第16話「獲物その5………………たっか!! たぁぁっぁあああかーーーー」

 庭に燦然と輝くポンタの「獲物」を見上げて・・・・高橋は嘆く。

 嘆く──。


「あああああああああああああああ! そうだったぁっぁああ!! しまったぁぁぁあ! 昨日酔いつぶれてポンタを放したままだったぁぁ!」


 ……嘆く!!


 そう。自分で決めたルールを自ら放棄していた高橋。

 外出時と睡眠時は、ポンタから目が離せないので玄関に移動させる手はずだったはず……。


「な、な、な、なのにーーーーーーーー! 俺としたことがぁっぁあああああ!」


 『へっへっへ♪』とか言いながら目をキラキラさせているポンタ。

 そして、その足元にある白いナニか。


 ナニかっていうか───なんやねんそれ!!


何なん・・・?! なんなん、その動く大根・・・・はぁぁぁああああ! っていうか、あー……そのキモい顔した大根人間・・・・・・・・・・はどこから攫ってきた───ポンタぁっぁああ!」


『わふんっ!』


 わふん♪ じゃねーわ!


 なんやねんそれ!!

 ゴブリンでもオークでもオーガでもない!!



 あえているなら、渋い顔した巨大大根・・・・・・・・・じゃねーーーーか!



『コヒュー……コヒュー……』


 ───しかも、生きとるんかいぃ!! & めっちゃ虫の息やん!!


 なんでポンタはわざわざ生殺しで連れてくるの?!

 バカなの?! ネコなの?! ほんと、ネコかね君は───あ、犬だわ!!


「……ああもう!! また目力さんの電話ブッチしちまったじゃないかよ、思わずぅぅうう!」


 畜生! つい反射的に……!!

 これじゃ、二回とも塩対応どころか、いたずら電話並みの対応しちゃったよ!


 いくら相手が公務員でも怒るよね? さすがにおこるよね?!

 そしたら、またまた、めいっぱい警察とか自衛隊連れてきちゃったり──……。



「ああああああああ、謝らないと! 謝らないとぉぉぉおお!!」

 やだやだやだ! 警察やだ! 自衛隊やだぁぁあ!!



 プププ、プルルルルルル──────。


 プルルルルルルル!!



「じーざす! 出てくれないよーーーー! って、なにぃぃぃいいい!!」

『ルロォォォオオオ…………』


 だ、だ、だ、


「大根が立ち上がったぁぁぁああああああああああああ?!」

 ガチャ

『もしもしぃ! なんなんですか、さっきからぁ! いい加減にしないと警察に言いま』


 プツッ。ツーツーツー……。


 突如立ち上がった大根に、再びワンギリ。

 目力さんに応答する暇もなくワンギリ!!


 だって、しょうがないじゃん!!


 しょうがないじゃーーーーん!!


 大根が!

『ロォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ……!!』

 渋い顔した大根がががががががががががががが─────────『わふっ♪』


 べしぃ! と、ポンタの一撃。


 まるで、『おら、挨拶せぃ』みたいな感じでかるーく前足でしばくけども、その一撃が致命的だったらしく、ようやく起き上がった動く大根が、中ほどからボキィ! と折れ曲がる。


 その瞬間、渋い顔をしていた大根が、まるで劇画チックに表情を激変させると───。




『ヒャァァッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』




 きーーーーーーーーーーーーーーーーーん…………。



 一瞬にして、鼓膜が震えて周囲の音が聞こえなくなる。

 それどころか、頭がぐら~りと……。


(あ、わかった……)


 これ、あれだ。

 大根じゃなくて──────……。



「……マンドラゴラ・・・・・・じゃねーーーーかぁっぁあああ」


 おええええ……。びちゃびちゃ


 地面から引き抜くと精神を狂わせる悲鳴を上げるという魔物植物。

 至近距離で聞けば、命すら落とすこともあるというそれ──────。


 今回は地面から引き抜いたわけじゃないけど、命を引っこ抜いた・・・・・・・・せいで断末魔の悲鳴を上げた的な───???


 げふッ(吐血



「げ……ち、血吐いてる? おれ……??」



 あかん、これ───……死ぬ?

