第23話 マリアーヌの心配事
初ダンジョンの反省会とお祝い。そして……。
オルコットを中心にエルシーと二人で料理を作る。
トリステンはテーブルや食器、飲み物の準備をする。
「わたくしも手伝いますわよ。ねぇ、スティーブン」
「はい、お嬢様」
「いいから、いいから。もうすぐ、準備ができるから、マリーちゃんとスティーブンさんは座っていて」
そう言って、二人を椅子に座らせると、料理と飲み物をテーブルに並べる。
うさぎの香草焼きに鳥のトマト煮、レタスとチーズのサラダ、トマトときのこのパスタ。きゅうりやパプリカのピクルス。
「スティーブンさんはお酒を飲まれますか?」
「いえ、私は結構です」
「スティーブン、一杯くらい頂いてはいかがですか?」
「……それでは、いっぱいいただきます」
スティーブンは、いつものすました顔の真っ黒い瞳が、ほんの少し光った。
「さて、みんな飲み物はオッケーね。じゃあリーダーお願いします」
「それでは、無事にみんなが初めてのダンジョン探索から帰ってこられたことと、遅くなったけど、マリーとスティーブンさんの歓迎会を始めます」
「え!? 歓迎会?」
「私も……ですか?」
「そうですよ。せっかくマリーさんとスティーブンさんが仲間になってくれたのに、歓迎会をしてなかったでしょう。これからもよろしくお願いします」
「さあ、料理が冷めないうちに食べましょう。オルちゃんの料理は美味しいから」
「マリーさんたちが、いつも食べているものと比べないでくださいね」
マリーは熱々のうさぎの香草焼きを可憐に口に運ぶ。なぜか緊張して見守る三人の前で。
「美味しいですわ。優しくて暖かい味がしますわ。オルちゃん」
「マリーさん、初めて名前を呼んでくれた」
「そうでしたか? わたくしはマリーと呼んでくださいませ」
「分かった、マリー」
「はい。オルちゃん」
可愛い女の子ふたりが微笑み合っているなんて尊いわ~。お酒が進む。
あれ? スティーブンさん、なんで泣いているの? あ、そうか、お酒が足りないのね。
エルシーはスティーブンとお酒を注いで注がれて、いい気分になって来る。
「そういえば、マリーって、一薬草を採りに行ったときは、なんでポイズンウルフに襲われていたのだ? マリーなら二匹くらいどうにか出来ただろう」
「あの時ですか? まさか薬草を採りに行くくらいでモンスターに襲われるなんて思っていませんでしたので、武器を持っておりませんでしたのよ。ですので、不意をつかれまして、思わず悲鳴をあげてしまったのですわ」
「もしかして、あそこのことを全然知らずに行っていたのか?」
「そういえば、薬草があるとしか聞いていませんでしたわね。うふふ」
マリアーヌは少し恥ずかしそうに笑う。
一歩間違えば、命を落としていたかもしれなかった状況を、まるで他人事のように笑うマリアーヌを見て、生きている世界が違うのではないかと不安になるトリステンであった。
「そういえば、エル姉ちゃん。この街の夏祭りっていつから始まるの?」
トリステンはパスタを食べようとして、ふと思い出したように尋ねる。
夏祭り。
暑い夏を乗り切るための、街のお楽しみ。
「えーと、たしかね……」
「来週の金曜日からですわ」
「そうそう、金曜日の夜が前夜祭で、日曜日の夜が花火大会よ」
「花火! 話だけ聞いたことがある! すっごく綺麗なのですよね」
「俺も見たい!」
「じゃあ、せっかくなのでみんなでお祭り行きましょうよ」
「やったー!!」
まあ、元々みんなで行くつもりだったから、よかった、よかった。あら? さっきまで楽しそうにしていたマリーちゃんが急に元気が無くなったような……エルシーは心配になり、声を掛ける。
「どうしたの? マリーちゃん」
「え! なんでもないですわ。さあ、冷めないうちにいただきましょう。本当にオルちゃんの料理は美味しいですわね」
「本当ですよね、お嬢様。さあさあ、エルシー殿もお酒が空いていますよ」
そう言って、お互い何杯目かの酒を飲む。
