作戦開始

 ケンは公園の真ん中に仁王立ちになって、腕を組みながら入り口の方を見ていたけれど、公園に入ってきたぼくと目が合うなり、うれしそうに手を振った。

「やあ、来てくれたね、マサキくん」

 ケンの話し方はなんだかなれなれしくって、そしてどこかコウアツ的だ。ケンはさっきからぼくのことを「くん」づけで呼んでいるけど、それは友達に対して使う「くん」ではなくて、たまにドラマで聞く、上司が部下に対して使う「くん」であるような気がする。

 なんだかよく分からないけど……、とにかく偉そうなのだ。

「それで、ケンくん」

 ぼくも対抗して「くん」をつけてみたけど、それはぼく自身の耳にさえ、友達どうしの「くん」にしか聞こえなかった。

「地球を救う――って、何をしたらいいのかな」

 最初の部分だけ、ぼくは小声で言った。

 公園では近所の後輩たちが遊んでいる。地球を救うなんて、そんなことを言っているのを誰かに聞かれたら、と思うとなんだか恥ずかしい。

 ケンはますますうれしそうな顔をして、

「その気になってくれたみたいだね」

 笑った。

「とりあえずこの場から移動しようか。こんな所にいては、何もできないからな」

 ぼくの返事なんか待とうともしないでケンは歩き出す。

「ああ、待ってよ。移動するって、どこに?」

「どこに、と言われてもなぁ。ついてくれば分かるさ」

 ケンは立ち止まらずに返事をして、それどころか振り向きもしないで公園から出ていく。

「ああ、ちょっと、待ってよ。ぼくは自転車で来たんだけど」

「ザンネンだけど、こっちはあいにくと歩きでね……。二人で行動をするのに、キミだけ自転車で移動だなんて不公平じゃないか? 二人乗りというのも嫌いでね。どうしてもと言うのなら仕方がないが……、どうする?」

 どうする、だなんてよく言うよ。そんなのただの命令じゃないか。

「うーん、わかった、歩いて行くよ。それから――」

 ぼくが門限について言おうとしたとき、ケンはやっと振り向いた。

「時間がない。急ごう」

 振り向きはしたものの、ケンにはやっぱりぼくの言葉を聞く気がないみたいだ。

 早く地球を救わないといけない、って言いたいんだろうけど、ぼくだって門限まであと一時間もないんだ。

 ケンはすぐに向き直ると、早足で進みだした。ぼくが駆け足で追いつくと、ケンは「では行くぞ!」と言って走りだす。ぼくも当然、それにあわせて走らないといけなかった。

 まったく。どうせ走るならケンも自転車で来たらよかったのに。

 辺りには夕焼けの色が降り注いでいる。もうすぐ暗くなりそうだ。ケンは何をするつもりなんだろう、五時までには終わるのかな?

 ケンは誰かの家の裏口に忍びこんで、塀を上ってフェンスを乗り越えると、ぼくの知らないような細い道をどんどん進んでいった。ぼくは遅れずについて行ったものの、途中から、どこをどう進んだのかが分からなくなってしまった。

 こんなの、二人乗りどころじゃない。自転車なんて使ったら最初からアウトだ。

ちゃんと帰れるのかなぁ。そんな不安ばっかりがぼくの頭をよぎった。

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