが。
思い当たらないスキルを考えながら、勝手に覗き見されたことを抗議してやることにした。
「減るもんじゃないんだからいいじゃないか。それに、ここへは、武器や防具を作りに来たんだろ?」
「あっ、そうそう。私から紹介って形で。今は、お金に余裕がないから、今後、作るときに顔馴染みになっておいたほうがいいかなって」
リオンが割ってはいり話を進める。今後の話を聞いて頷いた。頷いて思ったことが一つ。
リオン、どういうつもりなんだ?
チラリと隣に並ぶリオンがココミと楽しそうにして、これから向かうダンジョンの話をしている。欲しい素材があるらしく、ココミがメモをリオンに渡しているのを見て、やはり疑問は解消しておくに限ると頷いた。
「リオン?」
「どうかした? クズイくん」
「いや、さっきからの話を聞くとだな?」
きょとんとこちらを見て、さも当然のように言葉にした。
「クズイくんと一緒に冒険を楽しむ予定だよ?」
「……えっ? 孤高のリオンがもう一度俺とパーティを組むというのか?」
「何それ?」
「…………」
リオンはきょとんとして首を傾げ、ココミはそんな俺たちを見て大笑いを始めた。居心地の悪いこと、この上ない。
「……はぅ、笑った、笑った!」
笑っていたココミを睨んでいるリオンだったが、こちらに向き直る。
「リオンは、別に孤高って訳じゃないさ。ダイブ時間が長いから、単独行動が多い。そうこうしているうちに一緒に回ってた奴らとレベルが違いすぎて切り離される。優秀すぎるがゆえに、パーティから追い出されるんだよ」
「ちょ、ちょっと!」
ココミの説明を聞き納得した。まだ、ゲームの開始も2ヶ月足らずである。ベテラン勢がいるのに、それに匹敵するほどの時間をかけてダイブしている。高校生だというリオンは、どこにそんな時間があるのだろうか? とリオンを見つめれば、「行こうか?」とニコリと笑った。
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