第27話「ネームドキラー」
「いぃぃぃいッッ、やったーーーーーーーーーーー!!」
残暑のうだる中、高橋はパンツ一丁でピョンピョン飛び跳ねていた。
その手にはスマホが握りしめられており、前の会社で支給された口座が表示されている。
そこには、おおよそ1000ドルの振り込みがあった!
「うぉぉし、10万円……ーーーーーーーーーゲットだぜぇ!」
よーし、これでユンボのリース代分くらいは稼げたぞ。
いや、むしろちょっと黒字だな。
「いやー。ドラゴンとかデカすぎて参ったからなー。10万の働きには見合わないと思ってたけど、やっぱり機械力使うと凄いわー」
あれを手作業で解体となるなら骨だったろうが、オーガの鉈との組み合わせが見事マッチング。
おかげで予想よりも短時間で解体でき、庭に隠蔽することができた。
「よーし、こうなったら、ユンボ代を稼ぐためにガンガンモンスターを狩ってきてくれよポンタ!……あ、珍しい奴だぞ? そして、できれば、小さいのがいいかなー」
わかるかぁ、ポンタ?
『わふ?……わふわふッ♪』
んー……。本当にわかってんのか?
ポンタは尻尾ブンブンで上機嫌そうだが、言葉が通じたどうかは不明。
それでも、今まででの傾向を見るになんとな~く伝わっているような気もするんだけど───。
「よし! そうと決まったら、行けッポンタ! ポンタGO! 今宵その犬小屋がお前のものだ───」
ぽ~ん♪
「ん? メール??」
超上機嫌でポンタの出撃を命じたところで、メールの受信音。
せっかくのノリが途中で邪魔されたみたいで気勢が削がれた気分だ。
……まぁ、いいや。
「───うわ! 全文、英語かよ!!」
しかし予想外にも、高橋家のプレス機械を通じて送られてきたのは英文の長文メールであった。
「なんだろ? UNなんとか───ってかいてるから、多分、新種鑑定の事とかなんだろうけど……」
げ。
なんか嫌な予感しかしないなー。
「さすがに短時間にポンポンと、新種登録したのはまずかったかな」
最近ではめっきり新種登録がないとネットの情報にもあったくらいに、新種登録が珍しいのだろう
翻訳アプリにかけて読むこともできそうだけど……。
「……なんだこりゃ? 全然意味が分からん───。恋文?? いや、まさかな」
おそらく相当に専門用語を使っているのだろう。
しかも、書き手の感情が先走っているのか、まっっっっったく意味不明。
なんで、『ハンターアイラブユー』とか出てんのよ?
「………………いたずらメールか? いや、でも───これ返信メールだよな?」
いつもの新種登録の依頼先だ。
つまりは国連のダンジョン研究室ってことになる。
「んーーーーーー……わからん!! わからんもんは放置だ、放置!……なんかあれば向こうからまた連絡してくるでしょ」
別に高橋は悪いことをしているわけじゃないしね。
……ダンジョンに無断で入った云々は別にして、そもそも入ったのポンタだし、
第一、あれは日本の法律だし───ごにょごにょ。
「電話番号書かれてもなー……俺、英語喋れねーぞ?」
デスイズアペン レベルで止まってます。
「……うむ。そんなことより、今日も求人情報を漁りつつ、ポンタのサポートだ! よし、行け、ポンタ!! 今日も今日とて新種モンスターを狩り取ってくるのだぁぁぁあ!」
『わふわふ! わふ~ん♪』
ちょ?!
「違う違う! 遊びじゃない! あそ───ぶわ、くっさ!!」
ハイテンションの高橋を見て、遊んでくれると思ったのか、ポンタがじゃれつき、高橋の顔をベロンベロンに嘗め回していく。
なんつーか、こう───……ポンタ君って高橋が見てる前では犬小屋入ってくんないよね?!
え、もしかして、犬小屋ダンジョンより、高橋と遊ぶ方が好きみたいな?
「……ええ子やなー畜生! モッフモフやぞこらぁ!」
可愛いねー可愛いねー!
ポンタ可愛い!!
思いのほか、ポンタに愛されていることに気を良くした高橋は、一日中ポンタをモフり続けるのであった───。
※ その頃…… ※
アメリカ国防総省───ダンジョン攻略室にて、
「こ、これは───……」
部下を総動員して、映像の犬っぽい何かと、発信機の消滅地点を総当たりしていたアンドリュー中佐は、驚愕に目を見開いていた。
部下は今も必死にPCに向かいつつ、画像解析を行っており、不鮮明な画像を幾重にもスーパーコンピューター処理により小さな情報を見逃すまいとしている。
一方で、発信機が日本の東京で確認されたことを踏まえて、現地に人を送り必死で発信機の情報を捜索させていた。
もっとも、とっくに信号が途絶えていたうえ、本来ダンジョン内での位置情報を捉える発信機は、大まかな位置しか判明していなかった。
東京と言っても地図では小さくとも、実際には広大にすぎる土地だ──。
それを現地エージェントを総動員しても位置の特定にはまだまだ時間がかかると予想されている。
そして、アンドリュー中佐はといえば、今はスマホ片手に休憩中であったのだが───……。
わなわなと震える体のまま、弾かれるようにして飛び起きると、
「室長!! 室長!!」
バターン!!
いつも注意されているのに、全く忘れたかのように室長室のドアを蹴り開ける。
「……アンドリュー」
「ッ! す、すみませんでしたー!」
不機嫌そうなケラーネの顔に気付いていつのやらかしに築いた中佐は敬礼だけをして入室からやり直そうとするが、
面倒くさそうな顔をしたケラーネはそれをやめさせる。
「もういい。急ぎなのだろう? さっさと報告したまえ───」
「はっ! 失礼します! じ、じつは先ほど、休憩がてらスマホで遊んでいたのですが、」
ごんっ!!
