2022/12/15 第15話
きれいな女の子ふたりと恋愛がらみで揉めていたらしい――という話ではあったものの、部長の南井くんはどちらかと言えば地味な印象の子だった。黒髪を短く整え、丸眼鏡をかけた真面目そうな好青年だ。チャラ男系イケメンを想像していたおれは、肩透かしを食らった気分だった。
「先生のような有名人にお目にかかれて光栄です。あの、そちらの方は」
「おっと失礼。私の助手で柳というものです」
というだけでおれの紹介は済んでしまったわけだが、南井くんはなぜかうんうんと嬉しそうにおれの顔を見てうなずいている。
「あの、何か……」
「ああ、すみません。海外のサメーニ・ヨークワレルという俳優によく似ておられるなと思ったものですから」
おれなんかに似ている俳優がいるのか? と自分でも悲しくなるようなことを考えた直後、ほかの部員が「部長~! それ、普通は絶対知らない人ですよ!」と南井くんをつついた。
「めちゃくちゃマイナーな人じゃないですか! すみません、部長Z級クソ映画を漁るのが大好きなんですよ」
「は、はぁ……」
「ヨークワレルはチープナ・サメスキー監督の作品の常連ですね。大体冒頭か、遅くとも中盤までには死ぬので有名な役者ですが……」
南井くんは嬉しそうにZ級映画の俳優について語り始めたが、喜んでいいのかなんなのかよくわからない。
しかし南井くん、どうも女子学生ふたりと三角関係になって云々――という人物とは程遠い感じがする。チープなZ級映画を観ては同志(いるかわからないが)とキャッキャしてる方がよっぽど性にあっていそうだ。
「ちょっと部長! 雨息斎先生たちはクソ映画談義をしにいらしたんじゃないんすよ! っすよね、先生!」
さっき先生を見て一番盛り上がっていた男子学生が大声でつっこんだ。
「二年の
と言いながらカバンをごそごそやってノートを取り出す。先生も慣れたもので「これ授業のっぽいけど大丈夫?」などと言いながらサインしている。
「すげぇ……本物のサインもらっちゃった……俺、先生の鑑定動画とか好きでめっちゃ見てて、チャンネル登録もしてるんすよ」
「おっ、本当? リスナーに会えるなんて嬉しいな」
などと言いながら、先生は早くも会話の主導権を握り出した。
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