デスゲームに巻き込まれましたが５億７千万課金していたのでなんとかなりそうです。

第14話 最強の武器

　魔人は動きを止める。自分の前腕が切断され、剣を失ったことが不思議なのかもしれない。

　相手が戸惑っているスキに、大和はもう一度刀を上段に構える。

　今度は魔人の左足に向け刀を振るった。まだ相手と距離があり、切っ先は触れていないが、この【三日月宗近（みかづきむねちか）】なら関係ないはずだ。

「どうだ？」

　魔人は思い出したかのように歩き出そうとした。だが一歩踏み出した瞬間、左足の大腿部分に直線的な亀裂が入る。

　魔人の体はグラリと傾き、左側に崩れ落ちた。

　重々しい地響きが鳴り、怪物は地面に突っ伏す。土埃（つちぼこり）が舞う中、大和は動かなくなった魔人を見下ろす。

　左足が腕と同じように斬り落とされていた。素人である自分が斬ったのに、その切り口は驚くほど滑らかだ。

「これが"国宝"クラスの武器の力か……だとしたら他にあった刀も、同じくらい強かったのかな？　買っておけばよかった」

　今さらそんなことを言っても仕方ないか。そう思っていると、魔人は左手をつき、右足だけで起き上がろうとする。

「おいおい、まだやる気なのか！？」

　魔人は器用に右足だけで立ち、ジャンプして前に進む。大和は「うおっ！」と言って後ずさり、剣を構えた。

「バランス感覚がいいのか？　めんどくさいヤツだな」

　魔人はもう一度ジャンプして向かってきた。ドスンという衝撃音が鳴り、埃が舞い上がる。大和はさらに後ずさった。

　相手が屈み、飛び上がろうとする。そのタイミングで大和も前に出た。

　魔人はジャンプし、腕を伸ばしてくる。だが魔人のリーチより、大和の斬撃範囲の方が広い。

　踏み込んで構えた剣を振り抜く。横薙ぎ一閃。

　剣が通った胴体に、まっすぐ筋が入った。大和は振り返らずに剣を払い、床から拾い上げた鞘に納める。

　魔人は大和を追いかけようとして体を捻った。すると魔神の体から、ピシッという音が聞こえてくる。

　腹に一直線の亀裂が入った。腹部は徐々にズレ始める。

　上半身が先に落ち、続けて下半身が倒れてきた。魔人は動かなくなり、周囲は静寂に包まれる。

　大和は立ち止り、後ろを見る。

「なんとか倒せたか……。だけど【三日月宗近（みかづきむねちか）】がなかったら危なかったな」

　出口まで歩き、扉を確認する。"攻略ヒントアプリ"にあったように、扉の横には電子キーロックが付いており、三桁の暗証番号がいるようだ。

「０から９までの数字で三桁か……だとすると１０の３乗で１０００通りってことか、めんどくさいけど仕方ない」

　大和がさっそく解錠に取りかかろうとした時、背後からガンと音が鳴った。

　振り返ると、そこには左腕を立て、匍匐前進（ほふくぜんしん）のようなかっこうで進んで来る魔人がいた。

「おい！　しつこいぞ！！」

　上半身だけがズルズルと向かってくる異様な光景。大和は背筋が寒くなってきた。

　再び鞘から刀を抜き放ち、剣先を魔人に向ける。完全に息の根を止めないと、こいつはいつまでも襲って来るのだろう。

　この【三日月宗近（みかづきむねちか）】には耐久値があるため、何度も使えば壊れてしまう。

　しかし、そんなことは気にしていたら、ここでは生きていけない。大和は覚悟を決め両手で柄を持ち、刀を上段に構えた。

「ぬあっ！」

　振り下ろされた一刀が、魔人の腕を斬り落とす。さらに二度、三度と刀を振るう。

　魔人の体は何重にも切り刻まれ、いくつかの塊に別れた。

「はぁ……はぁ……さすがに、これで大丈夫だろう」

　床に落ちている鞘を拾い、刀を収めた。アイテム欄に収納し、もう一度出口の扉へ向かう。

　電子キーの前に立ち、フゥーと深呼吸する。

「さて、やるか」

