このお散歩偽物ラーメン🍜🍥
森緒 源
第1話 このお散歩偽物ラーメン🍜🍥
こないだ2ヶ月ほど仕事の出張で春の青森県に行った。
北国の4月、青森はまだ寒い時期だが、休日のその日はちょっと暖かなお散歩日和だったので、観光がてらS岬に北の海を見に行った。
北国らしい荒涼とした、この世の果てみたいな景色だった。
海風に吹かれて身体が少し冷えたので、帰り道で見つけた「拉麺屋 偽物の仮面」という看板を付けた小さなラーメン屋に入って腹も満たすことにした。
カウンター席に座ると、調理人は二人の30代くらいの兄ちゃんだ。
一人は胸に「周富徳」という名札を付けている。
「お兄さん、周 富徳さんて言うの?」
有名な中華料理人と同名なので、思わず聞いたら、もう一人の兄ちゃんが
「あ、違うの ! …周富 徳 !! 周 富徳とは何も関係ないけど、お客さんによく言われるの ! …だから偽物の仮面!こいつただのアルバイトの徳くんだから」
と答えた。
は、なるほどねぇ ! …と笑いながらメニューを見たら、「ラーメンから丼を除いたようだったラーメンライス」というのがあり、何だコリャ?と面白半分に注文してみた。
すると、見た目には汁なしラーメンみたいな丼が出て来たが、以前プライベートで会津に旅した時に、喜多方の道の駅で食べた「ラーメン丼」と似たような感じだ。…という訳でさほど驚くこともなかった。
すると、兄ちゃんは丼に平皿を逆さに被せると、エイヤっ ! と丼ごとひっくり返したのである。
そして、丼をゆっくりと取ると、麺や具材が下になったドーム型の茶色飯が出現した。
「…なるほど、確かにラーメンから丼を除いたようだったラーメンライスだ!面白いねぇ」
私がそう言うと、徳くんが得意げに
「ヘヘッ ! …このライスは醤油ラーメンのスープで炊いてあるんスよ ! 」
と言った。
食べてみたら、確かにラーメン味の飯だった。本当の意味でラーメンライスだ!
(ジャンキーな感じだけど、意外と旨いじゃないか!…ラーメンとご飯が合体したこの不思議な感覚、ちょっとヤミツキになるかもだなぁ !! )
私はガツガツとレンゲで飯を口に放り込み、あっさり完食してしまった。
「旨かったよ!…また来るね」
二人の兄ちゃんにそう言って私は店を後にした。
………………………………………
それから仕事が何だかんだと忙しく、休日も気持ちがゆっくり出来ない日が続いて、「ラーメン屋 偽物の仮面」になかなか行けなかったが、出張での任務仕事がようやくどうにか片付く見込みが立ったので、次の休日にまた私はその店に行くことにした。
あえて朝食を摂らず、腹をへらして久方ぶりに寄ってみたら、何ということだ !? …店は閉まっていて店頭の扉には「貸店舗」の札が貼ってあった!
…呆然と店先に立ち尽くしていたら、近所の人らしいおばさんが私に声をかけて来た。
「あ、その店ね!…お兄ちゃん二人でやってたでしょ?…二人とも調理師免許持ってなかったんだって!素人のモグリ営業だったのよ!…保健所の検査で大目玉くらって、すぐに店閉じちゃったの」
(…ラーメン屋自体が、偽物の仮面だったのか…)
ぐうぅ! と泣く空腹を抱えて立ち尽くす私に、北国の風が冷たい音をたてて通りすぎて行った…。
完
このお散歩偽物ラーメン🍜🍥 森緒 源 @mojikun
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