十八話 ワタシの世界

「んだよこれ……」

 輝く星が弾けた後、しばらくしてラロックが感情の無くなった顔で呟いた。

 いったい自分たちはなにを見せられていたのか。そんな疑問をラロックとリベルラは抱いていた。

 しかし、インフェリアイだけはなにを見ているのか、それを解っていた。

「美少女の記憶……」

「あ? どういうことだ?」

 ラロックがインフェリアイの言葉に反応するが、それに返したのは白い少女だった。

「今見ていただいたのは、さっきも言った通り保持者の記憶です。ワタシの世界を説明するために欠かせないもの。ワタシのみが持つことが許されるもの。

 白い少女は含みのある言い方をしたが、インフェリアイ、ラロック、リベルラの三人は黙って続きを待つ。

「その保持者とは、ここにいる美少女の記憶。そしてその記憶は、カノジョがの記憶です」

「保持者になる前……?」

 インフェリアイの呟きに白い少女は頷く。

「はい。インフェリアイ、アナタに過去の記憶が無いのは、保持者になったからです。美少女が『美少女』になったのは生まれて間もない頃。そのため、保持者になるまでの記憶も短く、幼い頃の記憶が残っている。それに対してインフェリアイ。アナタが『インフェリアイ』になったのはこの世界へ来た時、だからこの世界に来る前の記憶が無いのですよ」

 そして白い少女はラロックとリベルラに視線を向ける、真剣な顔の二人は無言で頷く。

「ワタシの世界は魔力を吸い取り、保持者に魔力を与えるという世界。魔力を吸い取るというのは言葉の通り、生きとし生ける者から魔力を吸い取るということ。ではその逆、魔力を与えるとはどういうことか。それは世界を変える程の強い願い、強い想いよって対象をその通りにしてしまう、ということ。ところで探偵局の二人は、美少女のことをどう思っていますか?」

 突然振られた話に返したのはリベルラだった。

「どうって……? めちゃくちゃ綺麗としか……。ああ! 名前が分からない!」

 今の今まで忘れていたと言った様子で言うリベルラ。それを聞いたラロックも、そういやそうだったな、とリベルラに同意する。

「名前が分からないって……あなた達はなにを言っているの? 美少女だと名乗ったはずよ」

「いやだから美少女なのは分かってんだよ。名前が分かんねえって話だよ」

「だから――」

「落ち着いてくださいインフェリアイ」

 白い少女はインフェリアイを宥める。

 そして、ラロックとリベルラを見ながら、再び口を開く。

「探偵局の二人は、この世界の人間でないため、『美少女』という名にのです。本来、インフェリアイも違う世界の人間なので、違和感を持つ側の存在だったのですが、保持者になったことでこの世界から魔力を与えられる存在となった。つまりこの世界の人間になったのです。だからインフェリアイは『美少女』という名に

「違和感……?」

 インフェリアイには、白い少女が言っていることがいまいちピンとこない。しかしそれは仕方のないことだった。この白い少女が神の世界に住むインフェリアイ達には理解できないことである。で生きているからだ。

「なるほどな……」

「なるほどねー」

 それに対して、違う世界から来ているラロックとリベルラには簡単に理解できることであった。

 ラロックの頭の中で、さっき見た美少女の記憶と、今しがたされた、白い少女の説明を繋げる。

「つまり、保持者ってのはなんだな」

「うんうん……全っっっっ然解んない!」

 ラロックの言ったことを理解したような雰囲気を出していたリベルラであったが、全く理解していなかった。

「ったく、馬鹿リベルラ」

 そう前置きすると、ラロックは白い少女に後を引き継いでもいいか視線を向ける。

 どうぞご勝手に、と白い少女は軽く頷く。

「さっきの記憶じゃあ頻繫に「美しい」「綺麗」「美少女」とか言ってただろ?」

「あーうん。言ってたね。ていうか美少女美少女って、親は子供が大人になること考えてないの?」

 その説明している様子を、インフェリアイは黙って見ている。今の自分にはこの二人の話は理解できない。

「親バカなんだろうな。んで話を戻すが、あまりにもそういう言葉を言われすぎて、この世界の魔力がそいつを『美少女』という存在にした。まだ生まれたばかりだったんだ、両親が世界の全てだし、簡単なんだろ」

「解るような解らないような……ラロックって説明下手だよね?」

「んだとてめえ‼ おい! こういうことだよな?」

 拳を握り締めたラロックが白い少女に聞く。

「要するに、そういうことですね」

 感情の無い声でそう言うと、ラロックの言ったことの補完をする。

「この世界が魔力を与えるという行為は、簡単ですが簡単ではありません。さっきも言った通り、魔力を与えるには強い願いや、強い想いが必要になります、それも世界を変える程の。美少女の例で言うと、美少女の両親の想いが、世界をそういう世界に変える程強かった。だから美少女は『美少女』というものになった。ラロックが言ったことを補完すればこういう感じですね」

「まだ生まれたばかりだったんだ、両親が世界の全てだし、簡単なんだろ……ぷふっ」

「てめえ……」

「これが、ワタシの世界です」

 今にもリベルラを殴り飛ばそうとするラロックを無視して、白い少女は締めるのだった。

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