第22話「アメリカ震撼」
※ 同時刻
アメリカ
「室長!! 室長!!」
アンドリュー中佐が息を切らせて走りこんできた。
どこかデジャブを感じさせる光景に、ちょうど葉巻を準備していたダンジョン攻略室室長のケラーネ准将は小さく息をつく。
「アンドリュー中佐……。何度も言わせないでくれ、……せめてノックをしたまえ。ノックを」
「ノ、ノノノ、ノック
「
部下に軽んじられたように感じたのか、額に青筋を浮かべたケラーネは叱責しようと睨みつける。
「あ、その……も、も」
その怒気を敏感に感じ取ったアンドリューは冷や汗をかく。
いくら慌てていたとはいえ、アメリカ陸軍にその人ありと言われたたたき上げの軍人であるケラーネを怒らせてしまったことに気付いた。
背筋を正して、入室要領からやり直そうと踵を返す、
「も、申し訳ありません! で、出直します!」
バターーーーーン!!
回れ右して、ドアを勢いよく絞めて、
「そうだ───軍人で将校たるもの、いついかなる時も冷静沈…………って、『竜王』が撃破ぁぁぁあああああ?!」
がっしゃーーーーーーーーーん!!
席を蹴立て立ち上がると、
「待てゴラぁ、アンドリューーーーー!」
冷静さを失った様子でアンドリューを追いかける。……あのバカ、律儀にノックからやり直すつもりらしい───。
コンコン、
「アンドリュー中佐、入ります!」
「──ノックしとる場合かあああああああああああああああああああああああ!!」
「ひょわぁっぁあ?!」
180度いうとること変わっとるやんけ。
「呑気にノックしてねぇで、このボケ!! さっさと報告しろぉぉお!」
ノックからの入室要領からやり直したアンドリュー中佐の胸倉をつかんで、机の上の資料に押し付ける。
「いだだだだ?! し、室長?!」
「室長も『いだだだ?!』も、あるか馬鹿垂れ!!」
ぐりぐりと資料の山に沈むアンドリュー中佐に容赦なし。
そこには様々な写真資料とともに、コードネーム『竜王』が撃破された可能性が大量の状況証拠とともに記載されていた。
「これは、ど、ど、どういうことだ?!
グリグリグリ。
痛い痛い痛い。
机に押し付けられたアンドリュー中佐が苦しそうに目線だけでケラーネに向く、
「
「あああん?! はっきり喋れん馬鹿垂れが!……って、あっ。すまん」
ようやく力を入れ過ぎていたことに気付いたケラーネはアンドリューを開放する。
「ゲホゲホ」
「で───? どういうことだ? 一体どこの誰が、『竜王』を? まさか、EUの連中ではなかろうな?」
ダンジョン開発に
本音では一国で開発した方が国益につながるのだが、ダンジョン深層域はそんな国家の思惑など及びもしない魔境なのだ。
だが、ロシア、中国等とは違い、各国の連合であるEUの場合は、ときに内部の調整がうまくいかずに足並み外れた行動をすることがある。
今回もその類で、
しかし───。
「い、いえ。その…………なんといいますか、どこの国でもないと思われます」
「ふんッ、そういうことか───撃破そのものが、誤情報なのだろう?」
前回の『鬼神』のときもそうだった。
おそらく、器材の故障だろう。……ダンジョン外で信号が発見された前回のケース同様に、今回も機械に由来するものに違いないと───。
「まさか! その……撃破は間違いありませんッ! 我々は、『竜王』の残骸の回収に成功しております」
「な、なんだと?!」
慌てて資料を読み返すケラーネ准将。
そこには確かに、回収し、分析班に回された『竜王』が描かれていた。
ということは───……。
「では、あれは!! あれは回収できたのか?!…………Sランク級のモンスター……その魔石が!! 深層の魔石がぁあ!!」
「……い、いえ。その………か、回収はできませんでした」
な、なにぃぃぃいい?!
「ど、どういうことだ───!! 『竜王』を回収したのなら、あれがあるはず!!」
「それが、その…………」
いや、まて。
アンドリューは残骸といったな?
もしや……。
「回収できたものは、『竜王』の一部ということか?」
「は、はい。じつは、深層の監視任務についていた部隊がたまたま回収に成功できたのです。……その際に器材の大半を破損しましたが───まずは、こちらをご覧ください」
紙資料のほかに、USBメモリを携えていたアンドリューはケラーネにそれを差し出す。
USB自体は何の変哲もないものだが、やや型が古い。その代わりに、重厚に作られており、表面には「トップシークレット」の赤文字がデカデカと。
おそらく、極秘情報を扱うための専用のUSBなのだろう。
ケラーネはそれを受け取ると、自分専用のパソコンに繋ぐ。
少々読み込みに時間がかかるも、なんとかデータを解凍……。
そこには映像資料が入っており、不鮮明ながらダンジョン深層の様子が映し出されていた。
画面のブレからすると、兵士のヘルメットについている同期カメラなのだろうと推測───そして、そこに映されていた映像をみて一言……。
「……な、なんだ、この生物は──────」
そこに映し出されていた光景。
それは、ダンジョンを縦横無尽に駆けまわる小さな影と、ダンジョンを支配する巨大なモンスター……『竜王』の姿だった。
顎から放たれる高エネルギーの光線!
