第18話「姪っ子に○射しました」
チュンチュン……♪
チュン──────。
み~ん、みんみんみんみんみ~~~~。
雀のチュンチュンに混じって、蝉の主張が激しい残暑の厳しい日本の一軒家。
「ふぃー……極楽じゃー」
ポンタ基金──もとい、学術協力金のおかげで、久しぶりに冷房を付けた高橋は、上機嫌で皿をつついていた。
──もぐもぐ
『続きまして、
ダンジョン関連株のお知らせです』
テレビの音を聞くともなしに聞きつつ、マイ手料理に舌鼓をうつ。
……もっしゃ、もっしゃ、もしゃ
「ん……。簡単に漬けただけなのに旨いなッ」
「うん、イケるイケる」
今日のメニューは、オーク肉ステーキと付け合わせの塩もみ大根───もといマンドラゴラサラダ。
箸休めに、塩こぶとごま油で合えた、マンドラゴラのマリネ。
うむ! ビタミンCの味がうまい!!
肉だけでは賄いきれなかった栄養が体に染みわたっていくようだ。
普通に買えば中古車が買えそうな値段のマンドラゴラを、豪快にざく切りして頬張っていく。
うまいッ!
これがまた、旨いッ!!
しかも、これで、なんと材料費───ゼロ円!
──ひゅ~、リーズナブルゥ。
「もぐもぐ」
「しゃりしゃり」
…………。
「…………………………で、なんでお前がいるんだよ?」
「……ん? おいしいよ、これ」
「味を聞いてるんじゃねーよ!!」
頬っぺたをぷっくり膨らませながらオーク肉とサラダを頬張るセーラー服の女子高生───もとい、姪っ子の恵美。
「いやさ、何を普通に食ってんの?! お前、この前、めっちゃオーク肉持ってたやん!!」
「あれは売ったもん、結構な額でしたもん!」
パチンと手を叩いてご馳走様───……じゃない!!
「売ったもん───じゃねーよ! 人から貰ったもん売るなよ!!」
「貰ったんだから好きにしていいでしょー?!」
「いいわけあるか!!」
……出どころ聞かれたら怖いの!
(──っていう本音が言えないのがつらいッ!)
「いいじゃ~ん、いっぱいあるんだからケチケチしないでよ。可愛い姪っ子が遊びに来てるんだから、お肉の一枚や二枚」
「一枚二枚どころか、お前、5枚も食っとるからね! 俺だって一枚しか食ってないのに! っていうか、焼いたのも俺だし!…………あと、自分で可愛いとかいうな!」
──可愛いけどさぁ!
「えへへ」
「褒めてねぇ!」
ふー……! ふー……!
あーもー! コイツ疲れるわー。
育ち盛りなのはわかるけど、食いすぎだし───……どこにその栄養いってんだよ。
ぽよん……。
「……………………胸見すぎ」
「うっせぇ!」
畜ッ生ぉ……、無駄にでっかくなりやがってぇ! 揉むぞ! 揉みしだくぞ、ほんとにぃ!!
栄養全集中ッてか!
くっそー、俺の
「え~っと、『11───」
「警察呼ぶな!」
「えへへ」
「だから、褒めてねぇ!!」
ノーウェイトでコイツは、ほんとに……!
(くッそー……! ことあるごとに警察呼びやがって!)
3回目はさすがにアウトだぞ! アウトぉ!
「もー……叔父さん、うっさいよ? だいたい、警察呼ばれてもしょうがないんじゃない?」
「なんでだよッ! しょうがないことあるかぁ!……人を犯罪者みたいに───」
しかし、動じない姪っ子は、ジト目で高橋を見つつ、視線誘導するように、じー……と───。
目が言っている「違うの?」と──。
ちゃうわ!!!
誰が犯罪者かぁぁあ!!
無職だけど、犯罪者ではない!!っていうか、無職は、犯罪とちゃうでぇ!!!
しかし、恵美の見ているその視線の先──。
おっふ
「…………あれは
「殺人鬼みたいに言うなっつーーーーの!」
そう思うなら来るんじゃないよ?!
何が「朝ごはん無いから食べさせてー」……じゃ!!
無職の叔父の家に
「あと、家がくっさい!」
「
「大事なことなので、二回いました。……っていうか、ほんと毎日、風呂入ってる?」
「入っとるわぁぁぁあああ!!」
無職だけど、風呂には入っとるわぁあ!!!
無職が風呂に入ってて、すみませんねぇぇ!!
あーーーもう!!
なんなん?!
コイツなんなん?!
「ほらほら、そんなプリプリしないでお茶でも煎れてよ」
「おう」
マンドラゴラの葉っぱから作った茶を恵美に注いでやる────────って、逆ぅぅぅうう!
「それ、逆ぅぅううう! 普通、怒ってる相手にお茶煎れない?!」
「ありがと」
「御礼を言えって言ってんじゃないっつーーーの! お茶煎れてる俺も俺だけどさー!」
もー……!
