第19話 新米冒険者パーティはダンジョンに入る
オルコットは夜中に、ふと目を覚ました。
明日からのダンジョン探索に興奮したのか、喉が渇いていたのでキッチンへ、そっと移動する。
その途中、エルシーの部屋のドアから明かりが漏れていた。
こっそり夜中にお酒を飲んでいるのじゃないかしら? 今日は早く寝なさいと言っていた本人が、こんな遅くまで……これは一言、言わないと。そう思いながらオルコットはノブに手をかけたとき、内側からドアが開いた。
「あっ、どうしたの? オルちゃん。眠れないの?」
「いえ、ちょっと喉が渇いて……それよりもエル姉ちゃんこそ、なんでこんな遅くまで起きているの?」
エルシーは手を後ろに組んで、目をそらす。
お酒でも隠しているのかと、エルシーの後ろを見ようと首を伸ばすと、エルシーはそそくさと、部屋に戻ってしまった。
「あ、明日の準備をしていたのよ。わたしも、もう寝るわよ。おやすみ」
お酒の匂いはしなかった。そういえば夕飯の時も珍しく、今日はお酒を飲んでいなかった。エル姉ちゃんも久しぶりのダンジョンに緊張しているのだろうか? やはり、ダンジョンは危険なところなのだろう。でも大丈夫。バードナさんから、色々と教えてもらった。もう、村にいた頃のあたしとは違う。ちゃんと戦えて守れる魔法使いになったのだから。オルコットはそう、自分に言い聞かせると部屋へと戻った。
そしてオルコットの緊張とともに、夜は更けていった。
次の日の朝、街から北に少し行ったところ。ダンジョン入り口の広場で新米冒険者パーティ『平和の鐘』が全員集まっていた。
「リーダー、ダンジョンに入る前に、今回のクエストの確認をお願いします」
エルシーはトリステンに、ダンジョンに入る前のミーティングをお願いする。
「あ、ああ。今回のクエストは三つ。オーク三匹の討伐、ダンジョン草の採取、最後にサーシャから依頼の迷子犬の捜索になります」
「最悪、オーク討伐は諦めてね。可能であれば、という感じで考えておいて。今回初めてのダンジョン探索なので、安全第一で、みんな無理をしないようにね。何かあったらわたしかオルちゃんにすぐに言ってね。それとダンジョン特有の危険性については中に入ってから、随時話をするね」
エルシーの言葉にオルコット、マリアーヌはもちろん、リーダーであるトリステンと武器枠のスティーブンも頷く。
みんな素直でお姉ちゃんは嬉しい! ぜったい、無傷で帰ってこようね。エルシーはそんなみんなの態度を見て心に誓う。
「それと、これをみんなに」
コインが一枚入るくらいの小袋をみんなに一つ一つ渡す。
「中にはバードナからもらった護符が入っているわよ。お蝶ちゃん流に言うと、お守りよ」
その小袋には各々の名前が縫い付けられていた。
「これって……」
オルコットはエルシーの指にいっぱい傷バンドが貼られていたのに気がついた。
昨日、大好きなお酒も飲まずに、夜まで起きていたのはこれを作るため。
「あれ? エル姉ちゃん。オルの綴りを間違っているよ。ArcottじゃなくてAlcott。RじゃなくてLだよ」
みんなのお守りを見比べていたトリステンが、ドジだなーと笑いながら指摘をする。
「え! ごめん。オルちゃん。トリ(Tristen)君もマリー(Mariane)ちゃんもRだったから、間違えちゃった。直すから、今回はちょっと返して」
そう言って慌ててオルコットのお守りを取り戻そうとするエルシー。
「いい!!」
「え? そんなに怒らなくても」
「あたしはこれがいいの! お兄ちゃんやマリーと同じRがいいの!」
エル姉ちゃんがあたしたちのために、ひと針ひと針縫ってくれたこのお守りがいいの。ドジなエル姉ちゃんらしくて、このお守りがいいの。そこまでは恥ずかしくてオルコットは口に出しては言えなかった。
その代わりオルコットは大事そうにそのお守りを首にかけて、服の下にしまいこんだ。
「私にはRは入っていませんが……」
自分の分までお守りをもらって嬉しいながらも、オルコットとエルシーのやり取りを聞いて、少し寂しくなるスティーブン(Steven)だった。
