第20話「ダンジョン適正値測定」

「あー……くそ、死ぬかと思った。そして、元気でよかったなーMY息子サン


 ズボンの中をしっかり確かめ、上からポンポンと労う。

 危うく、ぐしゃ・・・───とされるところだったぜ。


 オゥイェー


「……まぁ、おかげでオーク肉を、またも半分以上失ってしまった……」

 マイサンを失うことに比べれば遥かにマシなのだが……。


 がっくり。


 ……結局、恵美にお茶をぶっかけて顔射して───叔父さん大興奮…………じゃなくて、お茶をぶっかけたお詫びにオーク肉の残り半分を提供するということで手を打った。


 あれで、結構な量があったはずだけど、恵美さんたら意気揚々と男前に担いで持って帰りましたよ、すごぉい……。


 ───まぁ、どうせ売るんだろうけどね。


(いいなー)


 指をくわえて恵美の後姿を見送る高橋。


 いや、それにしてビジュアルがすごい。

 だって、見た目は可愛い女子高生が、血も滴る赤い肉の塊を担ぐという───すっごい絵面。


 ……まぁ、ハンマーを通学カバンに入れて持ち歩くような子だからね、あんまし気にしてなさそうだけど。


 ───ちなみに、ハンマーは冒険者用の装備なんだとか。


 サポーターとして、ダンジョンに潜るときの恵美の専用武器なんだってー。


 へー


 そして、なんであんなもんを持ち歩いているかというと……サポーターの訓練のためだそうだ。

 訓練という名目なら、ダンジョン開発企業の許可を得やすく、銃器以外なら持ち出してもOKらしい。


 ……っていうか、『銃』とかあるのね。


 その辺を恵美に聞いたら、「あんま好きじゃない」だそうで。あの子、銃撃ったこともあるんだって───……。


 すごぉい。


 ちなみに、銃の種類は主に自衛隊から払い下げられた64式小銃とか、豊和工業製の狙撃銃とか散弾銃。


 一部には輸入されたものもあるらしい。

 まぁ、輸入品はクッソ高くて一般人には手が出せないらしいけどね。……一般人とは???


 ま。つまり、銃がありふれたところにあるくらい、ダンジョンは危険な場所なんだろう。


 ……うん、絶対入りたくないな!


 あッ。

 あと、銃はあまり人気のない武器なんだって。


 それには諸説あるが、

 具体的には、ダンジョン内の環境はじつに様々で、狭い場所なども多く銃器の取り回しが困難なことと、

 音が大きく、敵に気付かれやすく───また遠くの敵をも集めやすいことが主な理由。


 他にも、近くにいるだけで単純にうるさいから───という理由もあり、とにかくあまり好まれてはいないらしい。


 日本人には馴染みがないけども、閉所で銃を使った時の耳へのダメージは思った以上に深刻なんだとか。

 ……アメリカ軍なんかでは、それを防ぐために耳栓等が推奨されるが、それをすると周囲の音が聞き取りづらくなり、やはり危険なんだそうだ。


 ───そして、なにより威力と弾数の制限というのが一番好まれない理由なんだとか。 


 ま、まぁ……。たしかにオークとかオーガくらいだったら、銃を数発撃ったくらいじゃ止まらなさそうだしな。


 一応大口径の銃──対戦車ライフルなんかもダンジョン探索時に準備されているというが、扱いが難しく、上記の制約が多いということで冒険者でも、銃を使うものは稀らしい。


 それでも、安定した威力と遠距離攻撃可能ということで好んで使う冒険者もいる。

 警察や自衛隊のダンジョン攻略部隊はやはり銃を使うものが多いんだとか。


 へー……(超興味ない)。


 ちなみに、銃器大国はぶっちぎりのアメリカ。

 とくに、米軍などはもっと強力な銃器をダンジョンに持ち込んでいるそうだ。



 ……対戦車ミサイルとかね。



 おっふ。すげぇな米軍……。


 それはさておき、ようやく邪魔者恵美がいなくなったことで高橋の一日が始まる。



   そう───……就活である!!



 今日は平日。

 つまり、ハローワークの日だーー。



 ………………ん? あれ? 平日?