アカン、一回落ち着こう。テレビに集中集中……。
『へーそうなんですか?
ダンジョン適正なんてのがあるんですねー』
『えぇ、これが発見されたことにより、
ダンジョン開発は飛躍的に広がったのです』
(うわ、超〜興味ねーわ)
やたら高い声のニュースキャスターの女性と解説の男。
話題はダンジョン関連株の高騰と民間に拡大されつつある開放されたダンジョンのことらしい。
「それにしても、この大根どうしたの? めっちゃシャキシャキで美味しい」
「…………
嘘じゃないよ。
アト、大根ジャナイヨ───。
「へー。いいご近所さんだね? 隣のおばちゃん?」
「奴は敵だ」
引っ越し引っ越しうるせぇんだもん、あのおばちゃん。
「ふ、ふ~ん? まぁいいや、肉ばっかってのもちょっとアレだし」
「食っといてから言うなし」
まぁ、確かに大根…………じゃなくて、マンドラゴラが加わっただけで、結構食べやすくなった。
やっぱ野菜は大事だね、野菜。
「ほれ、食うか?」
「わ! ありがと!」
デザート代わりにスティックにしたマンドラゴラを恵美にもくれてやり、コリコリ齧りつつお茶を飲む。
野菜スティックは塩だけでもうまいが、味噌と混ぜたマヨネーズが一番うまい。
ちなみに、このお茶もマンドラゴラの葉から作ったお茶、……めっちゃ旨い。
……参考までに
「ずずー……うまい」
「ずずー……うまいね」
…………いや、なんなんこの空気?
『そうです。適正のあるものは、
長時間ダンジョンに潜ることができますが、
適正のない方が潜った場合、
酸欠のような症状をきたし、
最悪の場合…………命を落とします』
『そ、そうなんですねー。では、その
適性の有無はどうやって判断するんです?』
そろそろ帰ってくれないかなー、と思いつつ恵美をチラチラみつつも、動く気配なし。
「お前、学校は?」
「今日休みだよ」
…………なら、どっか遊びに行けよ!!
「じゃ、じゃーなんで制服着てんだよ」
「ん?……叔父さん喜ぶかと思って」
「おう──────……って、俺をなんだと思ってるんだよ!!」
「無職のダメ人間」
「当ってる! 当たってるけどぉぉぉおお!!」
刺さる。
刺さるから、やめて!!
たしかに制服とか好きだけどぉぉおおおお!
お前が姪っ子じゃなきゃなーーーーー!!
……ああ、もう! 本音でそうになるやんけ!
「ったく……」
叔父の家で暇つぶしすんなよ。
友達いないのか? コイツ。
「叔父さんと一緒にしないでよ」
「心を読むなッ!」
「叔父さんは顔に出過ぎなんだよ。あと、姪っ子の身体をジロジロみない」
「うるッせぇわ!!」
見ても減らねーだろうが!!
くそー。無駄に出るとこ出やがって……!
だいたい、スカート短いんだよ! 年食うとなぁ、胸もいいが足もいいんだよ~!
あー……いい太ももしやがってー。
眼福じゃねーか。
「も、もう、エッチなんだから」
照れ照れ……って、
可愛いな、こんちくしょう!
「うるへー」
とはいえ、コイツがいるおかげでクッソ興味のないテレビを見る羽目に……。
あー……チャンネル変えてもいいかな……。
最近は、ダンジョン開発の話題はどこに行っても聞かされるからうんざり。
朝っぱらから見てもクソ面白くもない。
こんなもん、興味がない人はとことん興味がないのだ。
ただ、SNSでも度々トレンドに乗る程、世間一般ではダンジョンは受け入れられつつある。
ま、うちの犬小屋がダンジョン化するくらいだしね!
しかし、それでも高橋は興味がない方だ。
最近は
……ちなみに、そのとある事情のダンジョンから収穫───もとい、とれたマンドラゴラのうち、冷凍できるものは冷凍し、煮物にできる者は煮物にした。
そのほかにも生食用として大量にサラダとして千切りにしたり、急いで買ってきた漬け樽に塩と共にぶち込んだ。
ぬか漬けにしてもよかったんだけど、手入れの面倒さと、ぬか床が手元になかったため断念。
とりあえずの腐敗防止として、塩だけでもしばらくは何とかなるだろう。
しかし、さすがに3m級の大根───マンドラゴラは全部は調理しきれなかった。
あとはお裾分けとして、姉貴は電話に出てくれなかったので、恵美を呼びつけて「食うか?」と聞いたら、「叔父さんの刻んだ野菜はパス」とかぬかしやがる!!
そのくせ、今日は家に押しかけめっちゃ食いやがったよ!
言葉と行動が逆なのよ! この子ぉ!