「冒険者パーティ平和の鐘、四人ダンジョン入門許可致します。E級ですので、くれぐれも第一階層のみで帰ってきてくださいね。また、探索期間は一日です。ちなみにそちらの方は依頼者ですか?」
ダンジョンの門番はスティーブンを見て不思議そうに尋ねる。
「いえ、これはわたくしの武器ですわ」
自信満々に答えるマリアーヌを不思議そうな顔で見る門番は思った。冒険者には変わり者が多い。深く追求しない方がいいだろう。今日も何組もの冒険者がダンジョンに挑むはずだ。こんなところでいろいろ聞いても自分の仕事が増えるだけだ。
「分かりました。それではあなた方に神のご加護がありましょうに」
「なに、ウダウダしているんだ? さっさと入れよ。いつまで未来のC級様を待たせるんだよ」
トリステンたちがダンジョンに入ろうとした時、後ろから、どこかで聞いた声が投げ付けられる。
予想通り、タラスケたちだった。
「闇の狩人、六人がダンジョンに入るぜ。がはははは」
バードナのところで会った時は四人だったはずだ。新しく加わったふたりが、タラスケの自信の元だろう。
どんな猛者が入ったのかと、そのふたりを捜す。
そのふたりは人間ではなかった。大きなしっぽにウロコを持つ竜人……もどき。路地でトリステンたちから通行料をせしめようとして、トリステンのパンチとエルシーのおっぱいにKOされたバルとボルの兄弟。
「あー! あなたたち!」
「こ、こんにちは。あれから真面目に働こうと思って、兄ちゃんと一緒に冒険者になりました」
ヘコヘコと挨拶するボル。
「なんだ? お前らこの竜人族様達と知り合いか? だが、残念だったな。二人は我が闇の狩人のメンバーになったのだよ。引き抜きはご遠慮願おうか。わははははは。さあ、おふたりとも行きましょうか」
竜人もどきを竜人族と勘違いしたタラスケは意気揚々とダンジョンに入っていってしまった。
それを見送りながら、無事に帰って来られるといいね。とエルシーは心の中でお祈りする。
さて将来、C級予定の闇の狩人に続いて、平和の鐘のメンバーもダンジョンに入る。
入り口の厚く頑丈な扉は基本的に開けっ放しである。
そこを入ると薄暗く、ひんやりとした風が中から緩やかに吹き出していた。
少し行くと、石でできた階段があった。そこを降りると緩やかにくだりになっていた。天井からはところどころ水滴が落ちて、床を濡らしている。壁はぼんやりと光っていた。
「これって」
マリアーヌが珍しそうにその壁を触ろうとする。
「ダメよ。マリーちゃん。それはヒカリゴケなの。下手に触ると光らなくなるから、触っちゃダメよ。それに壁には罠があるかもしれないからね。ほら、そこに不自然な突起があるでしょう。あれは罠のスイッチよ。あと床が濡れているから、すべらないように、きゃっ」
言った本人が足を滑らせる。あるある。
ガゴン。
「エル姉ちゃん!」
思わず壁に手をついたエルシーは、自分が指摘した罠のスイッチを見事に押していた。
「これって……」
ゴトン。
通路を覆い尽くしそうな大きさの丸い岩が、天井から落ちてきた。
ここは奥へ下っている。
つまり……
岩はエルシーたちの前に落ちてきた。そして、通路の先へと転がっていった。
「ねっ、あぶないでしょう」
エルシーは脂汗を流しながら、みんなに説明する。
「うわぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!」
「誰だぁぁぁぁ! 岩落とした奴はぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!」
通路の先から、タラスケ達の叫び声がダンジョンに響き渡った。
ごめんなさい! わざとじゃないのです! 上手く逃げてね。
声を出すと怒られそうなので、心の中で謝るエルシーだった。
「そ、それより、迷子の犬を探しましょう」
切り替えの早さも一流の冒険者の素質よ。エルシーは自分に言い聞かせるように別の話題を切り出した。
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