あれ? スティーブンさん、一杯しか飲まないとか言っていなかったっけ? あれ? いっぱい、だっけ? まあいいか。それよりも……エルシーは軽く酔っ払いながら、これからのことを話す。
「お祭り行くなら、資金を稼がないと明日は一日お休みして、明後日からまたダンジョンに入るわよ。ダンジョン草も取りに行かなきゃいけないし」
「じゃあ、お昼食べたらギルドに行こう」
「それであれば、わたくしは明日の夕方、こちらに来るのでよろしいかしら? 少し、用事を済ませたいのですが……」
「いいよ。クエストの種類は俺たちで選んでおくよ」
「おりゃ!」
トリステンは薄暗いダンジョンでオークの相手をしていた。
襲いかかってくる一匹をあっさりと返り討ちにする。残り二匹。その一匹がオルコットに襲いかかる。
「エアカッター」
オルコットの風の刃がオークの足を切りつけると、トリステンがすかさず、止めを刺す。
「マリーちゃん、気をつけて!」
「あ、はい。お姉さま!」
最後の一匹の攻撃を、元気のないマリーの代わりにスティーブンの剣が、錆びくれた剣を受け止める。その隙にマリーが豚頭の首を掻っ切る。
連携が取れ始めた新米パーティは、戦闘にも安定感が出てきた。
「大丈夫? なんだか元気がないみたいだけど」
戦闘時に指示を出すため、トリステンは全体を見るように心がける。しかし、自分自身の戦闘もある。アイテムの受け渡しや、危険を察知するために、周囲の監視と仲間の状態を見るのは運搬人であるエルシーの役割だ。
それは身体の傷だけでなく、毒、催眠、混乱、恐怖など、目に見えない部分も含む。
本人は気がついていない身体の不調を見抜き、リーダーに報告する。それによって健全な冒険者パーティを維持する重要な役目である。
「すみません。ちょっと気になることがありまして……」
「ダメよ。マリーちゃん。気になることがあったら、言って! 集中力を欠いた状態だと、マリーちゃんだけでなく、パーティみんなを危険に晒すことになるのよ。体調が悪い時は、我慢するよりも、思い切って休む勇気も必要なのだから」
一番にマリアーヌの異変に気づき、心配をするはずのスティーブンは沈黙を保っていた。つまりは、マリアーヌの心配ごとに気がついていると言う証拠。
「調子が悪いなら、今日はもう、戻ろう。ダンジョン草もそれなりに取れたし、無理する必要はないだろう」
トリステンもリーダーとしての判断を下す。
「いえ、大丈夫ですわ。これからは集中いたしますので……」
「そうは言ってもなあ……隠し事をしている仲間に背中を預けるのは、怖いんだよ」
冒険者パーティはある意味家族と呼ばれる。お互いが互いの命を握っている。蝶子とバードナは各々の神様の考えが違うから、よく衝突することはあるが、それ自体を隠さない。気に入らないことは気に入らないこととして、真っ直ぐに意見を言い合う。陰鬱とした感情を持ったまま、ダンジョンには入らない。
今のマリアーヌはどんな問題を抱えているのか、分からず、それを話してくれない。信頼されていない仲間に背中は預けられないと言っているのだ。
本音を隠す事が感情を基本の貴族社会で育ったマリアーヌは、言い出しづらい。
しかし、そんな真っ直ぐに自分の気持ちを言い合える仲に憧れて、冒険者の世界に飛び込んだのも事実だった。
「『なんだ、お前はそんなことで悩んでいたのか? 馬鹿だな。何のために僕たちがいるのだよ。さっさと話してくれれば、こんなにこじれなかったのによ』」
「それは、遠い国にいる首切り姫のお父様が病気になり、その知らせに悩んでいた時の勇者様のセリフですよね。お姉さまもあの本を読んでいらしたのね」
さすが『竜殺し団の冒険』の愛読者だ。エルシーの言葉にすぐ反応した。
実際に父親の病気の報せが届き、故郷に戻ると言い出せず、元気がなかった蝶子にかけた勇者の言葉だった。その後、パーティはダンジョン探索を一時中断した上、あらゆるコネと金を使って蝶子を故郷に最速で帰らせた。
「……そうですわね。実は……」
マリアーヌは話し始めた。
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