【中編】目が覚めたら人の心が読めるようになっていたラブコメ

夏目くちびる

第1話

 妙な医者にかかった。



 宛もなく街を歩いていると、何やら不気味な看板を発見したモノだから、俺は暇つぶしに矢印が指し示す暗い路地裏へ入っていった。



 すると、そこには一軒のクリニック。比較的新しい建物のようだが、どこか違和感のある佇まいで、まるで俺が口の中へ入ってくるのを待っているようにも見えた。



「いらっしゃいませ」



 何だか危険な匂いがしたから、踵を返して表へ戻ろうとした時、まるでディズニー映画から飛び出してきたかのような高身長でイケメンな白衣の男に声をかけられた。



 普通の制服を着た、如何にも普通の高校生らしい俺に対しても紳士的な振る舞いをする男が、件の妙な医者なワケだが。

 こうして紳士に、いや真摯に対応されてしまうと、俺もシカトを決め込むワケにもいかず、誘われるままにおっかなびっくりクリニックへ入ってしまった。



「本日は、どうなさいましたか?」

「いえ、外の看板が気になって覗きに来ただけでして。決して、どこが悪いというワケではないのです」

「そうですか。しかし、ご安心ください。ここは、病を治すクリニックではありません」



 はて、何を安心すればいいのかサッパリ分からない。

 無理に心の病を押し付けて、診察料をボッタクられるならいざしらず、何も治さない病院とはこれいかがなるモノだろう。



 俺は、好奇心を抑えられず質問を投げてしまった。



「ならば、ここは何をしているところなのでしょうか」

「人の心を読めるよう、脳を開発する機関です。珍しいでしょう?」



 珍しいどころの騒ぎではない。そんな能力が存在しているワケがないのたから、そんな能力を研究する機関だってあってたまるモノか。



「ロボトミー的な事ですか?」

「いやいや、そんな物騒な話ではありません。ただ、外部から脳みそに特殊な刺激を与えるのです。そうすることで、人の心が読めるようになるんですよ」

「ならば、あなたは俺が今考えていることが分かるんですか?」

「いいえ、残念ながら特定の人間にしか効果がないのです。処方して能力を得られるのは、身長175センチ、体重65キロ、年齢が15歳、誕生日が3月31日で血液型がAB型RH-の男性の脳みそだけでして」



 ……つまり、俺のことを言っているらしい。やけに限定的な条件だ。やはり、何か詐欺まがいの商売に巻き込まれているのだろうか。



「違いますよ、表の看板は当該する人材にのみ影響を及ぼすよう仕組まれているのです。他の誰でもない、あなただけが気になってしまった事が何よりの証拠でしょう」



 他に誰もいなかった事を、俺が知る由もないのだが。何となく、この医者が嘘を言っているワケではないというのが分かってしまった。



「分かりました、やってみてください。お代は如何ほどで?」

「いいえ、いただきません。強いて言えば、あなたの精神の情報を頂戴すると言ったところです。私どもは、減らないモノを頂くのですよ。決して、あなたに損はございません」



 そんなやり取りの後、ベッドに横たわって言われたままに目を瞑ると、俺はいつの間にか自宅のベッドに眠っていて、その上に月曜日の朝であった。



 どうやら、せっかくの日曜日が一瞬で終わってしまったようだ。まったく、与太話に付き合ったばかりに時間を奪われるとは。今後、怪しい話に付き合うのはやめておこう。



 ……いや、そもそも夢の中の出来事だったのかもしれない。思い出してみると、確かに2日間は休んでいたような気もする。記憶が曖昧で、なぜあの町へ出かけたのか、場所がどこだったのかも分からない。



