輪廻の山
紫 和春
輪廻の山
ここはとある山中。人も動物もろくにいない、ただ静寂が支配する森。
そんな森の中に、三メートルはあろうかという紫色をしたスライム状の人型物体だけが存在していた。
そんな静寂に包まれた山に、とある男性がやってくる。服装は質素で、長く洗濯されていないような汚れが見受けられるだろう。正直山に入るような恰好ではない。顔は四十歳前後のダンディな感じで、女性からはモテること請け合いな顔つきをしている。
そんな山の中で、その男性はある人物たちと出会う。
それは、まさに修行僧という恰好の甲羅を背負った少年と、その師匠であった。
「おや。こんなところに誰かが来るとは、なかなか珍しいですな。貴方はどこから?」
「どうも。ここから遠くの山からやってきた。少し他の山も見たくて」
「それはそれは。どうぞ何もない場所ではございますが、ゆっくりしていってくだされ」
そういって男性は、彼らの元で少し生活をするのだった。
それから数日が経過したある日。森の中にいたスライムたちがどこかへと逃げていく。
それを見た師匠と修行僧は、あることを察した。
「これは世界の終わりが近づいている……。すぐに支度をせねばならないな」
「世界の終わり、ですか」
「えぇ。世界とは、この子の中に存在する宇宙のことです」
そういって、師匠は修行僧のことを指す。
「なるほど。君の中に存在すべき宇宙があるんだね」
「はい。私の中でも、世界の終わりが近づいていることが分かっているようです」
「さて、世界を作り変えるために準備を始めねばなりません」
そういって、師匠と修行僧はとある場所に向かう。
「これからどこへ?」
「とある食べ物を用意せねばならないのです。少し準備を手伝ってもらえますか?」
「もちろんです」
そういって、山の中にある山菜や何かの固形物、粉末状の何かを取ってくる。
「さて、料理のほうを始めましょう」
そういって師匠は、試験管のようなものに採取してきた食材を細かく刻んだものを入れる。
しばらく火を通していると、試験管の中から白いエノキタケに似たキノコが生えてくる。
エノキタケのようなものを試験管から取り出すと、粉末状の何かを振りかける。
「これで料理のほうは完成しました。あとは山に登りましょう」
そういって、完成した料理を持って、三人は山を登る。山の中腹からは雪が降り積もり、行く手を阻んでいる。
その道中、師匠はあることを話す。
「宇宙の誕生は、風邪をひいたときに似ています。熱が上がりきったときが限界ではなく、さらにその先があります。宇宙の終わりと誕生は、この限界を超えた先にあるものなのです」
そういって山を登り続ける。
「この山自体もそうです。山の名前は五劫といいます。私たち以外の、それこそ宇宙に住む命には到底乗り越えることのできない山なのです」
しばらく登り続けると、山の頂上へと到達する。そこで修行僧の中にある宇宙の作り替えに入る。
修行僧の背負っている甲羅は、今にも破裂しそうなほど大きく膨らんでいた。そんな修行僧に、師匠は料理を食べさせる。
修行僧がそれを食べると、次第に修行僧は苦しみだすだろう。
「これは大丈夫なのか?」
「えぇ。問題ありません。この子の中にある宇宙を破壊している痛みに苦しんでいるだけです」
修行僧の中では、先ほどの料理が変化して、巨大な毛むくじゃらの化け物になる。そしてこの世界に住む人間に対して、この世界が終わりであることを告げた。
人間は苦しみ、苦痛を感じるだろうが、最後にはそれを受け入れた。
毛むくじゃらの化け物は、修行僧の中の宇宙を壊し始める。その時、修行僧にも変化が起き、やがて甲羅は急速にしぼんでいく。
やがて小さくなった甲羅の中で、毛むくじゃらの化け物は壊した宇宙の破片から、新たな宇宙を創造し始める。
これによって、甲羅は再び緩やかに膨張を始めるのだった。
これが宇宙の始まりであり、輪廻転生である。
三人は山から下りて、森の中に戻る。
「この度は良いものを見させていただきました」
男性はそう告げて、山を去ろうとする。
「もし。よろしければ、名前を聞かせてもらえませんか? 私は如来。この子は釈迦といいます」
「私は……ヤハウェ。人はそう呼びます」
そういって、男性はその山を去り、自分の山へと戻るのだった。
輪廻の山 紫 和春 @purple45
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