マンドラゴラだと言っても全然信じないしぃ……。
まぁ、いいんだけどね。叔父さんが刻んだ野菜は叔父さん臭がするんですよ、
きっと……クスン。
というわけで残ったものはコンポスターにぶち込んだけど、さすがにキャパオーバー……。
しかたなく、初日に仕込んだ『ゴブリン肥料』と一緒に庭の一角に撒いて畑として漉き込んでおいた。
ここでようやく、肥料が使えたわけだ。
油分と血の多かったオークとオーガはもうしばらくかかりそうだけど、比較的小さいゴブリンは見事に肥料として転生した───以後は美味しい野菜となってくれるだろう。
そして、さっそくオークを仕留めた『オークキラー』こと、コ〇リの鍬で畑を作ったというわけだ。
いやー……たまには身体を動かすのも悪くはない。
ポンタ君がすっごい『ふんふん!』と肥料を嗅いでいたけど……。頼むから掘り起こしてくれるなよ?
──畑には、とりあえず数種類の種を蒔いておいた。
収穫の速い葉物をはじめ、
一応スイカとか大根───……は、まだまだ一杯あるので、代わりに枝豆とかね。
それとキュウリにトマトといった、普通の野菜だ。
間違ってもマンドラゴラではない。
もっとも、肥料の量がそれほどでもなかったので小さい畑になってしまったが、オークとオーガの分が完成したら順次広げていこう。
つーか、オークとか生えてこないよね……?
スマホで検索してみたところ、モンスター素材の肥料で作られる野菜は高級品なんだとか。嘘か本当か、かなりの健康効果が見込まれるとか。
美肌効果に骨粗しょう症予防に、視力UP。そして、免疫の増加と、なかなか凄い。
……まぁ、野菜食ってれば健康になるのは当たり前な気もするけどね。
「しかし、まぁ───これでなんというか、自給自足体制できちゃったんじゃね?」
……おれ、天才じゃね?
野菜がうまく育つかどうかは知らないが、オーク肉は当分持つし、
マンドラゴラも保存した分で結構食べられる。
さすがに、肉と大根……マンドラゴラだけでは飽きが来るとは言え、米だけ買い足せばこれはこれでありな気もする。
なんたって───元手が0円!
これで野菜が取れればぶっちゃけ働かなくてもいいんじゃね……?
新種登録料だけでも結構な稼ぎだし、
おかげでお金の問題が少し解消されて今は余裕がある。
もっとも、新種登録料だけで食べていくなんて無理に決まっているので就活は継続するつもりだけどね。
……ただ焦る必要がなくなったので、今はノンビリ───。
『適性は、病院で検査することも可能ですが、
一番手っ取り早い方法は役場などに置いてる
血圧計を使うことですね───』
『ええ?! け、血圧計ですか?』
『えぇ。最新の血圧計はダンジョン適正も
図ることができるんですよ。
見たことありませんか?
脈拍、血圧の数字の他に、
Lvと表示されているやつです──』
へー……そうなん?
知らんかったわ───。
超~興味ない様子でテレビの音を流し読む高橋。
恵美は興味あるんだか何だかよくわからない様子でスマホとテレビの二刀流。
若い子は器用だね───。
『そんなに簡単なんですねー。
じゃ、もしかして、
私もダンジョン適正あったりしますか?』
『はっはっは! どうでしょうな、
人口の約1割が天然のダンジョン適正を
持っていますが、普通は適正なしでしょう』
『そうなんですか……。残念です』
解説の女の子はしょんぼりしているが、そんな適正いるか?
ダンジョンに潜るわけでもあるまいし……あれ? そういや、恵美って適正持ちなのか?
「お前、適正あんの?」
「あるよー」
あっそ。
ずずー……あー茶がうまい。
……って、会話
『そう残念がることはありませんよ。
適性は後からでも十分に付きます。
そうですね……ワクチンのようなもの、
とでも言いましょうか──
……あるいは、免疫というか、』
『ワ、ワクチン……ですか?』
『あぁ、いえ。例えが悪かったですな……。
簡単に言えば、ダンジョンに
──ということです。
また、ダンジョン開発企業では、
ダンジョン産の成分を抽出したサプリメント
を冒険者に配布しています。
それで、天然の適正のない方にも、
ダンジョンでの活動が、
誰でも可能になるということです。
ま、もっと端的に言えば、
ダンジョン産のものを取り込めば、
誰でも適正が付くということです。
モンスターの肉なり、
ダンジョンの植物なり───』
………………え? マジ?
『ただし、気を付けてください。
政府が
無断立ち入りなどを
禁じていることに繋がるのですが、
……サプリメントや、
企業の実施している過程を経ずに、
モンスターの肉などを取り込んだ場合、』
ん?
なんだなんだ……?
『と、取り込んだ場合は───?』
ずずー……。
「あ、叔父さん、自分だけずるい。私のもお茶煎れて」
「……ほらよ」
……だから、目上の人を使うなよッ!
ったくもー。
『吐血して死にます』
「ぶっほぉぉおおおおおおおおお───」
「ぎゃぁっぁああああああああああ!!」
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