 勉強のせいで、思いの外疲れているのかもしれない。早く、テストから解放されて楽になりたいモノだ。



「おはよう、母さん」

「おはよう、よく眠れた?」

「……? なんで、そんなことを?」

「だって、昨夜は凄くうなされてたんだもん。お母さん、ちょっとびっくりしちゃった」



 すると、突然母さんの胸の前あたりにぼんやりとテキストボックス的なエフェクトが浮かび上がった。

 寝ぼけているのかと思い目を擦ると、そこには無機質な文字でこんな言葉が並び出した。



【勉強のし過ぎでおかしくなっちゃったのかしら、頑張り過ぎは心配ねぇ】



「……なるほど」



 昨日のクリニックでの一件が事実が夢幻か、もはやそんなことはどうでもいい。問題は、この文章が何なのかという話だ。



「なにが、『なるほど』なのよ」

「心配しないでよ、母さん。俺、息抜きもそこそこやってるから」

「え? あぁ、そう。ならいいけど」



【母親が息子の気持ちを読むのはよくあるけど、その逆とは珍しいわねぇ。……いけない、お味噌汁が】



 火をかけていた鍋の蓋がカタカタと揺れて、少し吹きこぼれたところで母さんがコンロの力を弱めた。



 決まりだ、俺は人の心が読めるようになっている。



「キノの旅じゃねぇんだぞ、マジで」



 しかし、心を読むといえば相手が考えている本音が声となって俺に届くという意味なんだと勝手に思っていたが。

 確かに、考えてみればあれは『聞く』だ。俺に備わった能力は、正真正銘の『読む』力であるらしい。



 これは、なかなかありがたい。実際、街行く人や友人の本音をすべて聞けてしまったら、俺の精神はあっという間に病んでしまっていただろうから。



 その点、この読む力であれば別に見たくない心からは目を逸らせばいい。いや、そもそも心を具現化しないで済む方法があるのなら、先に母さんで試してみるべきだが。



「ねぇ、母さん。俺、今日の夜は魚が食いたい」

「朝ご飯食べながら夜ご飯の話なんてしないの」



【そういえば、今年はまだサンマを食べてないわねぇ。少し高いけど、サンマしようかしら】



「この味噌汁、いつもよりしょっぱいね」

「文句ばっかり、仕方ないでしょう?」



【火を入れ過ぎたの、あんたのせいじゃない】



「父さんは?」

「もうとっくに仕事行ったわよ、いつものことじゃない」



【この子、どうしちゃったのかしら。何か、お父さんにしか出来ない相談でもあるのかも】



「母さん、忙しいなら俺がお使い行こうか?」

「別にいいわよ、お母さん車だから」



 ……文章の召喚は話を聞き終わって尚且つ目をしっかり見ている相手のみに適応されるらしい。



 要するに、聞きたくなきゃとっととそっぽ向けばいいということなのだろう。なんとも都合のいいシステムだ。これは、よっぽど高度に発達した何かしらの技術というか、あまりにも魔法じみているというか。



 今まで、死ぬほど頑張ってきた勉強の意味を疑わなきゃならないな。



「やれやれ」



 そんな、やや心が折れそうな感覚で学校へ向かう途中、一人の女が声をかけてきた。



「相変わらず軟派な男だな、いずみ。何だその顔は。なぜシャキっとしない」

「おはよう、お前は相変わらずシャッキシャキだな。神楽」

「も、もやしの歯ごたえみたいな言い方を言うな! 私は気持ちの事を言っている!」



 赤坂神楽。同じクラスの同級生。身長は170センチ、体重は知らない。長い黒髪をポニーテールに結った、容姿端麗というよりも眉目秀麗といったほうが良さそうな見た目をした聡明な奴だ。



 所属クラブは空手部。その腕前は男を圧倒するほどで、インターハイだけでなく大人も参加する大会すら優勝してしまう天賦の才を持ったハイパー女子高生。男よりも強いから、当然女にモテまくる。ついでのように、男にもモテる。



 聞くところによると、100年に一度の逸材だとか。まるで、人間国宝になるために生まれてきたようなヤツだ。



 そんな彼女だが、どうしてかいつも俺の生き方に意義を唱えるような物言いをする。なんというか、グータラでフニャフニャでそれなりにスケベな俺なんか放っといて、硬派らしく武芸を発達させるための活躍でもすればいいのに。



 因みに、泉ってのは俺の名前。八雲泉。生まれる前は女だと思われていたらしい。



「月曜日ってのは憂鬱なんだ、俺にはお前みたいに生き甲斐とかないから」

「ならば、どうして土日は好きなんだ? その土日ですら、お前はやることがないと言ってるだろう」

「別に好きじゃない。あくまで、平日と比較的して怠けやすいだけ。努力しなくても他人の目を気にしないで済むから」

「本当によく回る口だな……」



 こいつ、普段からどんな気持ちで俺に喋りかけているのだろうか。いい機会だ、俺みたいな怠け者に対して偉そうに喝を入れようとする人間の心ってのを覗いてやる。



 どれどれ。



【きょ、今日は朝から泉と話せてしまった! やったぁ! これで今日も頑張れる!】



 なに?



【ワガママとはいえ、実はトリートメント変えたんだけど気付いてくれてるかな? 雑誌で見た新しい香りを試してみてるんだけと、泉が好きな香りだといいなぁ】



「……なぁ、神楽」

「なんだ?」

「今日は、髪の毛の調子がいいな。いつもよりツヤがある」



【はっ! はっ! き、気が付いていくれてた! 嬉しい! やっぱり効果あるんだ! よかったぁ、嬉しいよぉ】



 なんだ、こいつは。



「なぁ、神楽」

「なんだ!? さっきから質問ばかりだな!」

「お前、俺のこと好きなの?」



 すると、神楽は顔を真っ赤にして叫んだ。



「な、な、な、何を言っているんだ!? お前は本当に突拍子もないことを言う輩だな!」



【そんな事、聞かなくても分かってるでしょ!? でも、どうして素直になれないんだろう。ここで告白出来たら、きっと彼へ気持ちを隠す必要だってなくなるのに。でも、もしも否定されたらって思うと…】



