第16話 新米冒険者パーティーはおめでとうの歌をもらう

 さて、仲間が増えた冒険者パーティはダンジョンに挑むためにはランクを上げなければならなかった。

 そのためには積極的にクエストをこなしていかなければならない。

 今日もせっせと冒険者ギルドに行く平和の鐘のメンバーだった。

「マーヤちゃん、いい依頼ない~?」

「ああ。ちょうど良かった。トリステン君、この方がパーティ登録の申請があったのだけど、受理していいのかな?」

 エルシーの挨拶を無視したやり手の受付嬢マーヤは、いつものようにメガネをきらりと光らせてトリステンに話しかける。

 そしてそのトリステンの言葉を待つ前に話しかける一人の少女がいた。

「あら、リーダー。ごきげんよう」

 それはちょうど冒険者登録するために来ていたマリアーヌとスティーブンだった。

「あ、マリーにスティーブンさん、こんにちは。マーヤさん、申請受理してください。俺たちの仲間です」

「ほら、わたくしはそう言いましたでしょう。さあ、お願いしますわ」

 華麗にうふふと笑っているその姿だけ見ていると、上品な貴族の女の子としか見えない。マーヤもまさか、付き人を武器に使ったり、スカートの中に武器を隠し持っていたりとは思っていないだろう。

「はい。では戦士職で平和の鐘の所属でよろしいですね」

 マーヤは淡々と事務的にマリアーヌの登録を済ませる。その姿を見て、トリステンとオルコットはこれがプロか~となぜか感心する。

「さて、平和の鐘のメンバーは全員いらっしゃいますか?」

 なぜかマーヤは改めて、平和の鐘のメンバーを確認する。それを見てピンときたエルシーだけが、ニヤニヤと笑う。

「はい、みんないますけど?」

 トリステンは戸惑いながらも素直に答える。

「ランクアップ、おめでと~♪ ランクアップ、ランクアップ、おめでと~♪」

 急にマーヤが歌い始めると、別のギルド職員がそれに続く。

「頑張ったね~♪ おめでと~♪」

「これからも頑張ってね~♪」

「「「ランクアップ~~~お・め・で・と~♪」」」

 トリステンとオルコットだけでなく、マリアーヌとスティーブンも面食らって、その歌を聞いていた。

「な、何なのですか? この歌は?」

 トリステンは当然の質問をする。いつも仕事に真面目に取り組んでいるマーヤが急に歌い始めたのだ。オルコットも同じ疑問を持っていた。

「何って、エルシーから聞いていなかったのですか? パーティのランクアップの歌ですよ。平和の鐘はF級からE級にランクアップしたお祝いの歌ですよ」

 エルシーはマーヤがメンバーの全員いるか確認した時に予想はしていた。これまでも何度もランクアップし、ほかのパーティのランクアップも見ていたため、ギルド名物が始まるのを予想していた。

「はぁ? なんですか? その歌は!? ふざけているのですか?」

 トリステンは訳がわからず、少しキレ気味でマーヤに突っかかる。

「お兄ちゃん! ちょっとまって! ランクアップってあたしたち、ランクアップしたの?」

「ええ、ベルデルフォン公から依頼が出されていたマリアーヌ様の捜索をクリアしたのは、あなたたちだと報告が入っています。その功績を加味してランクアップとなりました。平和の鐘はダンジョンに入る資格を得ました。おめでとうございます」

 マーヤは当たり前のように淡々と説明する。

「マリーの捜索依頼?」

 トリステンもオルコットも首を傾げる。

「出ていたみたいですわね、わたくしの捜索依頼。あなたたちと初めてお会いした日ですわ。お父様が回復してから、あなたたちの話をさせていただいたので、こちらにお話が行くのが遅くなったようですわ」

「あー! そういえば、出ていたわ。B級以上の依頼じゃなかったかしら?」

 ずっと考え込んでしたエルシーが急に声を上げた。

「ええ、そうですよ。本来ならば受注条件が合いませんが、当の本人から完了確認も取れましたので、ギルドとしては受理しました。ですのでランクアップには十分な条件を満たしています」

「じゃあ、本当にランクアップしたの? やったよ! お兄ちゃん」

「ああ、オル! これで憧れのダンジョンに挑めるんだ!」

「よかったね。ふたりとも」

 エルシーはいつものように二人に抱きつく!

