ある夏の日、非日常の君と
秋氷柱
第1話 7月27日
7月27日午前11時28分、海に反射した光がキラキラとこの島を照らす。桟橋の先に座り、ラムネを飲みながら何も考えず、ただ海を眺める。何の刺激もない、つまらない日々をそっと受け入れるかのように。
「何してんの?」
という声とともに背中を強くたたかれ海に落ちそうになる。振り返ってみるとそこには制服を着たそこそこな美少女が立っていた。
「いや、別に」
「別に、ってそんなことしてたらあっという間に夏休み終わっちゃうよ!ほら早く立って!行くよ!」
どこへ行くのかも知らされないで何で動かなきゃいけないんだ。
「わかったよ。わかったから引っ張るな。」
言われたとおり立ち上がり少し伸びをしてついていく。こいつは俺の幼馴染の海風月凪。《うみかぜるな》俺が小学生の時に同じクラスになり、そこから高校1年生の今までずっと一緒にいる。髪はショートでうっすら茶色がかっている。身長は俺より少し低い......170cm弱ぐらいか。目はカラコンを入れてるせいか青く見える。別にカラコンを外してもオッドアイの赤が見えるだけだが。こいつはなぜがそこがコンプレックスらしい。
少し歩くと商店街が見える。少し大きめのどこにでもある普通の商店街だ。俺たちは夏休みに入ってから毎日ここで昼ご飯を食べている。理由は学割があるのとうまいから。それと、俺たちは午前中に夏休み補習に行っている。正確には月凪のだ。俺は月凪に頼まれてしぶしぶ行っているが、成績はそこそこあってつまらないからいつも抜け出している。
昼食を済ませた後はいつもこの
「今日はどこ行く?」
「どこでも」
「たまには湊の意見も聞きたいなー」
「月凪から聞いてくるのはめずらしいな」
「たまには周りの人の意見も大切にしたほうがいいかなって」
いつも自分一人で好き勝手してる月凪が人に意見を聞くなんて...
「何か裏があるな」
「えっ?いやー、えーと......」
「それで今度はどこに行きたいんだ?」
「え?!ついてきてくれるの?」
「まあ......最近はちょっといいかなって思ってきたからな」
「やっと興味を持ってくれたんだ!」
島をてきとうに歩いていると言ったが、そのうちの一つに「絶景巡り」というものがある。文字通り、島中の絶景を巡るのだが、まだ誰も行ったことがない所に行くので絶景かどうかは見てからじゃないとわからない。だが、そこも含めて楽しいと感じるようになった。
「それで、どこに行きたいんだ?」
「えーっと、この辺に行きたい!」
そうやってかばんから取り出した地図に月凪が指さしたのは島の山の部分。ここは2人とも初めて行く場所だ。
「じゃあ、このまますぐに行くか」
「うん!」
月凪がとても嬉しそうに、鼻歌を歌いながら歩きだした。俺はその後を追うように歩き始めた。
「ねえねえ、早く来てよ!すごい景色だよ!」
「おい、ちょっと......待て......」
俺は息を切らしながら月凪を追いかける。こういうときの月凪の行動する早さは異常だ。それにしても、今回はやけに早い。そんなに行きたかったのだろうか。あと一歩進んだら景色が見える。
その時だ。何か嫌な予感がして立ち止まった。それは俺の右前......月凪の方からだった。
「どうしたの?湊くん?早く来てよ」
「......お前月凪じゃないな」
「え?どういうこと?私は月凪、海風月凪だよ」
「いや、違うな」
月凪は不思議そうな表情を浮かべたが俺はつづけた。
「お前、さっき湊くんって言ったよな」
「それがどうしたの?」
「月凪は俺のことを湊って呼んでいるぞ」
沈黙の数秒が生まれる。
その間、俺は必死に次に何をされるか、何をするべきかを考えたが数秒はそんなに長くはなかった。
「......ばれちゃったら仕方ないか」
わざとらしいぐらい笑顔な表情で俺を微笑み、そっと右ポケットに手を伸ばす。そこから何かキラキラしたものが出てきた。太陽の光のせいでよく見えない。その女はそれを器用に片手で回し、その先を俺の方に向けてきた。
ナイフだ。
「逃げろ!」
不意に誰かの声が聞こえる。
「なにボケっと突っ立ってんだ!逃げなきゃ死ぬぞ!」
振り返るとそこには22,3歳の男が立っていた。その声が聞こえた後、女は敵意を声の方に向け走っていく。だが、
「......余計な邪魔が入ったか......」
そういうとまたこちらに向かってくる。
やばい。逃げなきゃ。でもどうやって?さっきのを見る限り、走ってもすぐ追いつかれる。じゃあここでこいつを倒すか?でも、武器になりそうなものは何もな___
「すまなかった」
突然深々と頭を下げた20歳前後の若い女の人が立っていた。考える間もなくその人は言葉を続ける。
「突然君を襲ったことを反省している」
いったいどういうことだ。偽物の月凪は?この人はどこから来た?この人は味方?敵がわざわざ謝ることはないし。じゃあ偽物の月凪の知り合いか?
「黙ってしまうのも無理ないだろう」
ここにいるのは危険だがこの人から情報が得られるかもしれない。この人に話してみるか?
「色々説明しなければならないことがあるから一緒に来てくれないか?」
「月凪はどこですか」
俺は咄嗟にこの言葉を口にした。急に口から出てきた。
「......」
その人は気まずそうに顔を背ける。
「早く俺の質問に答えてください」
その人は顔をそらし続ける。
「月凪はどこだって聞いてんだよ!」
つい言ってしまった。
数秒の沈黙の後この人はこう答えた。
「......彼女はさらわれた」
「っ!」
彼女は俺を説得するようにもう1度話した。
「彼女を助けるためにも君には色々な話を聞いてもらいたい」
「............りますか」
「……すまない、もう一度言ってくれ__」
「その話を聞けば月凪は助かりますか」
「それは君次第だ」
「......」
今度は俺の目をまっすぐ見ていった。
……その言葉を聞いて少し戸惑った。
どこか心のなかでこの人の言う事だけしてれば月凪は助かると思っていた。でも自分から行動しないといけないことに今気づいた。正直遅すぎる。この人が頭を下げたあと、すぐにどうすればいいと気づくべきだった。でも気づけただけいい。今からでもこの人は間に合うと言っているから。そして俺は顔を上げた。
「その目は…さっきの質問の答えは、『はい』ってことでいいな」
俺は無言でうなずいた。
「とにかく話さなければ始まらない。今から君の身に起こったことを話そう」
ある夏の日、非日常の君と 秋氷柱 @akiturara
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