 神楽の気持ちの文章を読んで、俺は『あぁ、こいつは案外乙女は奴なんだな』と思った。

 恋心を向けられるのは、存外悪い気分ではない。むしろ、好きだと言われればこっちも好きになってしまいそうな、照れてしまいそうな。そんな、チョロい気分になってくる。



 なんだよ、神楽。お前、結構かわいいじゃないか。



「冗談。いや、笑談だ。いつも怒られているから、なんだか誂ってみたくなってな」

「な、なんなんだ、言葉遊びまでして。本当にそういう冗談はよくないんだぞ」



【よくなくない! ……って、別にあなたが私のことを好きってワケじゃないんだよね。でも、もしもそうだったら】



 テキストボックスを浮かべたまま、神楽は両の頬を手で抑えて真っ赤な顔を支えながら俯いた。そういえば、こんな仕草を今までに何度も見てきたような気がする。



 そうか、こいつは俺の言葉に照れたり凹んだり。そんなことを一人で繰り返していたのか。見た目より、パンピーらしき器量の持ち主じゃないか。

 俺はてっきり、やたらと戦国武将的な固くて重たい気持ちで他人と接しているのだと思っていたが。どう捉えても、神楽は女子高生的だ。



 面白い。学校へ向かう道すがら、ちょいと誂ってみよう。



「神楽って、知識はあるのに頭が悪いよな」

「なに? それはどういう意味だ?」

「勉強は出来ても、頭の回転は遅いという事だ。それじゃあ、自分の常識に囚われてしまって生き辛いでだろうよ」

「そんなことはない! 私は瞬間の理解にも聡いから相手の次の一手を読むことが出来るんだぞっ!」

「そういう話じゃない。お前は他人の気持ちを察せなさ過ぎる。戦いとコミュニケーションは別物だ」

「ふん。そんなこと言って。私だって、意外と多くの人間と関わっているんだぞ」



【わかってるから、頭のいいあなたがいいのに。その辺をわかってくれないあたり、あなただって女心を分かってくれないおバカさんだろう】



 アホか。



 男という生き物は、本能的に女が自分に好意を抱いていると思ってしまう生き物なのだ。

 そこに最初から疑いを持って女子と関わっているあたり、俺は相対的に自分を客観的に見れているバカ以外の何かだと言えるだろう。



 なんて。ちょっと、イジワルを言ってみただけだ。普段は強くてカッコつけてる神楽を、何となく上から弄ってみたくなっただけ。



「頭なんてよくない。俺は、お前と関わる上で必死こいて食らいついてるだけだよ」

「……やめろ。そんな歯の浮くような事を口にするな」



【だからお前なんだ! 私のことを一人の女子として誂ってくれるから! 他の男なら敬遠して言わない事を言って、その上で包み込んでくれるからいいのだ!】



 そんなに言われると流石に言葉を選んでしまうワケだが。

 とにかく、こんなに凛として風体表情で心中は恋する乙女よろしく砕けてしまっているとなると、どうしても神楽の見方が変わってしまう。



 昔、まだ中学生だった頃に俺だけが特別な力を手に入れても価値観の変わらない素晴らしい人格者である妄想を繰り広げたモノだが。やはり、こうして粋がるような傲慢さも授かってしまうのだな。



 虚しい。知らないことを探るから面白く、ともすれば知っている事をやるのは面白くないとは。いやはや、昔の人はよく言ったモノだ。



 聞くところによれば、人間の体感時間の折返しは20歳だという。これは、世界を知って新鮮さが失われるからだという事らしい。



 こいつが、いわゆる相対性理論とやらの本質らしいが。果たして、俺の人生の折返しはいつになることやら。



「泉は、誰にでもそういうことを聞くのか?」

「気になったら聞くよ」

「わ、私のことが気になるのか!?」

「そりゃ、何かに付けて突っかかってくるからな。俺と似たようなのはたくさんいるのに、俺だけを軟派だとか腑抜けてるとか言うだろ」

「あぅ……」



【ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい。ダメだっていうのは分かってるけど、気持ちを隠そうとすると思ってもないこと言っちゃうの。でも、それって私のこと嫌いって事だよな】



 そんなことはない。俺はまったく人嫌いではないし、むしろ会話は好きな方だ。

 ただ、積極的にコミュニケーションを取りに行く活力もないから、こうして構いにくる神楽のことは、内容はどうあれありがたいと思っている。



 好印象だ。恋愛的に好きと言うには、少し遠い感情だが。



「どうしたよ」

「そんなに傷ついてるとは思っていなかったから。……ごめん」

「待て、嫌だとは一言も言ってない。ただ、ステレオタイプな俺なのに俺だけ叱咤をかける気持ちの裏が知りたかっただけ」



【あぁ、どうしてこうなっちゃうんだろう。マズイ、顔の力を抜いたら泣いてしまう。朝からこんな気持ちになるなんて、どうして私ってこんな時になるまて気が付かなかったのかな……】