「ばっかもん!! 施設内で私有のスマホを私用で使うなとあれほど───」
「も、もももも──申し訳もー……あ、いえ、訂正させてください。スマホは私有のものではなくて、軍より貸し出された公用の、」
ごっきん!!
「いっだぁ?!」
「もっと悪いわアホーーーーーー! ちょっと、貸せぃ!」
「あ、ちょ───! せっかくレアキャラ引いた───ああああああああああ!」
ひったくられたスマホのアプリを次々に消していくケラーネ准将の暴挙に素っ頓狂な声をあげるアンドリュー中佐。
「ひ、ひどい!! アプリだけじゃなくアカウントごと消すなんて───お、お、お、横暴だー!」
「じゃかましいわ!! 何を勝手に公用のスマホでゲームやっとんねん!……しかも───総プレイ時間224時間って、お前──遊びすぎやろ!」
アプリだけで、何十個登録しとんねん!
しかも、
「前に軍内の情報保障会議で言ったよな?! 公私問わず、出どころ不明なアプリをダウンロードするなって───あ、しかも、お前ぇぇえ!
「いや、だって、無料だし、通信速度が速いんですもん」
だって、
ですもん、じゃないわ!! バーーーーカ!!
「あぁ、もう! お前、
「だーかーらぁ! バレない様に、ちゃんと、中国やロシアの紐づけのないアプリ使ってますからぁ! ほとんど日本とアメリカ製ですからぁ! そーゆーのは調べてますからぁ! って、あーーーーーー、全部消したぁぁあ!」
ばっかもーーーーーーーん!!
「調べてから登録して、しかも、安全なアプリをダウンロードって、お前確信犯やないかーーい! っていうか、これ見せに来たのぉ?! 俺も暇じゃないんだけどぉ!」
「違いますよ───ああああ、もう!! 限定アイテムとか課金装備がぁぁ……! パワハラで訴えてやる!」
「じゃかましいわ!! やれるもんならやってみぃ! お前は、職務専念義務違反じゃー!」
はーはーはー……!
ふーふーふー……!
「……ってそうじゃないですよ! これを見てくださいよ!!」
「あのなぁ──────なにがそうじゃないですよだ! 誤魔化してんじゃ…………って、」
え?
…………。
……。
「……は?」
な、
な、な、な、な……。
「……なんじゃこりゃーーーーーーーーーーーーーーーーーー?!」
なんじゃこりゃーー!
なんじゃこりゃーー!!
──バッターーーーーン!
仰天したケラーネ准将は椅子ごとぶっ倒れて、「あっぶぅ?!」と、素早く受け身を取りつつ回転しながら起き上がるという離れ業を披露し、
その無駄に身体能力の高さを見せつつ、アンドリュー中佐のスマホを握りつぶさんばかり。
「ちょ! 画面つぶさないでくださいよ?!」
「ばっか! お前、バッカか?! それどころじゃないだろうが──────な、な、な、」
すぅぅ……。
「なんで───『鬼神』や『竜王』が新種登録されとんねーーーーーーーーーーーーーーーーーん!」
ケラーネ准将が仰天している画面には、国連のダンジョン研究室が公式にアップしている『モンスターWiki』のページなわけでして……。
名称こそちがえど、
そこには、アメリカをはじめ、中国、ロシア、EU、その他主要各国だけで、
裏で情報共有されていただけの、超超超危険生物───通称:ネームドモンスター……がなぜか、解析&分析の終わった状態で、全世界に向けて公開されていたのだ。
しかも割とつい最近───。
「も、盲点でした……。ま、まさか、ネームドを堂々とハンティング後に新種登録するような奴がいるなんて」
「馬鹿もんが!! なぜこれを見落としていた───」
国連とは名がつくものの、アメリカの国防省の中で共有されている情報に比べてはるかに制度の低いものしかダンジョン研究室にはなかったはずだ。
いくらアメリカ国内の研究所とはいえ、全世界に共有されては困るものもあるわけで、アメリカ国防省内では、国連のダンジョン研究室は一等低い扱いであったのだ。
ゆえに、見落とし───……。
まさか、専門の攻略部隊をもっていない国連の、しかも、いち研究室に先を越されるなど誰が思いつくものか!!
……だがこれでハッキリしたことが一つある。
「───しかし、そうか……」
「えぇ……。驚きました」
新種登録されていたということは、つまりネームドを持ち出し、解体した人物がいるということ。
やはり、あの『犬っぽい何か』はモンスターなどではなく……。
「飼い犬───軍用犬……いや、もはや兵器ということか」
「えぇ、しかも恐ろしく高度に訓練されています。映像解析待ちですが、
「「…………」」
だが、一体どこに誰があんなものを作った??
世界最強のアメリカ軍でさえ、
「いや、まて───! 我が軍でもなく、ましてや他国でもないなら……。もしかして……」
「は!…………おそらく、ご想像の通りかと───」
ケラーネ准将の気づいた点に、アンドリュー中佐も気づいていた。
一応の確認ではあるが、
国連のダンジョン研究室はあくまでも一研究室。
もちろん、既存の戦力など持ち合わせていない───……。
彼等には、自分たちでモンスターを狩ることなどできないのだから、
それはつまり、誰かが外部から持ち込んだということ。
軍にも持ち込まず、国連の一研究室に持ち込むということは───。
「こ、このネームドを持ち込んだのはもしや……」
ごくり。
「は、はい……。詳細は調べてみないことにはわかりませんが……」
「「み、」」
…………民間人??
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