第27話

 その時です。その時、私の視界を遮るように親子が横切りました。父親と小さな男の子でした。男の子は前を歩く父親の背中を追うように小走りになってついていきました。男の子は父親の横へ並ぶと、父親の手を叩いて繋ぐことを催促しました。父親はそれに気づいて男の子の手を握りました。二人はそのまま歩いていったのです。


 私はその時に現実に引き戻されました。一瞬にして私はその男の子に同化して、私は父親の背中を思い出してしまったのです。

 私にもまだ一縷いちるの理性と、罪の意識があったようです。


 私は数ヶ月間、妖精として暮らしていました。しかしあろうことか、こうして姿を人間に戻して下界の空気を吸ってしまった。それが私の過ちだったのです。さもなくば人間などを思い出さずに済んだものを。


 私もああして父の手を叩けばよかったのかもしれません。そうすれば私も父の愛を確かめられたのかもしれません。


 今度こそ父は私を叱るでしょうか。私の頬を叩くでしょうか。もうそれもまた叶わないでしょう。


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