「っかしいな~? さっき、恵美のやつ、学校休みとか言ってなかったか?……まぁ、いいや」


 JKの考えはオッサンにはわからん。

 そう決めつけてさっさと外出の準備をする高橋。


「じゃーポンタ。ちょっと出てくるから、留守番よろしく」

『わふッ♪』


 へっへっへ!


 尻尾をブンブン振っているポンタの頭を撫でつつ、庭に放してやる。

 恵美がいる間は玄関に退避させていたのだ。


 ……だって、恵美がいるときに獲物を持ち帰ったらやばいですやん?

 それがオークとかゴブリンだったら、R18展開を期待───……じゃない。言い訳できないじゃん。


 まぁー、いずれバレる気がするけど、何も面倒ごとを自分から引き寄せることもあるまいて。


「あんまし遠く・・に行くなよー」

『わふわふっ!』


 ……遠く・・がどこかは知らない。

 だけど、ダンジョン内はきっと広大に違いない。


 ポンタの安全を考えるなら、本当は放し飼いにしない方がいいのだろうが……オーガをワンパン(?)で絞めるポンタを見ていると、ちょっとやそっとでは魔物ごときには負けない気もする。


 だって、オーガを一瞬で屈服させてたし……。


『わふわふっ!』


 庭を駆けまわっているポンタをホッコリした目で眺めつつ、時計を確かめてハローワークに向かう。

 昼前───この時間帯なら混んでるということはないだろう。



 そうして、こうしてハローワークについたわけだが……。



「──どうですか? これとか、条件いいと思うんですけど」

「…………いや、これって全部、ダンジョン開発企業ですよね? しかも、雑務全般って、これ───サポーターのことですよね?」


 求人の情報検索でもろくなものがなかったので、職員対面で募集案件を求めたのだが……これだ。


 職員はあちゃ~って、顔してるけど、騙して就職させてどうすんのよ?!


「そ、そうですけど……。こう言っては何ですが───高橋さんの経歴だと、これ・・くらいしかないですよ?」

「すんませんねー。元ブラック企業なもので!」


 資格なし

 学歴低し

 経歴微妙───……そりゃ、ダンジョン開発系しかないわな!


「う、う~ん……。どうしてそこまで嫌うのか……。今時、高校生でもダンジョン開発系でお金を稼いでますよ?」


 知ってる……。

 超、知ってる。


 なんで嫌うのかって……?

 そんなもん決まってるだろうが───。


「とにかく、一度面接に行ってみられては?」

「いや、でも───ほらこれぇ!」


 募集案件に、ち~~~~さく書かれている特殊事項。


「怪我、病気の恐れあり! って書いてますやん!」

「そりゃそうですよ。……ダンジョン探索がメインなわけですし───その分、お給料と福利厚生がいいんですよ」


 いいんですよ? って、おま───。


「いやいや、おれはまだ死にたくないですよ。政府とかは巧みに隠してるみたいですけど、結構な数の死傷者が出てますよね?」


「ま、まぁ……それはそれの───ゴニョゴニュ。……し、しかしですねぇ、企業もその辺のサポートはしっかりしておりますし、適正の高い人なら、追加報酬もあるんですよ? 他にも、初期から適正有・・・の方は、初任給からして高いこともありますし……」


