十七話 ある保持者の記憶

 十六年前、ある国にて。

 一人の女の子が産まれた。

 まだ名の無いその女の子は、母親の腕に抱かれ、今は眠っている。

「なんて綺麗なんでしょう……」

 母親はうっとりと、我が子の寝顔を眺めている。

「この子はきっととんでもなく綺麗な子になるよ」

 父親は涙を滝のように流しながら我が子の顔へ手を伸ばすが、すぐに手を引っ込める。

「ああいけない! 僕が触るとこの子の美しさを穢してしまう気がする!」

「ふふっそうですね。この子は間違いなく美少女になりますよ。この世の何よりも美しい美少女に」

「すれ違う人全てがこの子に目を惹かれ、目が合うと卒倒してしまう。そんな美少女へ成長するに違いない」

 我が子だからここまで褒め称えるのか、それとも客観的事実を述べているだけなのか、それはもう誰にも分からない。

 それからも両親は時間を忘れ、我が子に綺麗だ美しいだの囁き続ける。

 気がつけば日が落ち日が昇る。飲まず食わずで褒め称える。

 幸いにも裕福な家であったため、家のことはお手伝いがやってくれる。二人がつきっきりで我が子に愛を囁いていてもなにも問題はなかった。

 一日中我が子のことを美少女になると褒め称え、愛を囁いていた時、それは突然起きた。

 ある一筋の光が我が子を突き刺す。それを両親が認識した瞬間、四方八方から幾千もの光のが我が子を刺す。両親が声を上げる間もなく、母親が体で我が子を覆い隠す間もなく、刺した光が渦巻き、色とりどりの光のヴェールを創る。

 やがて光のヴェールがどこからともなく吹く風に捲られ、両親は我が子の姿を見ることになる。

「「あっ……」」

 スーっと両親の身体が光の粒子となり、風が吹いて跡形もなく散ってしまう。

 そしてその光景を見ていた、子の泣き声が響いた。

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