第10話

 倉庫の地下を流れる下水道で、ぴちゃりぴちゃりと雫が垂れる暗闇を、ネオは小型ライトを片手に歩いていた。

「車両がおとりだということも知らずに、今頃慌てているだろうな……」


「……それはどうでしょうね」

 ネオが声のするほうにライトを向けると、そこに銃を構えたリコが立っていた。


「リコ」

「あなたにはすべての戦術を教わったわ。脱出の際の陽動術もね」

「そうだったな……それでどうする? お前を育てたのはこの俺だ。お前の能力は知り尽くしている、勝ち目はないぞ」

「それはやってみないとわからないわ。以前の私とは違うから」

「ふん、そんな銃が通用しないのはわかっているだろう? お互いサイボーグ同士だからな」


 リコはカランと銃を投げ捨てた。

「わかっているわよ。素手でやり合うしかないようね」

 リコは腰を落とすと半身の構えをした。

「その構えは実戦向きではないと教えたはずだがな」


 ネオは両腕を前に向け低くかがみ込むとリコに突進した。正拳突きを繰り出すとリコはそれを右手で弾き、機械化された左腕を打ち出す。ネオはその腕を掴むと、ぐいっとよじった。メキメキという音とともに腕がちぎれる。

 間髪入れずにネオが上段蹴りを入れると、リコは宙に浮きそのまま路面に叩きつけられた。倒れたリコの上に、ネオは馬乗りになると両腕を押さえた。


「完全サイボーグの俺に勝てると思ったのか?」

「あなたの弱点は自分の力を過信していること。一人で世界を思い通りに動かせると思っている。そこに隙が生まれる」

「この状況で吐く言葉とは思えないな。長い付き合いだったが……ここでお別れだ」

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