 女ってのは、なぜ一度思い込むと他の情報を遮断して自分を責めるのだろう。

 その癖は、いい方向に転べば背中を後押してくれる自信に繋がるだろうが、こう悪い方向へ転がればてんでダメだ。女は全員メンヘラと言うが、こういう時に俺は情報の確かさを感じる。



 何か、慰めてやった方がいいだろう。きっかけも理由も俺なのだから、骨まで拾ってやるのが男の務めってヤツさ。



「神楽」

「な、なんだ」

「俺は、お前のこと好きだぞ。その証拠に、憂鬱くんだり肩並べて登校してるじゃないか」



【……ほぁ】



 あらら。心の中までフリーズしちまってる。もしかして、突拍子もなさ過ぎて不快にでもなっただろうか。

 しかし、考えてみればそうか。これじゃ、凹んだ自分を元気付けるためだけに並べた薄っぺらなおべっかに聞こえてしまってもおかしくない。



 もう一度、何か別の言葉を――。



【すきっていった、すきっていった、すきっていったすきっていった! いずみがわたしのことをすきっていった!】



 なんだ、心の文字がすべて平仮名になったぞ?



【ぜったいおよめさんにしてもらう! わたしのぜんぶあげる!】



 ……重いよ、神楽ちゃん。ゼロサムで考えるのは、あまり関心しないぜ。



「立ち止まって黙ってないで、とっとと学校へ行こう。遅刻したら、クラスメイトの面前で恥をかく事になる」

「う、うん。そうだな。は、はは、早く行こう」



 こうして、俺は俯いてチラチラと俺を見ながら半歩後ろを歩く神楽を気にしつつ、適当な話題を持って気を逸らせ学校まで向かった。



 しかし、この平仮名には何の意味があるのだろうか。知能指数のレベルでも表しているのかね。



 ……。



 クラスに着くと、この能力についてもう少し分かる事が出てきた。



 どうやら、俺へ意識を向けていない人間に対しては効果がないらしい。現に、隣で百合に半歩足を踏み入れていそうなスキンシップを楽しむ、華やかな女子たちの目を見ても文字は浮かび上がらなかったからだ。



 どこまでも、俺に気を使ってくれる能力だ。ますます便利で、そして退屈にさせてくれる。



「ちょっとくらい、不便な方が楽しかったかもしれないな」

「何変なこと呟いてんの、泉。もしかして熱ある?」

「いや、そうじゃない。贅沢な悩みがつい口を出ただけ」

「贅沢な悩みってなによぉ。教えてよぉ」



 気怠い声で話しかけてきたのは、隣の席の花田茉莉はなだまつりだった。



 茉莉は、何というかコギャルっぽい女だ。ウェーブのかかった金髪で、程よく制服を着崩して、如何にもかわいいって言われそうなメイクと性格をしたクラスの人気者。身長は165センチ。



 よく告白されているらしく、自慢げな愚痴を聞かされるのもしばしば。

 眉唾だが、俺は少しも事実を疑っていない。何を隠そう、一年の最初の頃に俺も気になっていた事があるからだ。



 この、コギャルっぽいのに気怠げというギャップが妙な色気を醸し出している、というべきだろうか。はたまた、幸が薄そうに見えるというべきだろうか。。

 彼女は、男を惑わせるような雰囲気というか匂いというか、そんなフェロモンにも似た謎の成分を分泌しているのだ。



 無論、怠け者の俺だから深く関わらないうちに興味も褪せたけど。



「あまり、ひけらかす趣味はないんだけど」

「いやーや、聞かせてよぉ」



【泉たら、話が妙に上手で面白いんだよねぇ。なんか落ち着くし、朝から他の男子のイキリは聞きたくないもん。ここが一番楽だぁ】



 こいつ、そんなことを思っていたのか。

 落ち着くってのは、どう受け止めるべきか。大方、大したことのない顔の造形を揶揄して言葉を選ばずに済むからと言ったところだろう。



 期待はしないよ、疲れるから。



「相手は分からないんだが、俺のことを好きな女がいるって噂を偶然聞いてしまったんだ。だから、もしも出会ったらどう接すればいいのかと思ってな。茉莉、百戦錬磨のお前ならどうすべきか心得ていたりしないか?」



 すると、茉莉は突然顔を引き攣らせて押し黙った。というか、この反応さっきも見たぞ。



【な、ななななんで知ってるの!? えぇ!? どこから!? どこから漏れたの!? あたし、絶対に誰にも言ってないのに! 相談もしてないのに、誰かにバレてたってこと!? そんなにマジマジと泉のこと見ちゃってたの!?】



