第2話 青の世界―春樹

 全人類が待ちわびた日が訪れようとしていた。


 五年前、歴史的事象が発生した。

 ポールシフト――地球の自転極の位置が、大きくずれた。


 当初、被害としては地殻変動、異常気象など天変地異に関わる災害が発生すると考えられていたが、現実には想像もつかない事態が起きた。


 ――時空の分離――

 次元の錯綜が発生して二つの次元、昼の世界、夜の世界に分かれてしまったのだ。

 太陽が照らす昼の状態を継続する「青の世界」

 月あかりがともる夜の状態を継続する「黒の世界」

 

 人々もまた体質――共振する次元波動に合わせて、世界を分かれることとなった。

 血液型がA、B、Oと生まれながらに異なるのと同様だ。

 離ればなれになった家族もいる、愛する人の手を取ることもできない恋人同士もいる。

 

 春樹の父親は、素粒子物理研究所で「余剰次元波動障害」を研究している。

 研究所では、分かれた二つの世界が五年周期で再び一つに重なる時期がくることを突き止めていた。

 

「うちはみんな青体質でよかったわね。夜が来なくても、家族が一緒にいられるだけで幸せよ」

 春樹の母親が、皿を洗いながら、ほほ笑んだ。


「そうだな、こうなってみると、うちは運のいいほうだ。友人の結月ゆづきさんのところは、奥さんと娘さんが黒の世界に行ってしまったからな」


 父親は新聞を広げながら、ちらりと春樹に目をやった。


「お前、あそこの娘さんと仲良かったよな、今どうしてるだろうな?」

「え? 別に秋菜のことなんて……気にしてないよ。からかうの、やめてくれる?」

「そうか? こんなことがなければ、将来結婚するんじゃないかと思っていたけどな」


 ククッと父親は笑った。

「お前は特異体質だからな、どちらの世界でも行けるよ。お前が望めば、黒の世界に移ることもできる」

「お父さん! 春樹をそそのかすの、やめてちょうだい。離ればなれなんて、私はいやよ」

 母親は父親の無責任な発言に、注意をうながした。


「そんなことより、世界を元に戻すことはもうできないの?」

「宇宙的自然現象を、人類の手で修復するのは困難だな。黒の世界で何か発見でもあればいいが……」

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