武蔵野をめいっぱい楽しむツアー

烏川 ハル

第1話

   

「……起きてよ、正志まさし! こんなとこで寝ないでよ!」

 聞こえてくる声と共に、体を揺すられて目が覚める。

 ボーッとした顔で見回せば、隣には見慣れた香織かおりの姿。丸い眼鏡と短めのポニーテールが似合う、可愛らしい女性だ。

 俺は彼女と二人仲良く並んで、武蔵野ミュージアム近くのベンチに座っていた。

「ああ、またこの場所か……」

「『また』じゃなくて『まだ』でしょ? 寝ぼけないで!」

 香織かおりが顔をしかめたのは、ほんの一瞬。すぐに笑顔に戻っていた。

「私たちの武蔵野ツアーは、まだ始まったばかりよ!」

 そう言われて、今度は俺が変な表情になったのだろう。香織かおりは言い訳みたいに付け加えていた。

「そろそろお昼だから、もう『始まったばかり』じゃないけど……。でも、この武蔵野ミュージアムがスタート地点だからね」

 彼女はスクッと立ち上がり、元気いっぱい両手を広げる。

「さあ、めいっぱい武蔵野を楽しむわよ! 気分はエンドレスってくらいに!」

   

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