「良かったですわね。皆さん」

「ほら、マリーちゃんもいっしょ!」

 エルシーは三人を抱きしめるとバランスを崩して倒れる。

「あーごめん、ごめん。みんな大丈夫?」

「エル姉ちゃんこそ、下になって大丈夫?」

 三人は下敷きになっていたエルシーを引き上げたのだった。


 平和の鐘のメンバー四人プラス武器一名は武器屋へ向かっていた。

 初ダンジョンに向けて武器を新しく買いに行く予定なのだ。トリステンに合ったセミオーダーメイド武器。持ち主に合わせて既製品の武器の大きさや握りの部分を調整してくれる。

 お祝いにエルシーが武器をプレゼントすると言い出したのだ。

「こっちが近道なのよね」

 そう言って人ふたりがようやくすれ違える小さな路地に入ったエルシーが、少し歩くと立ち止まってしまった。

「どうしたの? エル姉ちゃん」

 そう言ってトリステンはエルシーの前方を見ると一人の男が立っていた。

 男と言ってもまだ若く、トリステンよりも少し年上のようだった。身長はエルシーくらいの高さに防具をつけた男。しかし、それ以上に目を引くのが、その男の後ろにある大きな尻尾。トカゲのような大きなしっぽ。そして半袖から見える腕と首にはウロコが生えていた。

「竜人族!? なんでこんなところに?」

「俺たちのことを知っているなら話が早い。この道を通りたければ、通行料を払ってもらおうか。一人あたり十万マルだ」

 そう言って手を差し出しながら、近づいてくる。

「戻りましょう」

 そう言って後ろを向くと、そこにも同じように尻尾とウロコを持った男がいた。

「こっちを通るなら一人、二十万マルだぜ」

「ふざけるな! ここを通せ!」

 トリステンは三人を背中に隠すように剣を抜く。

「ダメよ、トリ君。彼らのウロコは硬くて剣が通らないわよ」

「そ、そうだぞ。このウロコは硬いんだからな。それになんだったら今なら、一人あたり五万マルでもいいぞ」

 男は自分のウロコを叩いて、アピールしながら値引きをしてくる。

「うるさい! つまりはウロコがないところだったら大丈夫なのだろう!」

「お、おまえ、殺しをしたら、捕まるぞ! お、落ち着け。一人、一万マルでもいいから」

「トリ君、剣をしまって」

 そう言いながら、さらに近づいて来る男。

 仕方なく、トリステンは剣をしまう。

「きゃー! 離して!」

「バル兄ちゃん! この子、可愛いよ」

 後ろの男がオルコットの顔をよく見ようと、腕を握っていた。

「オルを離せ!」

「ダメー!」

 エルシーが制止の声を上げるが、トリステンは後ろの男に殴りかかった。

 とっさにガードする男の腕にトリステンの拳がヒットして、男は吹き飛ぶ!

「トリ君! 手は大丈夫!?」

 剣すら防ぐ竜人族のウロコを殴った拳が、ただで済むわけがない……はずだった。

 しかし、多少赤くなっているが、トリステンの拳に傷はなかった。

「お、お前たち、殴るなんてひどいじゃないか。暴力反対!」

「お前たち、ボルを殴るなんてひどいじゃないか!」

「もしかしてあなたたち……竜人もどき?」

 エルシーは殴られて、へたり込む男に質問を投げかける。

 竜人もどきとは、硬いウロコ、太く器用なしっぽ、二メートルほどなら飛べる翼、強靭な肉体に魔力も強い人型生物最強種である竜人族の偽物である。

 竜人族を真似して外敵から身を守る竜人もどき。

 偽物なのでウロコも固くない、空も飛べない。力も魔力も人よりも弱い。唯一似ているのは尻尾を器用に使えるくらいだ。

「な、なに言ってやがる。俺たちは誇り高い竜人族だぞ! ホントだぞ」

「そうだ、バル兄ちゃんの言うとおりだぞ!」

 竜人もどきの二人はオロオロしながら答える。

「ねえ、あなたち、こんなことをしていると、そのうち本当に大怪我するわよ。今日のことは警察に言わないから、真面目に働きなさいよ。それと女の子の腕を急に握ったりしちゃダメよ」

 エルシーはそう言って、倒れている弟の竜人もどきに優しく手を差し伸べる。

 少し躊躇したあとその手をとって立ち上がろうとするボルと呼ばれた男。

「あ!」

 エルシーは足を滑らせて、竜人もどきボルに覆いかぶさる。エルシーの大きな胸を顔に押し付けるように。

「あ、ごめんなさい。足を滑らしちゃって」

 そう言って慌てて起き上がり、ボルも立ち上がらせる。

「ボル、大丈夫か? お前、弟に何をする」

「兄ちゃん、もういいから行こう。ごめんよ。そして……ありがとう」

 顔が真っ赤になった弟に引っ張られて竜人もどきは、エルシーたちが来た道に走って行ってしまった。

「ごめんはわかるけど、ありがとうってなんだったのだろ?」

 首をかしげるエルシーだったが、その気持ちを十分に理解しているのはトリステンだけであった。


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