第9話

 ――ここは……どこ?

 ――俺の体内だ、今お前とひとつになっている


 フミコの意識にカジトの記憶が流れ込んでくる。

 心配そうな顔で見下ろす綺麗な女性、隣で歩く愛しい人、優しい笑顔で赤ん坊を抱く姿。


 ――母さん……

 ――俺からもうすぐ理性が消える、後はお前が魔銛で体を操れ

 

 水しぶきの隙間からバグマドの触手が襲い掛かるが、フミコが意識を集中すると鋭利な胸ヒレが動き出し、その触手をばっさりと切り落とす。

  

 つのから螺旋状に無数のとげが生えると回転を始め、バグマドの体をつらぬき、縦横無尽に切り刻む。


 バラバラになったバグマドの肉片が海面に飛び散る。

 一角鯨は口を大きく開けると咆哮をあげ、白色の光球を吐き出した。

 ザザァと大きな水しぶきを上げながら海面に着弾すると、大きな爆発音とともに周辺を真っ白な光が覆い、肉片は瞬く間に蒸発していく。バグマドは跡形もなく姿を消した。


 ――終わった、やっつけたよ

 しかし一角鯨の動きは止まらず、その体を島のほうに向けた。

 岸壁で見守っていた老婆が呟く。


「暴走が始まりおったな……」 

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