一章 あてもなく始まる旅

一話 出会い

国を出た美少女は意気揚々と歩を進めた。

 やがて自分の国が見えないところまで歩いた美少女は衝動的に旅を始めたことを若干後悔しながらも周囲を見渡す。

「……どこに行けばいいんだろう……ていうかどこになにがあるの⁉」

 ちなみに美少女は方向音痴でもあった。

「ちょっと待って! わたしどこから歩いてきたの⁉」

 パニックに陥った美少女は深呼吸をし、冷静になれと自分に言い聞かせた。

「わたしは平原を歩いてきた、それなら平原ではないところに向かえば問題なし。うん、我ながら名推理」

 美少女はニヒルな笑みを浮かべ森に向かい、歩き出した。


 

 鬱蒼と茂る森に到着した美少女は暫し思案した後、森の中に足を踏み入れた。

「この茂り具合なら進んだ道がわかるから迷わないね」

 美少女は茂み踏み倒し、森の中を突き進んでいた。しばらく進むと古びた小屋が見えてきた。

 美少女はふとその古びた小屋が気になり、小屋に向かって進んでいく。

「なーんか気になる小屋」

 美少女は小屋の窓から中を覗き込む。

「――⁉」

 小屋の中には猿轡をされ、全身をロープで縛られた少女がいた。

 少女は特に抵抗する訳でもなく倒れたまま身じろぎ一つしなかった。

 美少女は慌てながら窓を蹴破る。

 窓ガラスが割れる音が響き、破片が散らばる。

 少女はビクッとし目を開けると、もごもごと何かを言ってる。美少女は少女の猿轡を外した。

「うぅ……。誰か知らないけどありがとう……」

「大丈夫じゃ、なさそう?」

「いえ……、大丈夫……」

 少女はよろよろと立ち上がり、美少女の手を引いて小屋から出ようとした。

「え、そこドアじゃ――」

 ――ゴンッ! 少女は扉の横の壁に激突した。

「ぐぎゅう」

「ぐえっ」

 美少女も少女に引っ張られていたせいで、壁から跳ね返った少女の下敷きになっていた。

「痛い……」

「……苦しい、……早くどいて」

 少女はのそのそと美少女の上から起き上がり、赤くなった鼻をさする。

「ごめんなさい。わたし、目が悪いの」

「だからこんなミラクルプレイができたんだ」

「いつものことよ……とりあえずここから出ましょう」

 フッと寂し気に少女が笑い、美少女に手を差し出した。美少女は不思議に思いながらその手をそっと握る。

「……?」

「あなたが先導して。一刻も早くこの森から出たいの。事情は後で話すから」

「あー、なるほど」

 美少女は小屋のドアを開き、少女を伴って小屋から出る。

「そこ、段差あるよ」

「え、どこ? ふぎゃ!」

「……大丈夫?」

「……いつものことよ」

 美少女は少女の手を引きながら、踏み倒してきた茂みの道をたどり、森の外に向かう。やがて森の外の平原まで行き着く。

「ありがとう、もう手を放してもらっても大丈夫よ」

「わかった。森は出たけどもう少し離れたほうがいいと思うよ」

 美少女は手を離すと森の方を見ながら告げる。

 少女が一人、人気のない小屋に監禁されていたのだ。少女を監禁した人物が近くにいる可能性が高いとみたのだ。

 美少女の隣に並んだ少女は僅かに目を見開く。そして僅かに息をつき、脚のストレッチを始める。

「そうね。よし、走ろう」

「いやあ、走るのは控えたほうが――」

 美少女はまたこけるでしょ、と思ったが既に少女は走り出していた。

「ちょっと待ってー」

 慌てて少女の後を追う美少女。しかし、少女の姿は小さくなっていた。

「うわぁ、はっやあ……」

 若干少女に引きながら美少女は少女を追って走り出した。


 

「ハァ……ハァ……やっと……追いついた……」

「あら、遅かったじゃない」

 少女は疲れていないのか、涼しい顔で岩に腰掛けていた。

「ここまで来れば大丈夫でしょう、ちょうどいい感じの岩があるし」

「そうだね……少し休ませて」

 美少女はよろよろと少女の前にある岩に腰を落とした。一息ついたところで少女を見る。栄養状態が良くないのか、少し痩せこけている。長く伸びた深紅の髪は艶がなく、ぼさぼさしており、手入れが施されていない事が明白だ。やや吊り目がちな錫色すずいろの瞳が美少女を真正面から見据えている。その瞳は身体の状態とは裏腹に、生きる活力に満ちた瞳だと美少女には見えた。

「わたしのことをそんなに見つめて立っていられる人、初めて見た」

「あなたは悪魔か何かなの?」

「いえ、人間よ。ただ美少女すぎるだけの」

「自分で言うのね」

「事実だから」

 少女は呆れたように息を吐く。

「どういう風に見られるの?」

「基本は卒倒ね。両親に関してはわたしの美しさによって滅せられた」

「…………」

「…………」

「私の名前はインフェリアイ。助けてくれてありがとう」

「わたしは美少女。ところで、どうしてあんな状態に?」

「攫われたのよ。……察していたくせに」

 インフェリアイはジト目を向ける。

「あなたの足の速さを見た後だと本当かどうか疑いたいけど、その目の悪さだもんね」

「そうなのよ、眼鏡がね、無くなっていて……全く私としたことが」

 苦笑交じりに話したインフェリアイは美少女の方を見てこそはいるが、もっと別のどこか遠くを見ているようだった。その瞳に陰りが差したのを美少女は見逃さなかった。

「それは災難ね。それでどうするの? このまま帰るの?」

「帰ったところでまた攫われそうだし、違う国へ行こうかな。全然見えないけど」

「ならわたしと一緒に旅をしない? わたし、目と顔はいいよ」

「目がいい人といたら、私的には心強いけど。でも、一緒にいたら美少女も危険な目に合うわよ?」

「大丈夫。わたし美少女だし」

 インフェリアイが苦笑すると美少女は心配するなと胸を張る。

「それ全然説明になってないと思うわ」

「説明になっているかなっていないかはいずれわかるよ」

 得意げに言う美少女。インフェリアイは暫し思案した後。

「そう? それなら一緒に行きましょうか」

 インフェリアイは立ち上がる。

「それじゃあ、行きましょうか」

「待って、もう少し休憩させて。足が……こんなに走ったのは久しぶり……」

「あら……ごめんなさい」

 インフェリアイは気まずそうに頰を掻く。

「それなら、これからどこを目指すか、決めましょうか」

「そうしよう」

 美少女はカバンから地図を取り出し広げる。インフェリアイは美少女の隣に座り、地図を覗き込む。その瞳には先ほどの陰りはなく、輝いているように美少女には見えた。

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