 どうもこの人は、高橋にダンジョン開発系企業を押したいらしい。

 ……これは多分、国策・・なのだろう。


 警察や自衛隊のなり手が少ないように、ダンジョン開発系も人手不足。


 だけど、強制もできない───それがゆえに、こうしてハローワークで猛プッシュして、点数稼ぎをしているというわけだ。

 おそらく、ハローワークの職員にもノルマがあるのだろう。


「とにかく! 別の案件をお願いしますよ」

「う~ん……今日のところはホント、これくらいしかないんですよ、申し訳ありません」


 それ以上食い下がらず、職員は頭を下げる。

 まぁ嘘ではないだろう。電子検索でもヒットがなかったし……。


「……はぁ、わかりました──出直します」

「もうしわけありません、何か良い案件があればまたお知らせします」


「はーい」


 ションボリした高橋。

 ハローワーク通いにも慣れてきたとはいえ、はや半年……。

 失業保険の申請ではお世話になったものだが、その保険も切れてしまってはお先真っ暗だ。


 ……ま、まぁ、今のところはポンタのおかげで食うには困ってはいないが。


「ん? これって───……」


 役所などに置かれている血圧計。

 たしか───……。


「あ、図られます?」

「え、えぇ。一応……」


「そうですね! 適正があれば、初任給も──」

「それはいいですから!」


 ……とはいえ、適正が高ければ高いほど給料がいいというのはなかなかに魅力的。

 もし……万が一、適正が高いなら考えるくらいはしてみてもいいかもしれない。


 そ、そう。

 考えるだけね、考えるだけ。


「よ、よし!」

 ───ちょ、ちょっとだけ試してみるか。


「……うわ、湿ってる」

 前に使った人が結構汗かきだったのだろう。腕を通した血圧計兼適正測定器はしっとりとしていた。


 説明書きを見るまでもないが、腕を通してスイッチをいれるだけ。

 しかし、テレビで聞いたのと同様に、この血圧計──新しい機能として適正測定もできるという優れモノだ。

 メモリの見方がシールで張られているので、チラ見すると、血圧、脈拍と、適正『Lv』が表示されるらしい。


 Lvは最大50までの表示。


 ……なんで血圧でLvがわかるんだろうな?───ま、いいか。



 ポチー



 ヴィーーーーン……。と低振動を立てて血圧計のポンプが腕を締め上げていく。

 ギュリギュリと、腕を締め上げる感覚がなかなかに痛い。

 絞められた腕を血流がドクンドクンと流れていく感じに顔が歪む……。


 ギュリギュリ……。どくんどくん。


 痛い痛い。


 ヴイーーーーーーーーーーーーーーーーーーン……ギュリギュリギュリ───。


「ん? な、なんか??」


 ギュリ、ギュリリ!!


「ちょ、」


 ギュリギュリギチチチ……。


 痛い痛い!

 ちょっ、ちょっとなんか痛ーい。


「た、高橋さん?」

「な、なんか、これ? え、これが普通なんですか?! な、なんか───」


 ギュリリリ、ギチギチギチチチチ……!


「い、痛い! 痛い痛い! これ痛いんですけど?!」


 え? こーゆーもんだっけ?!

 なんか、ギチギチギチチチチって、聞いたこともないような音してるんですけど───って、痛い痛い痛いッ!!


「え? あれ? そんな馬鹿な?! 私もさっき使ったばかりですよ?! 私、こうみえて血圧高いんで──」


 聞いてねーよ!

 つーか、しっとりしてるのアンタの汗かいッ! いたたたたたたたたッ!


「ちょ、こ、壊れれてる! これ壊れてる!!」

「あ、わ! ほ、ほんとうだ! 高橋さんの手が凄い色の変色している!」


 み、見とる場合かぁッ!?

 いたたたたたたたたたた! マジでいてぇぇ!


「……うわ! キモッ───。俺の手ぇ、キモーーー! そして、痛ぁぁぁああ!!」


 ミシミシミシ……!


 血圧計のポンプによって、限界まで締め上げられている手が真っ青を通り越して真っ白に!!

 いやいや、冷静に見てる場合じゃない。いったーーーーーーーー!!


「き、ききき、緊急停止ボタンを押してください! は、ははは早く!」


 押してる!

 めっちゃ押してる! むしろ連打してます!!


「……いや、なんか、反応しないんですけど───っていうか、そう思うなら、アンタ押してくださいよ!! な、ななんな、なんか、押しても押しても、びくともしないんですけど───」


 さっきから押してますよ!

 めっ~~ちゃ連打してますからぁぁああ!!


 っていうか、血圧計の緊急停止ボタンなんて押す機会早々ないよ!?

 なんなら、押したの人生初だわ!



   これ───止まらんのかいッ!



「えぇ? そんな馬鹿な!! うわ───……なんか煙が! 絞め過ぎでモーターが焼け付いてる?!」

「冷静に見てないでなんとか───あっつ!! いったぁぁあ!!」


 あっつくて、いったぁぁあああ!


 ……そして、焦げ臭い─────────ボンッ!!


「「うっぉわわ?!」」


 び、びびび、ビックリしたぁーーーーーーーーー!!

 & あっついし、いったぁぁああッ!!


