第7話 困惑の怒り
「ここが、異世界?」
サエさんは、困惑した表情を見せる。
「……ここは僕たちのいた世界とは、異なる文化や技術、そして魔法か何かが存在する世界なのではないでしょうか?」
和服に近いが、どこか見慣れない服。
あきらかに人間離れした動きを見せる少女。
そして、火をまとった刀。
異世界と考えれば、これら全ての違和感に合点がいく。
ここは日本のようで、日本とは異なる世界なのではないだろうか?
「……異世界って、ここは地球じゃないってこと?」
「地球かもしれませんし、地球じゃないかも知れません。だた、僕たちがもともと住んでいた地球とは違う世界に、僕らは飛ばされてしまったのかなって……あくまでも、可能性の1つですが」
「私達がいた地球とは、違う世界………」
サエさんはまだ、僕の言ったことをよく理解できないといった様子だった。
「なぁ、あんまふざけたこと言うなよ」
…………えっ?
「今は真面目な話をしてんだぞ! 異世界とか、ありえねぇだろ?」
なんで、どうしてそんなことを言うの?
ふざけてなんかいない。
僕なりに状況をちゃんと整理して、迷いながらも意見を述べたのに。
「そんなのは、アニメばっか見てるやつがする妄想だろうが。ふざけてねぇで、もっと真面目に話をしろよ」
本当に嫌だ。
だから言いたくなかったのに……。
「ねぇ、タクミは少し黙ってて!」
「はっ? なんでだよ! おかしいこと言い出したのはこいつだろうが」
「私はどんな話でも聞くと言った。せっかくアイネが話してくれたのに……」
「異世界とか、そんなん話するだけ時間の無駄だろ?」
「アイネと話すことに、無駄なことなんてない。……ねぇ、ここが異世界って思えたのはどうしてなの?」
彼女は本当に優しくて、強い人だな……。
「少女が僕たちをここに呼んだと言っていました。拉致ではなく、『しょうかん』という言葉を使って。……それって、違う世界から僕らを召喚したってことなのかなって。……あとは、似ているようでどこか違う服や、火や煙といった力も、異世界ということなら、僕たちの住む世界とは、きっと環境や技術が違うだろうから……いろいろと納得ができるです」
「ありぇねぇだろ、そんなの……」
「だとしたら、どうして私達が召喚されたんだろう?」
「……それは、僕にもまだよく分からなくて」
ばぁん!
勢いよく部屋の扉が開いた。
「失礼。長らく待たせてすまなかった」
少女が部屋へと戻ってきた。
隣には一緒にこの屋敷に移動してきた、男女2人の姿も見られている。
「時間がかかり申し訳ない。私達もいろいろと話すことが多くてな」
「あんた、その気持ち悪い喋り方をまだ続けるんだ」
「…………みつねぇは黙ってて」
やっぱりこの子、すごくかわいい。
今ままでは室内が暗い場所だったから、ちゃんと見れていなかったが、めちゃくちゃ美少女だ。
「いい加減、説明してくれんだよなぁ? ここがどこで、てねぇらは何者なのか」
「私は『ゆり
……契約者。
左手に刻まれた印を見つめる。
これが彼女との契約の……印。
「私たち『
襲撃、壊滅、禁術。
あまりに情報量が多すぎて、なかなか理解が追いつかない。
だが、ある言葉はハッキリと聞き取れた。
彼女は今確かに、『異世界』と言った。
「再度あなたたちにお願いする。私に協力して欲しい。天海を殺す、その目的のために」
彼女は何度もその言葉を強調する。
それは、天界を殺せということ。
「勝手に話を進めんな! そもそも、ここは日本のどこなんだよ!」
「ここはあなたちの住んでいる『にほん』という場所ではない。ここは『
「は? 日本じゃねぇだと…………」
「古記書によると、『異世界召喚術』は、この世界とは違う人間たちを別の世界から呼び寄せると書かれていた。……つまり、ここは、おまえたちの居た世界とは別の世界ということになる」
ここは日本でも、海外でもない。
本当に……異世界。
「アイネの言ったとおり、ここは私たちの住んでいた世界じゃないってこと? 日本のない別の世界に、私たちは来てしまった……」
「そんなの、ありぇねぇだろ!」
「驚いているところすまないが、私達にもあまり時間がない。できれば、今すぐに妖力の―――」
「勝手なことばっか言ってんじゃねぇ! 俺は何も納得できてねぇんだぞ!」
タクミさんは怒鳴るように叫んだ。
「さっきから言いたいことだけ言いやがって。それに俺たちに人殺しなんて、出来るわけねぇだろうが!」
「…………え?」
少女は驚き、硬直する。
何を言われたのか、よく分からないという表情。
「そもそもおめぇと契約なんて、俺はまだ信じてねぇ」
「信じようが、信じまいがあなた達には関係ない。もう契約は結ばれているのだから」
少女は左手を上げて、手の甲に刻まれた模様をこちらに見せる。
「これが契約の印。あなたたちにもあるでしょ? もう契約は完了した。そして、私たちの状況も説明した。……これ以上何を話せと言うの?」
彼女は目をしかめる。
本気で、タクミさんが何を言っているのか分からないのだろう。
「私たちは人を殺したことはないし、出来るとも思えない。……ねぇ、もっと適任者がいるんじゃないかなって、思うんだけど」
「……なんで……?」
「どうしたら帰れるとか説明もしないで、言いたいことだけ言ってんじゃねぇよ」
「…………どうして、そんなことを言うの?」
少女は、顔を俯かせて……震えている。
その震えがどんどん強まっていく。
「なんで、そんなことを言うの!! あなたたちは『きようじん』なのに!!」
―――バンっ!
強く足を地面に踏みつけて少女は叫んだ。
涙をうるませながら、顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけている。
「あなたたちは争いに終止符をうつ存在でしょ! 古記書にもそう書かれていた。『きようじん』は計り知れない力で、戦に勝利をもたらしてきたと……だから、私は死を覚悟で、禁術に手を出したのに……」
涙をぽろぽろと流す。
だが、その怒りの剣幕は先ほどよりも増している。
「なのになんで、話が進まないの! 文句ばっかり言うの! あなたたちがどこから来たか、なぜ選ばれたかなんて、そんなのは私の知ったことじゃない!! あなたたちが戦うの!! いい加減、覚悟を決めてよ!」
……あまりにも理不尽。
勝手に呼び出されたあげく、得体のしれない人たちと殺し合いをさせられそうになっているというのに。
「覚悟って……戦えるわけねぇだろ。どんな奴が相手かしらねぇが、県大会準優勝の姉さんはまだいいとして、俺とこいつなんて、ぜってぇすぐ死ぬぞ。そんなのちょっと考えりゃ———」
「……もう、いい」
何かを諦めたのか、声を荒げていた少女は、涙をぬぐいながらこちらに近付いてくる。
「分かった。そんなにお望みなら、全部教えてあげるわよ」
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