 ……マジかよ。



【ヤバい! ヤバいヤバいヤバい! インスタで変なこと言っちゃったからかな!? あたし、何を投稿したんだっけ。それとも、ツイッターの方!? 変なポエムやっちゃってた!?】



 すると、茉莉は誤魔化すように髪をイジイジとしてからスマホを取り出し、誤魔化しを吹き飛ばすが如き勢いで画面をスクロールすると、最後にはポッと頬を染めてガックリと肩を落とした。



【あっちゃ〜。よくよく読んで見れば、泉のことばっかりじゃん。あたしったら、何してるんだよぉ〜。もぉ、ばかばかばか……】



 何をしてるんだはこっちのセリフである。



 そういえば、やけに行く場所が重なっていると思った事もあった。俺が行った場所で撮影された写真や動画が、気が付くとタイムラインにあったような気もしている。



 決定的なのは、講談だ。



 俺の趣味は、実を言うと講談を聞くことなのだ。

 だから、喋り方や言葉選びも少しばかり演技がかったモノになるし、それを上手だと受け取る人間もいるかもしれない。『お主、神田伯山を真似ているな?』と問われれば、縦に首を振らざるを得ないくらいには講談を聞いているのであった。



 ――カンカン!



 ……なんて、張り扇を叩く妄想を挟みつつ。



 しかし、講談は落語よりも知名度が低いし、だから茉莉の投稿を見たときはこんなにキラキラした女子高生が一人で公演を見に行くってのは、何かよっぽどのことがあったんじゃないかと感心した物だ。



 ネタをあげてみれば何てことはない。こいつは、俺をストーキングしていたのだ。



 本当に、何をやってるんだか。

 まぁ、百歩譲って後をつけるところまでは何となく気持ちも分かるけど、その証拠を俺にも分かるように自らばら撒くっていうのは、俺が知ったあとにどう考えるのかも分からないくらい盲目的になっているという証明になりそうだが。



 ……いや。



「あは?」

「あざいとな、その笑い方は」



 俺なら、バレても受け入れるだろうという信頼なのだろうか。好きだと思われている以上、もちろん無碍には出来ないけど。俺って、そこまで出来た男じゃないぞ。



「その、ね」

「どうしたんだ、改まって。さっきの俺の質問の答えが思い浮かんだのか?」



【もう、バレるのも時間の問題だ。こうなったら、待ちの戦法は絶対にダメ】



「そうじゃなくて。えっと、急に変なこと聞くと思うかもしれないけどさ」

「変なことは歓迎する、なんだ?」



【泉って、カノジョいるの? って、聞くのよあたし! ほら、頑張って!】



 頑張れ頑張れ。



「い、泉って」

「うん」

「泉って……」

「うん」

「泉って! 朝ごはんはお米とパンどっちの方が好き!?」



 頑張れなかったようだ。

 友達の恋愛相談にも頻繁に乗っているモテモテの茉莉だから、俺はてっきり自分の意中もあっさりと明かしてアタックするタイプなのだと思っていたが。



 どうやら、当事者になれば話は別らしい。是非、自分自身にもアドバイスをしてあげてほしいね。



「ご飯の方が好きだ、納豆はトーストに合わない。フレンチトーストと味噌汁の取り合わせなんて最悪だよ」

「ふふ、それって結局ご飯に合うおかずが好きなだけじゃん」

「そうとも言う。まぁ、忙しい中で用意してくれる母さんに敬意を評した上で米に軍配を上げたってところ。茉莉は?」

「あたし? あたしは、朝はパンが食べたいなぁ」



【……あたしのばか】



 なんて、朝食談義に華を添えていると周囲には茉莉の友人もといクラスメイトが集まって、あっという間に俺をそっちのけた集団となった。



 こうなれば、俺の居場所はない。トイレにでも行って、授業を受ける準備を済ませるとしよう。

 至って平凡な風体の生徒というのは、こうして彼らの青春の1ページにも気を使ってモブを演出することも役割なのだ。



 ……とはいえ。



「どうしたモノだろうか」



 少なくとも、学園規模で人気者な二人の女子に好かれいる事を知った今となっては、俺も部外者を決め込むワケにはいかない。

 しかし、これはあくまでも俺だけが尋常ならざる理由によって知り得た秘密なのだから、俺から何かしらの決着をつけるのは野暮だと思うのも事実である。



 ならば、何もしないで流れに身を任せ、彼女たちの起こすすったもんだに感動しつつ一喜一憂すればいいのだろうか。

 起きたことをまるで知らなかったかのように受け入れて、知っている事に優越感を覚えながらやり取りを考えればいいのだろうか。



 ……難しい。



 今のところ、心が読める事で得をした覚えが見当たらない。



 結局、彼女たちが俺を好きであることは心を読まずとも存在していた事実なのだから、むしろ知ってしまった事でドキドキ出来なくなったという損をしているような気さえしてくる。