「ひぇぇぇえ……! 空気圧強すぎて破裂したみたいですー」

「みりゃわかるわ!! いってぇぇぇええ!」


 血圧計って破裂するもんなん?!

 爆発音って、こんな至近距離で聞いたの初めてだわッ!


 あーもう、俺の腕がはちきれたかと思ったっつーーーの!!


 ……見れば、血圧計がバチバチッ! とか、火花を飛ばしながらショートしている。

 ちょっと煙も出ちゃったりで……こんな光景、アニメでしか見たことない。


「す、すすすす──すみません! こ、これは業者にクレームを入れておきますので!」


「あったりまでしょ?!」

「本当に申し訳ございません……。あ、いります、これ?」


 ビーーーージャキジャキジャキ!


 と、血圧計の最期の仕事として、測定した(?)高橋のデータを検査用紙に書き込み吐き出した───ボォン!!


「うわッ! 爆発したぁ?!……あ、血圧高いですねー! はい、どーぞ」

「───いるかぁぁぁあああ!!」


 血圧、凄い数字になっとるがな!!

 なんやねん、上限値、250って、そんな数字見たことないないわッ!

 半面、脈拍が0って……脈止まっとるがな?! ど、どんだけのパワーで締め付けてんだよ!!


 ……つーか、ボォン!! って、爆発しとるがなぁぁぁああ!


「ったくもーーーーーー! 帰るッ。おうち帰ゆッッ」


 ちなみに、



  …肝心のダンジョン適正値は『Lv0』だ。



 …………。


 ……。


 バッカばかしい!!

 んなもん、故障してるに決まってるわぃ。


 ───結局、適正値はわからないやら、ボォン! だわ、血圧が上限突破だわで、最悪だ。


 なんなら、血圧計怖くて、もう二度と測れんわッ!


 あーもう!!

 今度からお医者さんがやる、手動血圧計にしてもらおう。

 あのシュポシュポするやつね。さすがにあれならボォン! は、ないだろう。


「ほんとうに、申し訳ございません……」

「ふん! 本当だぜ!!」


 くさくさした気分で高橋は帰路についた。

 もう今日は厄日だ厄日。こんな時はさっさと酒飲んで寝るに限る。



「この度は、本当に───お、おつかれさまでしたー」



 ぺっ!


 職員の声に振り替えることもしない高橋。

 別にあの人が悪いわけじゃないけどさー。




※ ※


 ぷるるるるるるるる♪


 ぷるる──……。



 ───がちゃ。



 高橋が帰ったあとのハローワークにて、かなりの剣幕で先ほどの職員が電話越しにクレームを入れていた。


 締め切った室内でありながら怒声が事務所から漏れている。


「……っかしいですよねー! ええ? どうなってるんですか、あれぇ! たしか、ダンジョン管理局の検査を受けて、先日納入したばっかですよね?!」


 電話先にまくし立てる職員。

 電話ごしの相手の会話は聞き取れないが、かなり恐縮しているらしい。


「……えぇ、はい。そうです。ボォン! ですよ! ボォン! いや、ボンッ! だったかな──────は? あり得ない故障ぉぉお?……なんですか、それ? ウチの扱いが悪いって言うんですか?! お゛ッ!!」


 ちょっとばかり相手の対応が悪かったのだろう。

 ややとげのある口調で電話越しに強いの対応。


「………………え? あぁ、はい。──────は?? す、数値ぃ?」


 先ほど高橋が受け取らなかった検査用紙に目を落とす。


「え~っと、上限が250の───え? 血圧はどうでもいい? どうでもいいってアンタ……私の血圧舐めてます? 結構高いんですよ───へ? 適正Lv??…………適正Lvは───『0』ですね」


 その瞬間、電話越しの相手が一度口をつぐんだらしい。


 職員も眉根を寄せ、相手の反応を待った。


「…………は、はぁぁー? ありえないって──何言ってんですか、 ボォン! は、ボォン! ですよ! 早く新品寄越してくださいよ! ダンジョン開発企業へのエントリーシートには適正値の記入は絶対必要なんですから!…………え? 『0』はあり得ないって?……ですからぁ──────いくら最低値が・・・・Lv1・・・』からであっても、『Lv0』って出てるもんは出てるんですから!…………いい加減にしてくださいよ、目力さん・・・・!」





 プツッ……つーつーつー

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