第26話 王太子の報告会①
その日の夜、
「……それなら暫くの間、私と一緒に行動しよう。ローズとアリシアの間で何か問題が起きているのなら、直接、確かめた方が早いからな」
とアリシアに伝えたルイスは、転移魔法でやって来たセバスディを部屋に招いて、今日あった出来事を報告していた。
「あの、ルイス様。もしかしなくても、惚気るために私を呼んだのですか?」
「ああ、もちろんだ」
「ふっ、良い度胸ですね。帰らせていただいても、よろしいですか?」
「……それは断る。助言役でもあるから、こうしてお前を呼んだ訳だが?」
はいはい、そうですか。とセバスディは適当に返事をして、ティーカップに口を付けた。そのまま半分ほど飲むと、
「……で、顔を隠して歩くアリシア様のために、周りの目から彼女を隠す魔法を使った、と?」と聞き返す。
「ああ、そうだ」
「ルイス様、この程度でドヤ顔はやめてください」
セバスディはわざとらしい笑顔を向けて、残りの半分を飲み干した。
「いや、それだけではない。見栄を捨てて、アリシアのために苦手な回復魔法を使った。半年前は未熟な魔法を曝け出す勇気がなく、そのまま送り出してしまったからな」
「そうですか、良かったですね。ですが、今日一番の収穫はそれではないのでしょう?」
セバスディは妖しく笑い、話を促す。ルイスは相槌を打つと、ローズ・マインベルク伯爵令嬢のことを話し出した。それから、その令嬢とアリシアの間で起きている問題を確認するために、明日からアリシアと行動を共にすることを決めたことも、一緒に伝える。
「……さすが、ルイス様。手が早いですね」
「スマートなやり方だと言ってくれ」
ムスッとしながら、そう言った。
(……手が早い、か。むしろ遅過ぎたくらいだ)
ティーカップの中を覗き見ながら、ルイスは明日の展開を頭の中に描いていた。
◇
次の日の夜、ルイスはまた部屋にセバスディを呼んでいた。
「……ふぅ、何か進展があったのですか?」
「ああ、ローズのおかげで色々と動きやすくなったからな」
「で、今日はどんなお話を聞かせてくれるのですか?」
今日のセバスディは物腰が柔らかだと思いながら、ルイスは朗々と話した。黙って話を聞いていたセバスディだが、話が終わると途端に感想を投げてくる。
「……アリシア様の考えていることが、私には手に取るように
「ああ、だが多少、強引にいかなくては距離が縮まらないからな」
「それでいいと思いますよ。嬉しかったのでしょう?」
そうセバスディに図星を突かれ、ルイスは思わず咳き込んだ。
(すべてお見通し、か)
喉を押さえながら、ルイスは勝負を持ちかけた時のことを思い出す。
『一つ、賭けをしないか? 一緒にいる間、魔法のコントロールができずに起こったハプニングで、アリシアが傷付けば、貴女の勝ち。傷付かなければ、私の勝ちだ。判定には、身体だけでなく、服装も含めよう。そうして負けた者は、勝った者の言うことに一つ従う。もちろん、内容は簡単なものに限るが……』
新しい制服に着替えることを拒んだアリシアを許してしまえば、あらゆるチャンスを逃してしまう気がしたために、ルイスはあのような勝負を持ちかけた。咄嗟に思い付いた提案だったが、結果は上手くいったと言える。アリシアが喰い付いたからだ。
しかし、アリシアの選んだ答えは、ルイスにとって意外だった。あまりの驚きに、思わず目を瞬かせたくらいに。
(まぁ、そんなことがあった訳だが……。アリシアの望むことは、簡単に想像できるな。私としては、受け入れがたいことだが)
ルイスは両膝の上に置いた拳を思い切り握り締めて、半年前のアリシアの言葉を思い出した。
『婚約者として、この際はっきりと申し上げますが、結婚するまでは私のことなど放っておいてください。半年後の学院生活も、私とは距離を置いて生活なさってください』
当時も今も、その言葉を思い出せば、胸は苦しくなる。騎士の剣のように重たい言葉だと思った。
(半年前にそう突き付けられた言葉こそが、アリシアの望む内容を示していると知りながらも、そんなことはどうでもいいと思ってしまった私は、甘いのだろうか。だが、アリシアの動機が不純でも、積極的に関わろうとしてくれたことを考えれば……)
握り締めた拳を緩めて、ルイスはローテーブルに置かれたティーカップを手に取った。色々な想いがルイスの身体を駆け巡るが、爽やかなハーブティーの香りがルイスの気持ちを落ち着かせてくれる。
肺いっぱいに香りを吸い込んでから、ゆっくりとハーブティーを口に含んだ。ゆったりとした動作で茶を飲むのは、そんな気分になったからだった。
「……確かに、最初は驚きの方が大きかったが、今は喜びの方が大きい」
時間をかけて飲み干すと、ルイスはセバスディにそう感想を述べた。
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