 まぁ、二人とも魅力的な女子である事には変わりない。心が読める俺だから出来る、彼女たちの好意へ報いる方法を探すべきだと思うのだが。



「そもそも、読んでる時点で失礼なんだよな」



 果たして、このあたりの好奇心と倫理観に折り合いを付けることが出来るのだろうか。

 そこまで出来た人間ではないと俺自身思うが、大いなる力の責任とやらはせめて果たそうと、そんなことを思って深くため息をついた。



 つーか、二人して気持ちが重たいな。もっと、楽に生きればいいのに。



 俺みたいにさ。



 ……。



 とんでも能力を手に入れて、落ち着いて冷静になって、そしてまず考えるべきが恋愛とは。



 別に、新聞記事を見てどこかの社長に会いに行って、インサイダー的悪魔の取引を行えるような資金もコネクションも無いし、ある意味高校生らしいといえばそうなのだが。



 まぁ、高校生なのだから仕方ない。とりあえず、他人の心を読むのを止めて彼女たちについて考えよう。



「ふぅ」



 確か、神楽は気を遣わないでくれる的な、茉莉は話が面白い的な事を言っていた。

 そんな奴は、他にいくらでもいるような気もするけど。彼女たちの交友関係をよく知っているワケでもないし、他の要素も混ざりあった結果なのだろうからここは慎んで受け入れよう。



 つまり、そこまで彼女たちを知らない俺が選ばれたのは、関わり過ぎなかった事で欠点を見破られなかったからなのだろう。



 消去法で選ばれるとは、俺もなかなか普通を極めている。



「い、泉」



 休み時間、図書室でガラにもなく恋愛読解本なんぞをパラパラ捲っていると、すっと現れて正面にすっと座った神楽が、いつもは結っている髪を解いた姿で現れた。



 なんてタイムリーなんだ。確か、女子の変化には逐一反応してやれとこの本にも書いてあった。



「どうした、神楽。髪型、解いてると中性的ないつもと違ってかわいいな」

「かわっ!?」



 面白い反応をしたから、俺は持っていた本を見せて彼女を誂った。手品を見せたのだから、ネタバラシまでしっかりしてやらないとフェアじゃない。



「はは、効果覿面だ。神楽も、やっぱり普通の女子高生なんだな」

「あ、あぁ。そういうことか。クス、泉にはいつも不意を取られてしまうな」



 緊張していたのが落ち着いたのか、彼女はいつもより柔和なイメージの表情で俺を見た。



「なにか用事が?」

「用事がないと、会いに来ちゃダメか?」

「ダメってワケじゃないけど、不自然だろう。ただイチャツイて楽しむような関係は、俺たちじゃない」



【うぅ、相変わらず言いにくいことをズバズバと言う奴だ。少しくらい、特別扱いしてくれてもいいのに】



 他と同じ扱いをしろとか、特別扱いをしろとか。神楽も結構面倒な注文をしてくれる。

 まぁ、口に出さないだけ自制心があるということか。ベタベタ甘えられても、それはそれで困ってしまうからな。



「でも、泉は私のことを好きだと言ってくれたじゃないか。だから、私はこうして……」



 ゴニョゴニョ言っていて、最後の方はよく聞き取れなかった。



「まぁ、いい女だと思ってるよ。頑張り屋さんだし」

「ぴゃあ!? だから! そういうことを平気な顔して言うのは卑怯だと何度も訴えているじゃないか!?」

「言われてムカつく言葉じゃないだろ。褒めた方もいい気分だし、褒められた方もいい気分だし。口にしてメリットしかないと思うけど違うか?」

「ま、またそうやって口車を走らせて! 泉! お前は私のことを困らせ過ぎる!」



 誂ってないと、立場の違いなんかを粛々と考えてしまって言葉が出てこないからな。俺なりの処世術なのさ。



「困りたいから俺のところに来るんだろ、強過ぎるのも問題だな」

「……急に心をこじ開けるのは止めてくれ」



【うっかり、寄りかかってしまいそうになる】



 前々から、俺は最強ほど心の休まらない存在はないと思っていた。



 だって、そうだろ?挑戦者は負けたって挑戦者でいられるのに、王者は負ければ王者でなくなるのだから。

 迎え撃つプレッシャーは、挑むプレッシャーを遥かに凌駕しているハズだ。だからこそ、王者は迷いを振り切るように挑戦者を超える努力をひたむきに行うことが出来るのだろう。



 ともすれば、果たして神楽の抱えるモノとは一体どれだけの負担となり得るのだろうか。ふと、周りを見渡して寂しくなった時、支えられずに、抱えられずに、その重さに負けて倒れてしまうのではないだろうか。