 死んじゃう……?


 なんか、視界が明るくなってきて、川の向こうに誰かが───。


 あぁ、

 誰かが……呼んでいる、声。……声、が───。



「高橋さーーーーーーーーーーーーーん!! 朝っぱらから奇声あげんじゃないわよ!! 通報するわよぉぉお!」

「あ、さーせん」



 ………………くそ、正気に戻っちまったぜ。



 いつものおばちゃんの声で正気の戻るとか───気分悪いわー。

 せめて、こう……美女とかさー。

 美少女とかのさーーーー!! 恵美以外のぉぉお!!


 だけど、世の中こんなもんよね……!


 三途の川を渡る寸前、引き留めてくれるのは近所のおばちゃんだったりなんてね!!


 ふんっ!


 とはいえ、危ない所だった。

 マジで意識が飛ぶところだったわ。


 ポンタに半殺しにされてだいぶ弱っていたせいか、マンドラゴラの悲鳴がだいぶ小さかったこともあるのだろう。

 そして、それ以上に……国家権力けーさつに通報されることの恐ろしさと言ったら……ぶるぶる。


 ぶっちゃけ、魔物の悲鳴ごときで意識が飛んでいる場合ではないッ。



 ……だって、通報されたらやばいもん。

 マンドラゴラの悲鳴どころじゃないよ?



 パトカー来ちゃうよ?

 精神どころか人生が終わるサイレンが響き渡ったら、高橋さん終了なのよ!!


 ……。


 …………。



「──っていうか、ポンタぁぁぁああ! 誰・が・大・根・持って来いって言ったぁっぁああ!!」



 …………。


 ……。



   『なぁ、ポンタぁ。

    今度は野菜もとってきてくれよー』


 …………って、言ってたわ俺ぇぇぇ!!


 あああああああ、言ってる!

 俺言ってる!!


「俺のせいかーーーーーーーー!!」


 そうだ、そうだった……!

 思い出したわ、昨晩のことぉぉお!


 あああああああ、やってしもうたぁ!!

 畜生ー!

 ポンタ別に悪くねぇ……。いや、悪いけどぉ!!


『わふわふッ♪』

「あああそうでしたー! 俺のせいでしたーーーーー! さーせん、ポンタさんんんん!…………って、ポンタくん、YOUは、俺の言葉分かるのぉ?!」


 野菜って言ったら、動く大根───もとい、マンドラゴラ取ってくるし!

 肉って言ったら、オーク捕ってきたしぃぃい……!


 え?

 じゃあ、もしかして、


「ま、『魔石』っていったから、オーガをとってきた、と……か?」


『わふ♪』

「……………………マジで?!」

 リアリィ??


 ───へっへっへっへ♪


『わんわんおッ♪』



 ……おっふ



 マジかよー……。

 リアルなのかよ……。


「ってことは、えーーー……?」


 ……あれ、ほ、ほんまもんの『魔石』なん?!

 お、億越え以上のサイズを優に超えるサイズの──────極大クラスの『魔石』なん?!


『わふん~♪』


 うっわー。全肯定されたぁ……。


 ええー…………。

 嘘でしょー……。


 ちょっとちょっとぉ……。

 マジ、この犬小屋のなかどーなってんの?


 国ですら価値をつけることすらできないほどの巨大『魔石』が取れるダンジョンて、アンタ。


 ……そんなんありうる?


 それに、このマンドラゴラもちょっとおかしくない?

 なんかデカくない?!


 ホラぁ、ファンタジー小説とか、ゲームで出てくるマンドラゴラって、もっとこぅ───……。


   スマホぽちー


「『ダンジョン』『マンドラゴラ』っと──」

 

 スマホを恐る恐る検索。

 すると、見事にヒットしたのは、小さなサイズのマンドラゴラ。


「……って、ほらぁ!」


 マンドラゴラって、これじゃん!!

 このサイズ・・・・・じゃん!!