その隙を補うように放たれる強烈な爪と尾による斬撃!
竜王のド派手な数々の攻撃でダンジョンが切り裂かれていく
それはまるで地獄のような光景だ……。
「こ、これが、竜王の戦い……?! しかし、あれは一体……」
その戦いを、監視している兵士も命がけだ。
それでも職業軍人の意地なのだろうか、決して現場を離れようとはしない。だが、そんな彼をもってしても、目で追いきれないのか、視線が何度も上下に振れる。
おかげで、カメラがブレまくり、画面酔いしそうなほどだ。
…………だが、映っている!
───ナニかが映っている!
数メートルの巨体を誇るドラゴン───『竜王』にまとわりつき、食らいつき、圧倒していく
「……これは、ロ、ロシアでも、中国でも───EUでもない。まさか……魔物同士の抗争、なの……か?!」
ダンジョンの魔物は互いに激しく争うことが確認されている。
あの環境の中でも生存競争が繰り広げられているのだ。主に捕食のため、あるいは縄張り争いのため。
この『竜王』もまた、捕食と縄張りを主張する深層最強の生物だった。
かつては、その巨体と深層への適応から、相当に巨大な魔石を保持していると想定し、アメリカは軍の最精鋭をもって撃破を試みたことがある。
……しかし、過去形でいうように、あくまで撃破を試みただけだ。
実際に戦闘になったあとでいえることは、……竜王の撃破など不可能ということが分かったに過ぎない。
いや、それどころか───。
竜王は、ありとあらゆる武器を弾き、または躱し、───時には激しく反撃。
交戦した部隊はほぼ全滅……しかし、それに留まらず撤退した部隊を執念深く追撃し、上層にまで追ってきたことがある。
そして、ダンジョンの出口付近まで部隊を追い詰め──────……一瞬ではあるが、ダンジョン外にまで追撃してきたことがあるのだ。
その時は、さすがにダンジョン外の環境を知らずに来たためか、慌ててダンジョンの中に戻っていったのだが……。
モンスターがダンジョン外にでることが不可能ではないと知らしめる、世界初の事例となった。
なってしまった……。
以来───……『竜王』に手出しすることは厳禁とされ、各国にもこの情報は裏で共有されることとなった。
……下手に手を出したが最後。
奴の恨みを買って、ダンジョン外に出られれば恐ろしい事態となる。
なにせ、あらゆる攻撃に対応して見せるモンスターだ。
……さすがに地上の米軍が総力をあげれば倒せると思うが、それまでに甚大な被害を及ぼすことが予想された。
ゆえに、『王』。孤高の竜族。
最強種、竜族の王として───『竜王』の
しかし、その竜王が……あの『竜王』が──────……圧倒されている?!
監視を続ける兵は、粘り強く存在を隠しながら撮影を続けている。驚嘆に値する精神力だ!
『アェェェエエエエエエエエン…………!』
そして、ついに
映像の中の『竜王』が断末魔の悲鳴を上げる。
そう。ついに……ついに、あの竜王が────『へっへっへっへ♪』……竜王が撃破されたのだ!!
…………。
……。
って、あれ?
今、なんか──────。
「「い、犬??」」
ダンジョン中に響く断末魔の悲鳴と、一瞬だけ兵士のカメラに視線を寄越した……
え、ええ~っとー。
「い、今の、い、いいい、犬っぽかった?」
「犬……っぽいです、ね……」
顔を見合わせるケラーネとアンドリュー。
犬っぽいというか……。
人懐っこい「中型犬」が、隠れている兵士をみつけてカメラ目線。
『へっへっへっへ!』
つ、つぶらな瞳がじつにキュート!
……っていうか、どうみても───。
い、
「「───犬ぅぅぅぅうううううううううううううう?!」」
ケラーネとアンドリューの映像越しの絶叫を尻目に、
そのまま硬直する兵士の顔を一舐めして、尻尾を振りながら『竜王』の首あたりを咥えてズールズルと………………。
魔石があると思われる、頭部や重要器官の詰まった部位をいずこか持ち去っていってしまった。
……もちろん、記録映像なので、今さら叫んだところで首の行方は分からない。
「ちょ、」
わなわなと震えるケラーネ。
「ちょ??」
いぶかしむアンドリューが顔を覗き込むと、
「調査だぁぁぁあああああ!! 調査だ調査だ!! し、し、至急、『
「は、はいいいい!!」
ケラーネの剣幕に身を縮めるアンドリューであったが、まだ報告が終わったわけではない。
「そ、そそそそそ、そのぉぉ、室長、こちらもご覧ください!」
「なんだぁッ! まだあるのか──────ってこれは?!」
そう。
「ハッ! 竜王に取り付けておりました発信機の位置情報であります!」
『竜王』の首は行方知れずではあったが、
竜王には、あの『鬼神』の時と同様に発信機の信号が捉えられたのだ。
もちろん、ダンジョン用の発信機であるがために、機械故障も十分に考えられるのだが───…………発信機の信号途絶地点は、なんと──────。
「に、日本……だとぉぉ?」
またしても、日本で信号を確認したという……。
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