 彼女が寄りかかってしまいたいと思う心境が、まさにその答えなんだと俺は思った。もちろん、だからこそ得られるメリットやバフ的なものもあるんだろうけどさ。



「……ところで、どうして怠け者のお前が勉強だけは真面目にやるんだ?」

「別に真面目じゃないけどな。強いて言えば、学生の本文だからやってる。やらないで受ける苦労より、やる苦労の方が楽だって頭のいい大人も言ってたし」

「そういう性格だから、今日はそれを読んで恋愛の準備をしてるのか?」



 おぉ。実は特に大した考えもなかったのだが、筋道立てて根拠を欲しがる俺にはピッタリの理由だ。そうだった事にしよう。



「まさしくその通り。流石に冴えてるな、神楽」

「え、えへへ」



【泉に褒められちゃった】



 なんて事を話していると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。恋愛読解本、せっかくだから借りていこう。



「おぉ、見ろよ神楽! とうとう貸出本数が100冊になったぞ! 一冊500円だとすれば5万円も得した事になる! 借りない奴よりも5万円分お得に学校を利用したんだ!」



【こういう意味の分からないところもあるから泉はかわいいんだよなぁ。嫌がりそうだから言わないけど】



 思わず喜んでしまったところを、なんだか息子か弟でも見るような感じで微笑まれてしまった。

 なるほど、心を読むとこんな風に女が気を遣って口にしなかった事まで知ってしまうワケか。なかなかどうして、生じた羞恥心はデメリットとして釣り合っているような気がしてしまうな。



 恥ずかしいぞ、チクショウ。



「忘れてくれ、頼む」

「ふふ、忘れてやるものか。ざまみろ」



 そんな調子で、気が付けば放課後。テクテクと廊下を歩いて昇降口に向かう途中、トンと背中へ鞄を当てられたモノだからさっと振り返ると。



「ねぇ、一緒に帰ろ」



 さっきまでは腰に巻いていた黄色いカーディガンを羽織った茉莉が、いつも通り気怠げな声色で呟き、しかし淡い微笑を浮べてそこに立っていた。



【よく言った! あたし!】



 この笑顔を、どういった葛藤の後に捻り出したのかを考えるだけで涙が出そうになる。怠け者の俺だから、その反動で頑張り屋さんが大好きなのだ。



「いいよ、駅までな」

「うん、駅まで」



 茉莉は、隣を歩いてる間あまり口を開かなかった。誘ったわりに、退屈を共有するだけとは、これまた俺と茉莉の関係じゃないと思うが。



 しかし、胸の前には常に。



【スタバ行こって誘う、スタバ行こって誘う、スタバ行こって誘う、スタバ行こって誘う……】



 こんな調子で、スタバに行く提案を口にしたいといった本音をグルグルと反芻し、俺を見たかと思えばさっと目を逸らしてモジモジと金髪を弄るのである。



 もう焦れったいのなんの。



 冷静に考えて、一人で帰る男子高校生の放課後に何か予定などあるハズがないじゃないか。

 どうせ、繁華街で降りて本屋に立ち寄るかネットカフェで今週発売の漫画雑誌をまとめて読むくらいしかないのだから、デートが出来るなら喜んで受け入れるに決まっている。



 ……まぁ、俺はダルかったら行かないけど。こんなに頑張ってる姿を知ってしまえば、どうしても『NO』とは言えないだろう。



 かと言って、助け舟を出すのは何だかズルい気がして、俺も特に動く事が出来ない。駅までと言っておきながら急に『コーヒー飲もう」なんて提案したら、下手をすれば能力の存在を疑われかねない。



 いや、それはないか。



 とにかく困った。仕方ないから、気まずさを紛らわすためにいつも通り下らない戯言、或いは贅言でも吐いて様子を見るとしよう。



「そろそろ、町がクリスマス色になってくるよなぁ。チラホラ光が増え始めてる」

「え? あぁ、うん。泉って、そういうの好きなの?」

「中学生の時から、毎年必ず見に行ってる。綺麗なのを見るのは好きだからな」

「……ちょ、ちょっと待って? それって、もしかして女の子と?」

「いや、一人だよ。生まれてから今日までずっと」

「……ほっ」



【よ、よかったぁ】



 この『よかった』というのは、俺の仕方なく一人で景色を満喫するやや寂しげな青春の惨めさを指して笑っているのだろうか。それとも、カノジョがいなかった事に安心しての言葉なのだろうか。



 なるほど、文字で表示される分、声色で判断が出来ないから、シンプル且ついくつかの意味を考えられる言葉では、正しい受け取り方が出来るとは限らないワケか。



「なにをほっとしてるんだよ、一人ぼっちを笑うモンじゃないぜ」

「ふふ、違うよ。そういう意味じゃないから」



【こういう時、本当におバカなんだから】



 気になる事ほど心を読んでも分からないということか。思っていたより、無敵の能力というワケでもないな。

 言ってみれば、リアルファイトになったとしても相手のパンチの後に相手の心が読めるワケだから、未来予知が出来るというワケでもないし。



 相手のこと、考えさせられるし。これはもう、デバフと言っても差し支えなさそうだ。



 ガックシ。



「茉莉は、クリスマスが好きじゃないのか?」

「そりゃ、好きだけどさ。あたしは泉がクリスマス好きな事に驚いてるよ」

「俺からすれば、嫌う理由が分からん」

「カップルを見て、羨ましいって思うからじゃん?」

「それがズレてる。クリスマスは、チキンとケーキを食べてホーム・アローンを見る日だろ。おまけに、サンタから幾らかの小遣いまで貰える。これはもう、好きにならない方がおかしい」