　その後、四苦八苦しながらも三十分かけてロックを解除し、大和は第三ステージを無事にクリアすることができた。

　◇◇◇

「あ～疲れた……」

　セーフティーゾーンの小部屋に入った大和は、ぐったりして床に座った。

　次は第四ステージの大部屋だ。ここは左右のルートが合流する場所、もし右に行った二十八人の参加者が生きていれば、会えるかもしれない。

　だが、大和は厳しいだろうと考えていた。

　自分は５億７千万の武器やアイテムがあったからここまで来れたが、そうでなければ死んでいた。

　彼らが生き残るのは難しいだろう。

「まあ、俺の知ったことじゃないか。赤の他人だし」

　大和はスマホを操作し、今回得たポイントを確認する。

「おお！　３０００ポイント入ってる。やっぱり、あの魔人けっこう強かったってことか。刀が無かったら危なかったし」

　思ったより多くのポイントが獲得できて、大和はご機嫌になる。前回までのポイントと合わせて５５００ポイント。現金に直せば５５００万だ。

「それに加えて……」

　大和は"収納"されたアイテムをチェックする。出口の扉を解錠した後、第三ステージにアイテムがないか『アイテム回収アプリ』を使って調べていた。

　薄暗い部屋の隅に、唯一あったジェラルミンケース。その中には金の延べ棒が十本入っていた。

「これを換金すれば――」

　大和は金塊を全て現金に換えた。その額は１０００万円、合計で約６５００だ。

　これだけあれば性能のいい武器も買える。

　大和はアイテムの購入欄に目を移す。そこには、ゲーム開始前では買えなかった武器や道具がそろっていた。

「おお、３０００万のガトリングガンに、３５００万のロケットランチャーか……好きな武器を買えるな。どうしたもんか……」

　強い武器はたくさんあった方がいいだろう。だが問題もある。

　次のステージで役に立つかどうか分からないということだ。出てくる敵やトラップなどは、そのステージに入らないとアプリが起動しない。

　今回の【青銅の魔人】も、銃や爆弾などは意味がなかった。

　一番効率がいいのはステージに入り、どんな敵が出てくるのか確認してから武器を購入することだ。

　もっとも、相手がいきなり襲って来るようなステージなら、そんな余裕はとてもないが。大和は少し考え、いま武器を買うのはやめることにした。

　かわりにアイテム欄から食料を取り出す。

「取りあえず、腹ごしらえだな」

　回収した食料を並べていく。サバやサンマ、ツナの缶詰め。クッキーにチョコレート、缶ベーカリーにナッツ類。レトルト食品もある。

「このレトルト食品、水を入れればいいのか？　こんなのがあるんだ」

　水は１５０ｍｌのペットボトルが五本ある。大和はその内の一本を手に取り、封を開けたレトルトのパックに注ぐ。

　決まった量の水を入れ、しばらく待てば食べられるようだ。

「あ！　箸がないな」

　手づかみで食べるしかないか……と悩んだが、もしかしてと思いアイテム購入欄を確認する。

「やっぱり、日用品も売ってるぞ！　箸、箸、箸」

　スクロールして探すと、箸やスプーンが売っている。

　大和はスプーンの方がいいか。と考えスプーンをタップした。金額は１０００円とかなり割高だが、仕方ない。

　ブゥンと音が鳴り、スプーンのホログラムが実物へと変わった。時間が経ったレトルトパックにスプーンを突っ込み、中のごはんをすくう。

　今回封を切ったのは、『鶏五目飯』だ。

　非常食なのであまり期待していなかったが、パクリと口の中に入れた時、あまりのおいしさに驚愕した。

「……こんなにうまいのか？」

　腹が減っていたため、バクバクと飯を掻き込む。温かくはないが、腹を満たすには充分過ぎる。

「あ～ここに来て、初めて幸せを感じる」

　大和はペットボトルを掴み、ゴクゴクと水を飲む。残った飯を掻き込み、満足そうにゲップを吐いた。