30cmが普通のサイズ・・・・・・・・・・・って書いてるやーーーん!」


 そう。スマホ画面に表示されているのは、小さな小~さなサイズのマンドラゴラだ。

 ……というか、それが通常サイズらしい。


 人面相が浮かび上がったかぶのような根菜型モンスター。

 それがマンドラゴラだ。


 見つかるのは、稀に上層。それ以外は中層で発見されることが多い魔物植物だ。

 伝承の通り、地面から引き抜くと悲鳴を上げて収穫者の命を奪うそれ。


 もっとも、しっかりと対策すればさほど難しくないらしく、

 もっぱら、中層での価値のある魔物資源・・・・のひとつとみなされている。


 でも、

(……間違っても、こんな渋い顔したオッサンっぽい巨大大根じゃねーーーよ!)


 ───ちなみに普通サイズのお値段

「…………って、一本、150万円んんんンンン?!」



    たッッッッか!!


    たぁぁぁあッッッかぁぁぁああ!!



 ……ア、アホでしょ。


 こんな動く大根に150万円って……。


 っていうか、スマホに乗ってるこのサイズって、それなりに流通しているサイズらしい。

 しかし、ポンタが捕ってきた大根───もとい、『ジャイアントマンドラゴラ』とでも呼称すべきそれは、……なんと堂々たる3m・・



   さ・ん・メー・ト・ル



 超ぉぉぉデカぁぁぁあイ。


 ……単純に重量で換算すれば、普通のマンドラゴラの100倍くらいはありそうだ……。 


 ひゃくばい 


 え。

 ……まさか、150万円の100倍とか──────……。


 ……え。1億5千万円ってこと??


「ははは、ないない」

 ない…………よね?





 スマホ、ポチー。





  【マンドラゴラ】:

  主に中層で収穫される魔物植物。

  抽出される成分には未知のものも含まれるため、

 現在研究用素材として高価で買い取りが行われている。

  また、毒性は含まれておらず、食用可能。

  非常にあっさりとしていて美味───。



 あー……高値で買い取ってくれるのねー。


 そして、美味。


 美味かー…………。


 ……って、これ書いた奴、食ったんかい!!

 このキモい顔つきの動く大根を?!



   ゆ、勇者かッ!?



 未知のものも含まれるとか書いてるのに、よー食うたな?!

 そして、『未知のもの』って言い切ってるくせに、毒性はないとか矛盾してない?……別にいいけどさー。


 それにまぁ……食えるなら食えるでありがたい。

 大根100本分と思えば、まぁ…………あり寄りのありか?


 だって、いくら高価だと言われても、一般人じゃ売れないしね……。


「だーーーーーー! でも、1億だぞ! ちっくしょーーーーーーーーー!!」


 もし、とっくにダンジョン開発系の企業に就職してたら、このマンドラゴラも売れた可能性がある。

 そうすりゃ、1億5千万の稼ぎがあったかもしれないと思うとやるせない。


 くッそー……。やっぱダンジョン開発企業とサポーターとかの契約結んでダンジョン素材を売れるようにしたほうがいいかな?

 それまでなんとか、保存すれば───。




  【備考】:

  非常に高価ではあるが、生物の一種であり、

  収穫後は急激に鮮度が低下する。

  即日の買い取り処置が推奨される。

   

  食用の場合、冷凍などの手段を講じる必要あり───。



「───……ブル・シットド畜生!!」

 アシ早い・・・・んかい!

 ……結局、食うしかできないやんけッ!!


 あぁ、もうー!!

 そんなら、記録するだけしたら、全力で食うたるわい!!


「急げ、ポンタぁぁあ!」

 今日は大根フルコースじゃぁぁぁああああ!!


 大慌てて台所に取って返した高橋は桶と包丁片手に、庭でせっせとマンドラゴラを仕込んでいくのだった。




 …………ちなみに、めっちゃシャキシャキで美味でした。あ、オーク肉とあうわ、これ。




 チーン♪


※ 本日のポンタの戦果:

  とにかくデッカいマンドラゴラ ※


《クラフト:マンドラゴラの塩漬け

      冷凍マンドラゴラ


《料理:マンドラゴラのサラダ

    マンドラゴラのふろふき大根

    マンドラゴラのステーキ

    オーク肉とマンドラゴラの水炊き

    オーク肉のステーキと、

     マンドラゴラの照り焼き

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