「ふふっ、あはは!」



【ズレてるのは泉じゃん! ほんとおバカ!】



 ケラケラと笑う茉莉を見て、この『おバカ』は流石に褒め言葉なんだろうなぁと思った。

 要するに、心の意味が分からなければ表情とリンクさせればいいワケだ。声色を聞いて、どんな感情を抱いているのかを引き出せばいいワケだ。



 ……人は、それを『会話』と呼んでいるのだがね。



「それで、茉莉は去年のクリスマスに何してたんだ?」

「えっとねぇ。昼はみんなで遊びに行ってぇ、夜はママと一緒にご飯作ってぇ。食べてぇ。それで寝た」



【まぁ、あたしはつまみ食いしただけなんだけどね。おいしかったなぁ】



「充実してるな。みんなってのは、いわゆる集団デート的な事なんだろ? 男女ならではの行き先ってのは少し気になるよ」

「べ、別にデートとかじゃないけど。繁華街を歩いてゲーセンでプリクラ撮ったよ」

「いいな、青春っぽくて。みんなと仲良くやれる茉莉が羨ましいよ」

「そんなに友達いなかったっけ?」

「俺のSNS見れば分かるだろ。フォローしてる人はリア友じゃなくて趣味の合うおじさんが多いし。休日にどこへ行くのもやっぱり一人だ」

「確かに、寄席も一人で見に行ってるもんね。……はっ!?」



【し、しまったぁ……。追っかけてるのバレたぁ……】



 物騒なことを思い浮かべると、茉莉は何かムッとしたような顔をして俺の前に立ち止まり、ジッと見上げて黙り始めた。

 今バレたというのは誤解だが、それにしてもどうせ心を読まなければ俺は彼女の行動に気付きもしなかっただろうし、トボケておく事にする。



「なんだよ」

「今のは違うの」

「そうか、違ったのか。」

「あたしはね? 本当に偶然講談を知ったんだよ。決して、泉の真似をして聞いてるワケじゃないんだよ?」

「そうなのか。どの文脈から俺の真似に繋がるのかさっぱり分からないが、同じ趣味の人間が増えるのは嬉しいよ」



【ま、また墓穴掘った! あぁん! もう!】



「……うん」

「ところで、もうすぐ駅につくな」

「……うん」



【ダメだ、あたし本当に変なことばっか言っちゃう。多分、昼休みに神楽と一緒に帰ってきたのを見たからだ】



 ヤキモチ焼いてたのか。人気者なのに初心ってのは、何か理由でもあるのだろうか。



【もう黙って帰ろ。はぁ、あたしバカ過ぎて本当に嫌になる】



 神楽と茉莉の共通点は、勝手に自己嫌悪に陥って病んで、けれど立場のせいで誰にも相談出来ないって事だろうか。



 ともすれば、この恋愛事情の成り行きは、俺に友達がいないことが上手く作用したのだ。



 きっと、彼女たちの中には、俺が誰にも彼女たちの本性を明かさないだろうという前提があって。だから、みんなの中心になって優しい嘘を纏う事に疲れた後で心が揺れ動く機会が多かったのだろう。



 極論、彼女たちに興味がない奴だったら、誰でも俺の代わりになったのだ。そんな事を、黙って駅へ向かう途中に考えていたのだった。



「ばいばい、泉」

「あぁ。……いや、待ってくれ。茉莉」

「なに?」

「せっかく、同じ趣味だって分かったんだ。少しくらい、俺の暇つぶしに付き合ってくれよ」



【……しゅき、だからいずみがだいしゅき。もうぜったいおなじはかはいる】



「い、行く! 行く行く! どこ行く!?」

「誘っといて悪いけど、特に決めてないんだ。茉莉は行きたいところあるか?」

「ある! スタバ行こ!」



 このやり方はフェアじゃない。本当にフェアじゃないが。



「分かった。でも、注文の呪文は教えてくれよ? 俺、エスプレッソ頼んだらクソ高い金額出して極小サイズのにっがい液体飲まされたトラウマがあるんだ」

「あはは! んもぅ、仕方ないなぁ。じゃあ、あたしと一緒のヤツ飲もうね」



 きっと、心が読めなくても俺はこうしただろうから。



 傷付いた女の子を黙って見過ごす罪悪感に、俺は耐えられないだろうから。俺は、ズルをして彼女が一番喜ぶ言葉を吐いた。



 ……。

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